(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年1月9日03時33分
千葉県木更津市北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートブラックサバス2 |
総トン数 |
16トン |
登録長 |
11.85メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
339キロワット |
3 事実の経過
ブラックサバス2(以下「ブ号」という。)は、2基2軸を備えた最大搭載人員15人のFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人10人を乗せ、釣りの目的で、船首0.6メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成12年1月9日02時00分東京都江東区夢の島マリーナを発し、千葉県保田漁港沖合の釣場に向かった。
ところで、A受審人は、これまでプレジャーボートで釣りに出掛けるのが年に1ないし2回で、平成11年12月にヨット仲間がブ号を購入したことから、同月に4回ほど船長として乗船して釣りを行っていたが、そのいずれも東京湾アクアラインの北側で行っており、同アクアライン以南に赴くことは今回が初めてで、夜間の航海も初めてであった。
A受審人は、発航後、舵輪とマグネットコンパスを備えたフライングブリッジにおいて操舵に当たり、高速湾岸荒川橋を通過したのち荒川沿いに航行し、友人と操舵を替わって助手席に座り、操縦席で舵輪をもった友人に進路方向を指示するなどして、東京湾西水路に向けて南下し、03時05分少し前東京湾アクアライン風の塔灯(以下「風の塔灯」という。)に近づいたことから、自ら操舵につき、中ノ瀬航路の東方に向け針路を定めることにしたが、コンパスの針路を確かめないまま、右舷前方に見えた東京湾東水路中央第1号灯浮標の灯火を中ノ瀬航路第8号灯浮標の灯火と見誤り、その後もGPSやレーダーを使用するなどして船位の確認を十分に行わないで続航した。
03時05分A受審人は、風の塔灯から289度(真方位、以下同じ。)1,600メートルの地点に達したとき、中ノ瀬航路第8号灯浮標と思っていた東京湾東水路中央第1号灯浮標の灯火を右舷方に見て、自分では中ノ瀬航路北口の東方に向けて180度の針路に定めたつもりで、141度の針路になった状況のまま、10.7ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
A受審人は、その後東京湾アクアラインの橋梁灯群に気を取られ、依然、船位の確認を行うことなく続航し、03時29分東京湾アクアライン海ほたる灯(以下「海ほたる灯」という。)から183度1.4海里の地点に達したとき、海ほたる灯の灯火が近いことから不安を感じ、速力を7.0ノットに減じたのち、友人と操舵を替わり、キャビンに降りてGPSプロッターを調べたところ、木更津市北西方沖合に向いていることに初めて気付き、直ちにフライングブリッジに戻って針路修正をしようとしたが、ブ号は、03時33分海ほたる灯から173度1.8海里の地点において、原針路、原速力のまま木更津市北西方沖合に敷設されたのり養殖施設に乗り入れた。
当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、ブ号は、舵、左舷プロペラ及び両舷プロペラ軸に曲損を、のり養殖施設は損傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、東京湾西水路を航行し、中ノ瀬航路の東方に向かう際、船位の確認が不十分で、木更津市北西方沖合に敷設されたのり養殖施設に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、東京湾西水路を航行し、中ノ瀬航路の東方に向かう場合、不慣れな海域であったのであるから、GPSやレーダーを使用して船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、右舷前方に見えた東京湾東水路第1号灯浮標の灯火を中ノ瀬航路第8号灯浮標の灯火と思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、進路方向がずれていたことに気付かず、木更津市北西方沖合ののり養殖施設に向かって進行し、同施設内に乗り入れ、舵、プロペラ及びプロペラ軸の曲損並びに同施設に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。