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平成12年仙審第77号
件名

遊漁船海友丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年3月27日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(藤江哲三、根岸秀幸、上野延之)

理事官
大本直宏

受審人
A 職名:海友丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
船首右舷側船底外板に破口、釣り客1人が左肋骨骨折

原因
気象・海象に対する配慮不十分

主文

 本件乗揚は、高波の危険性に対する配慮が不十分で、波高の大きい河口水域への進入を中止しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年4月23日12時00分
 宮城県名取川河口

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船海友丸
全長 12.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 117キロワット

3 事実の経過
 海友丸は、船体中央部に機関室があって、その後部に船室とそれに続く操舵室を設けたFRP製遊漁船で、A受審人が父の甲板員と2人で乗り組み、遊漁船業の適正化に関する法律にもとづいた届出を県知事に行わないまま、釣り客7人を乗せ、遊漁の目的で、平成12年4月23日05時55分宮城県閖上漁港の船だまりにある定係地を発し、釣り場に向かった。
 ところで、閖上漁港は、仙台湾にそそぐ名取川の河口から約500メートル上流南岸に入り口がある、広浦と称する水域に船だまりを整備した港で、同港に出入航する際に通航する名取川河口の水域では、堆積した土砂で水深が浅くなって等深線が沖合に向かって舌状に張り出し、外洋のうねりが仙台湾から同水域に達して波高が高まるので、進入にあたっては慎重な操船を必要とするところであった。また、名取川河口の南北両岸には、東西方向に南導流堤及び北導流堤がそれぞれ築造され、両導流堤間の水路幅が約100メートルで、長さ約300メートルの南導流堤のほぼ中央部には閖上港導流堤灯台(以下「導流堤灯台」という。)が設置され、南導流堤の南側に隣接した陸岸沿いの水域には、南側と東側とを防波堤で囲われた泊地が建設されていた。
 発航して間もなく、A受審人は、折からほぼ高潮時の名取川河口水域に沖合から寄せて来るうねりを船首方から受けて同水域を通航したのち、06時40分閖上漁港南東方沖合約11海里の釣り場に到着し、前日東北地方南部を北東方に通過した低気圧の影響で東南東からの波高約1.5メートル周期約10秒のうねりがある状況下、漂泊して遊漁を行っていたところ、やがて、空模様の変化から天候が悪化することに気付いて早めに帰航することにし、10時45分導流堤灯台から119度(真方位、以下同じ。)10.8海里の地点を発進し、定係地に向け帰途に就いた。
 発進後、A受審人は、釣り客をそれぞれ船室と操舵室にある椅子に腰掛けさせて甲板員を見張りに就け、自ら操舵室で操舵操船に当たって名取川河口東方沖合に向け北上したのち、11時47分導流堤灯台から089.5度2.0海里の地点で、針路を南導流堤の東端を左舷側に替わすよう270度に定め、機関を対地速力10.0ノットの半速力前進にかけ、折から下げ潮の河口水域に向けて進行した。
 定針したのち、A受審人は、手動操舵で続航し、11時56分半導流堤灯台から087度580メートルの地点に達したとき、河口付近のうねりが大きく波高が2メートルを超えているのを認め、これまでに2メートルを超える高波の中で同水域へ進入した経験がなかったが、高波の合間に時折低い波が出現した機会をとらえて全速力で進入すれば何とか高波高域を航過できるものと思い、導流堤の南側に隣接した防波堤内の泊地に一時避難するなど、経験を超えた高波の危険性に配慮して同水域への進入を中止することなく、機関を極微速力前進として対地速力を4.0ノットに減じ、甲板員を甲板上に配置して後方から来るうねりの状況を報告するよう指示し、自船を通り過ぎていく大きい波高のうねりを左舷船尾方から受ける態勢で、進入の機会をうかがいながら進行した。
 こうして、A受審人は、前示針路のまま、南導流堤を左舷側に約20メートル離す態勢で高い波を数波見送りながら続航し、12時00分少し前南導流堤の東端まで約50メートルに達したとき、甲板員から低い波が来る旨の報告を受け機関を全速力前進にして増速を始めたものの、すぐに低い波が自船を通り過ぎて波高が大きい次の波に追い付かれ、間もなく波の進行側斜面に位置するようになって進行中、突然左転を始めた船体が導流堤に向けて急速に左回頭し、12時00分導流堤灯台から090度120メートルの地点において、水面下に設置された消波ブロックに、船首がほぼ205度を向いて乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
 乗揚の結果、船首右舷側船底外板に破口を生じ、釣り客渋谷茂雄が入院加療を要する左肋骨骨折を負った。

(原因)
 本件乗揚は、宮城県名取川河口水域において、沖合での遊漁を終えて同川上流の定係地に向け帰航中、河口水域に大きい波高のうねりを認めた際、高波の危険性に対する配慮が不十分で、進入を中止することなく進行してブローチング現象が生じ、船体が導流堤に向け急速に回頭したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、宮城県名取川河口水域において、沖合での遊漁を終えて同川上流の定係地に向け帰航中、河口水域に大きい波高のうねりを認めた場合、これまで経験したことのない高波だったのだから、進入を中止する措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、低い波が出現した機会をとらえて全速力で進入すれば何とか高波高域を航過できるものと思い、進入を中止する措置をとらなかった職務上の過失により、進入中にブローチング現象が生じ、船体が導流堤に向け急速に回頭して水面下に設置された消波ブロックに乗り揚げ、船首右舷側船底外板に破口を生じさせ、釣り客の1人に入院加療を要する左肋骨骨折を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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