(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年12月27日14時40分
徳島県棚子島南岸沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートキャンベラ |
総トン数 |
9.7トン |
全長 |
12.2メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
323キロワット |
3 事実の経過
キャンベラは、船体中央部に操舵室を設けたFRP製プレジャーボートで、A受審人が単独で乗り組み、知人1人を同乗させ、釣りの目的で、船首0.50メートル船尾0.95メートルの喫水をもって、平成10年12月27日09時00分和歌山県和歌山下津港の係留地を発し、10時20分伊島灯台から265度(真方位、以下同じ。)1.2海里の徳島県棚子島南岸沖合の釣場に至ったところで錨泊して釣りを行い、14時38分同釣場を発進して帰途に就いた。
ところで、棚子島は、徳島県蒲生田岬の東方2.5海里沖合に位置し、その東側に前島、伊島が順に並んでいた。また、棚子島南岸沖合には、伊島灯台から245度1,700メートルばかりのところに、東西幅100メートル南北幅300メートルのアシカ碆、更に同碆の北西方及び西方約1,100メートルに西ノ長碆及び二子碆と称する岩礁域がそれぞれ存在していた。
A受審人は、棚子島付近を数回航行したことがあり、同島南岸沖合の釣場近くに幾つかの岩礁域があることを知っていたが、これまでこれら岩礁域の水上岩から少し距離をとって無難に航過していたことから、同様に航行すれば大丈夫と思い、発航に先立って、海図第1104号に当たり、その拡延状態を詳細に確かめるなど、水路調査を十分に行わなかったので、釣場近くのアシカ碆北端部に干出岩が存在することを知らなかった。
こうしてA受審人は、発進直後から操舵室右舷側の操縦席に腰をかけて見張りと操船に当たり、14時39分少し前伊島灯台から261度1.3海里の地点において、針路をアシカ碆の水上岩と前島南端との中間付近に向く103度に定めたところ、折から水面下となって視認することができない同碆北端部の干出岩に向首する状況となったものの、釣場近くの水路調査を十分に行っていなかったのでこのことに気付かず、そのまま機関を全速力前進にかけ、22.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
A受審人は、アシカ碆の水上岩がいつもよりやや近いように感じたが、依然、このまま進行しても無難に航過するものと考えて続航するうち、14時40分伊島灯台から249度1,630メートルの干出岩に、キャンベラは、原針路、原速力で乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
乗揚の結果、右舷船尾船底外板に破口を、プロペラ及び舵柱に曲損を生じたが、来援した漁船によって引き降ろされ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、徳島県棚子島南岸沖合の釣場に向け発航するに当たり、水路調査不十分で、同釣場近くのアシカ碆に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、棚子島南岸沖合の釣場に向け発航する場合、同釣場近くに幾つかの岩礁域があることを知っていたのであるから、あらかじめ海図第1104号に当たり、その拡延状態を詳細に確かめるなど、水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまでこれら岩礁域の水上岩から少し距離をとって無難に航過していたことから、同様に航行すれば大丈夫と思い、発航に先立って、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、釣場近くのアシカ碆北端部に存在する干出岩に気付かず、これに向首進行して乗揚を招き、右舷船尾船底外板に破口を、プロペラ及び舵柱に曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。