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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成12年長審第53号
件名

漁船第五十八安栄丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年3月7日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(平野浩三、亀井龍雄、河本和夫)

理事官
喜多 保

受審人
A 職名:第五十八安栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
右舷側中央部の船底外板に破口、プロペラに曲損

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年7月1日03時40分
 長崎県平戸島東岸

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十八安栄丸
総トン数 19トン
登録長 17.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 190

3 事実の経過
 第五十八安栄丸(以下、「安栄丸」という。)は、長崎県平戸島周辺海域で中型旋網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか10人が乗り組み、いわし漁の目的で、船首1.0メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成10年6月30日15時30分長崎県楠泊漁港を発し、同港から南西方約9海里の平戸島南端沖合の漁場に向かった。
 ところで、A受審人の就労状況は、連日出漁し、楠泊漁港を夕方出港して翌朝帰航し、毎日4ないし5時間の睡眠時間をとるものであった。
 同日17時00分A受審人は、漁場に達して操業を行い、翌7月1日02時10分牛ケ首灯台から262度(真方位、以下同じ。)8.5海里の地点において、いわし300キログラムを獲たところで移動することとし、単独の航海当直で、いすに腰掛けて手動操舵により平戸瀬戸北方約3海里の漁場に向けて発進したが、そのころから寒気と頭痛がして風邪薬を服用した。
 A受審人は、平戸島東岸に沿って北上し、03時25分青砂埼灯台から218度3.6海里の地点に達し、針路を028度に定め、機関を全速力前進とし、8.0ノットの対地速力で航行中、発進時服用した風邪薬により眠気を催したが、居眠りに陥ることがないと思い、休息中の乗組員を昇橋させるなどして居眠り運航の防止措置をとることなく、いすに腰掛けたまま続航した。
 03時35分少し過ぎA受審人は、青砂埼灯台から216度2.2海里の地点において、同針路同速力で手動操舵により進行していたところ、居眠りに陥って、操舵輪をわずかに左に回し、徐々に左転を始めたことに気付かず、03時40分青砂埼灯台から229度1.9海里の地点において、安栄丸は、船首を305度に向け、陸岸から張り出した浅瀬に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力4の南東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 乗揚の結果、近くの僚船の援助で離礁し、右舷側中央部の船底外板に破口、プロペラに曲損をそれぞれ生じ、ソナーの送受波器が大破し、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、平戸瀬戸東岸沖合を北上中、居眠り運航の防止措置が不十分で、浅瀬に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人が、夜間、平戸島東岸沖合を単独の航海当直で、北上中に眠気を催した場合、漁場発進時に風邪薬を服用して居眠りに陥るおそれがあったから、休息中の乗組員を昇橋させるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら同人は、居眠りに陥ることがないと思い、休息中の乗組員を昇橋させるなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥って浅瀬に向かって進行して乗揚を招き、右舷側中央部の船底外板に破口、プロペラに曲損及びソナーの送受波器を大破させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項に規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する 





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