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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成12年広審第69号
件名

漁船第十二浦郷丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年2月23日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(釜谷奬一、中谷啓二、横須賀勇一)

理事官
道前洋志

受審人
A 職名:第十二浦郷丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
船底に亀裂を伴う凹損、機関室内に浸水

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年8月20日05時30分
 島根県隠岐浦郷湾

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十二浦郷丸
総トン数 19トン
登録長 20.05メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 190

3 事実の経過
 第十二浦郷丸(以下「浦郷丸」という。)は、船体のほぼ中央部に操舵室を有するまき網漁業船団に所属するFRP製の灯船で、A受審人ほか甲板員1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、平成11年8月19日17時00分島根県隠岐郡の浦郷漁港西方に隣接する由良湾の係留地を発し、島根半島の美保関灯台東方約20海里の漁場に向かった。
 浦郷丸の操業は、網船3隻と運搬船及び灯船である自船が船団を組んで、いわし、さば、あじ等の漁獲を行うもので、主な漁場を隠岐諸島の周辺と島根半島沖合としており、同半島沖合の漁場に向かうときは、17時頃発航して約2時間半かけて漁場に到着し、その後は魚群探査に引き続き集魚を行い、夜間操業の後、翌日の04時頃僚船と共に漁場を離れ帰途に就くものであった。
 A受審人は、平素、3人の乗組員体制で灯船業務に従事し、適宜交代して操業に従事していたが、同月17日の操業日からは1人が欠員し、2人体制となって運航することになり、甲板員が不慣れであったことから係留地を発航後、帰港するまでの間は航海当直及び操業中の作業を連続してほとんど1人で行う状況にあった。
 A受審人は、発航日当日、09時ごろ係留地に帰港したのち約3時間の睡眠を自宅でとり、15時ごろ再度帰船して諸準備を終えて発航に至ったもので、このような就労状態が2ないし3日間連続していたことから、疲労気味となっていた。
 こうしてA受審人は、翌20日04時ごろ美保関灯台から022度(真方位、以下同じ。)10海里の地点で操業を終えて帰途に就くこととし、甲板員を休息させて1人で船橋当直に従事し、針路を隠岐諸島島前の西ノ島西側の浦郷湾湾口に向首する318度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ17.7ノットの対地速力で進行した。
 05時17分A受審人は、麦山鼻灯台から134度4海里の地点に達し、同灯台の灯光を左舷船首約3度に認め、浦郷湾湾口に差しかかったとき、針路を310度に転じて手動操舵に切り替え、同湾湾奥にある由良湾の係留地に向けて続航した。
 転針した頃A受審人は、今迄なんとか耐えていた眠気が強くなったのを知ったが、入港するまであとわずかだからがまんできると思い、休息中の甲板員を昇橋させ、2人で当直にあたるなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、操舵室右側のいすに腰かけた姿勢となって遠隔操舵により手動で操船を続けるうち05時24分ごろ麦山鼻灯台から140度1.7海里ばかりの地点に達したとき居眠りに陥った。
 浦郷丸は、次第に船首を右偏しながら西ノ島南岸に向いて続航し、05時30分麦山鼻灯台から090度100メートルの地点に原速力のまま322度を向首して乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で日出は05時30分であった。
 乗揚の結果、浦郷丸は、船底に亀裂を伴う凹損を生じ、機関室内に浸水したが、救援船の援助を得て引き降ろされ、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、島根半島沖合の漁場を発航して島根県隠岐の由良湾に向け北上中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同県隠岐島前の西ノ島南岸に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、1人で航海当直に就き島根半島沖合の漁場を発航して島根県隠岐の由良湾に向け北上中、強い眠気を感じた場合、そのまま当直を続けると居眠りに陥るおそれがあったから、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員を昇橋させ2人で当直にあたるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、入港するまであとわずかだからがまんできると思い、甲板員を昇橋させ2人で当直にあたるなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、西ノ島南岸に向首して乗揚を招き、浦郷丸の船底に亀裂を伴う凹損を生じさせ、機関室内を浸水させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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