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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成11年門審第87号
件名

漁船第十八新興丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年3月9日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(佐和 明)

副理事官
新川政明

受審人
A 職名:第十八新興丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
船底キール部に擦過傷、舵頭材を損傷

原因
居眠り運航防止措置不十分

裁決主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年12月29日03時30分
 福岡湾湾口

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八新興丸
総トン数 19トン
全長 23.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 529キロワット

3 事実の経過
 第十八新興丸は、長崎県郷ノ浦町大島漁港を基地としてぶりはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、船首1.05メートル船尾1.90メートルの喫水をもって、平成10年12月29日02時40分福岡県博多漁港を発し、大島漁港へ向かった。
 ところで、A受審人は、ぶりが正月用として年末には高値で売れることから、12月に入ってからは、連日16時ごろ大島漁港から出漁し、翌朝03時ごろまで対馬と壱岐の間の海域において餌となるいかを釣り、続いてはえ縄漁を行い、その日の13時ごろこれを終えて大島漁港に戻り、獲たぶりをいけすに入れたのち再び16時ごろ出漁するという操業を繰り返していた。そして、乗組員全員は、いか釣りをしている間に3ないし4時間ずつの休息を交替でとることができるだけであったので、睡眠不足と疲労とが蓄積された状態となっていたが、12月28日にようやく連続操業を終え、いけすのぶりを2回に分けて博多漁港の魚市場に運んだのち帰途に就いた。
 こうして、A受審人は、単独で操船に当たって博多漁港を出航し、同月29日03時05分残島灯台から068度(真方位、以下同じ。)
 520メートルの地点に達したとき、針路を西浦埼と小机島との間に向首する290度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて12.0ノットの対地速力で福岡湾内を同湾口部に向けて進行した。
 間もなくA受審人は、福岡湾内に多数の大型船が錨泊しており、これらを右転しながらかわして続航し、03時22分西浦岬灯台から097度2.1海里の地点に至って針路を元に戻したとき、正船首方向わずか左1.7海里ばかりにクタベ瀬南西灯浮標の灯火を視認し、同灯浮標の北東側にはクタベ瀬などの浅礁域が拡延していることを知っていたものの、同灯浮標にもう少し近づいてから針路を左に転じるつもりで、操舵室内のいすに腰掛けたまま当直を続けた。
 やがてA受審人は、睡眠不足と疲労のほか、錨泊船をかわしたことの安堵感から眠気を催し始めたが、大島漁港まで約2時間半の航海であるので頑張れば大丈夫と思い、休息中の乗組員を起こして2人で当直に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとることなく進行するうち、いつしか居眠りに陥った。
 03時28分A受審人は、西浦岬灯台から080度1.0海里の地点に至り、クタベ瀬南西灯浮標の灯火を左舷船首9度850メートルに視認でき、浅礁域に向首していることが分かる状況であったが、依然として居眠りをしていてこれに気付かず、左転して同灯浮標を右舷側に見る態勢としないまま進行中、03時30分少し前ふと目覚めて右舷船首方近距離に小机島の島影を認め、あわてて機関を中立としたが及ばず、第十八新興丸は、03時30分西浦岬灯台から062度1,200メートルの浅礁に原針路、約6ノットの速力で乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力1の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果、船底キール部に擦過傷を生じ、舵頭材を損傷したが、同浅礁を乗り切ったのち僚船に曳航されて大島漁港に戻り、修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、福岡湾湾口部に向けて西行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同湾湾口部小机島南東方の浅礁域に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、単独で船橋当直に当たって福岡湾湾口部に向けて西行中に眠気を催した場合、連日の操業で睡眠不足と疲労とが蓄積された状態であったから、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員を起こして2人で当直に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、入港までしばらくの間頑張れば大丈夫と思い、2人で当直に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、福岡湾湾口部のクタベ瀬の浅礁に向け進行して乗揚を招き、船底部に擦過傷及び舵頭材に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。





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