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平成12年神審第75号
件名

プレジャーボートジール乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年3月16日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(小須田 敏、須貝壽榮、西林 眞)

理事官
高橋昭雄

受審人
A 職名:ジール船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
左舷側ドライブユニットの脱落、船底外板に亀裂

原因
錨地選定不適切

主文

 本件乗揚は、錨地の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年7月24日16時10分
 友ケ島水道沖ノ島南岸

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートジール
総トン数 7.3トン
全長 9.39メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 220キロワット

3 事実の経過
 ジールは、船内外機2基を備えた最大とう載人員12人のFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友ケ島水道に存在する和歌山県沖ノ島南岸においてキャンプをする目的で、自らの家族3人を乗せ、船首0.6メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成11年7月24日10時00分大阪港大阪区の係留地を発し、大阪府深日港に寄せて友人の2家族5人を同乗させたのち、14時30分目的地に向かった。
 ところで、A受審人は、重さ10キログラムの錨と直径3センチメートル長さ50メートルの化繊製錨索を用いてキャンプ予定地の沖合100メートルばかりの地点に錨泊し、搭載している水上オートバイを使ってキャンプ道具など荷物の陸揚げを行う予定で発航していた。また、同受審人は、これまでに沖ノ島周辺を十数回航行した経験から、その南岸は紀伊水道に面しているために南寄りの風波を直接受けるものの、北岸側は同風波から遮蔽(しゃへい)されることを知っていた。
 A受審人は、深日港を発進後、7.0ノットの対地速力で手動操舵により、沖ノ島の東側に位置する地ノ島の北岸に沿って西行し、15時30分友ケ島灯台から059度(真方位、以下同じ。)1.7海里の、両島間にある中ノ瀬戸の北口付近を航行していたとき、南寄りの強風とやや高い波浪を受けるようになり、沖ノ島南岸沖が錨地として適当でないことを知ったが、荷物の陸揚げが終わるまでの短時間の錨泊であれば何とか凌(しの)ぐことができると思い、同島北岸沖に錨地を選定することなく同瀬戸を南下した。
 15時42分A受審人は、友ケ島灯台から110度1,600メートルの地点で、徐々に右転して針路を北に転じ、南寄りの風波を船尾から受ける態勢となって予定錨地に向け1.9ノットに減速して進行し、同時50分友ケ島灯台から099度1,300メートルの、沖ノ島南岸から100メートル沖合で水深3メートルの地点において、船首から錨を投じるとともに錨索を40メートル伸出させ、船首を北に向けたままわずかな前進行き脚をもって陸岸に近づいて行った。
 A受審人は、陸岸に接近するにつれて波が高起する状況となったことから、沖ノ島南岸沖での錨泊を断念して同島北岸沖に移動することとし、自船を陸岸から離したのち揚錨しようと機関を後進にかけたところ、船尾付近の海面に浮遊していた錨索がプロペラに絡まり、機関を使用することも、揚錨することもできないでいるうち、16時05分沖ノ島南岸に向かって走錨していることに気付いたが、どうすることもできないまま風下に圧流され、16時10分友ケ島灯台から094度1,300メートルの地点で、ジールは、北に向首して沖ノ島南岸に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力5の南風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、付近には波高2メートルの波浪があった。
 乗揚の結果、左舷側ドライブユニットの脱落及び船底外板に亀裂を生じたが、来援した巡視艇によって引き降ろされ、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、友ケ島水道沖ノ島沿岸に錨泊する際、錨地の選定が不適切で、南寄りの強風と高起した波浪を直接受ける同島南岸沖で錨泊し、走錨したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、友ケ島水道沖ノ島沿岸に錨泊するため中ノ瀬戸北口付近を航行中、南寄りの強風とやや高い波浪を受けるようになった場合、同島南岸沖がそのような風波を直接受けるために錨地として適当でないことを知ったから、南寄りの風波を遮る同島北岸沖に錨地を選定すべき注意義務があった。しかるに、同人は、短時間の錨泊であれば何とか凌ぐことができると思い、沖ノ島北岸沖に錨地を選定しなかった職務上の過失により、南寄りの強風と高起した波浪を直接受ける同島南岸沖で錨泊し、陸岸に向け走錨して乗揚を招き、左舷側ドライブユニットの脱落及び船底外板に亀裂を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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