日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成12年横審第100号
件名

漁船富士丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年2月28日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(勝又三郎、猪俣貞稔、西村敏和)

理事官
伊東由人

受審人
A 職名:富士丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
右舷船首部船底に破口、転覆のち廃船

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年10月7日16時23分
 神子元(みこもと)島西方沿岸

2 船舶の要目
船種船名 漁船富士丸
総トン数 2.0トン
登録長 7.34メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 40

3 事実の経過
 富士丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、平成11年10月7日09時00分静岡県下田港を発し、09時30分神子元島周辺水域の漁場に至り、錨泊して操業を開始した。
 A受審人は、数回漁場を変え、14時00分ごろ神子元島西方水域に移動し、錨泊して操業を行っていたところ、16時00分少し前雨が降り始め、その後、風雨が激しくなってきたので帰港することにして甲板員2人に揚錨させたのち、同時18分神子元島灯台から241度(真方位、以下同じ。)190メートルの地点で、神子元島北西沖に点在する岩礁を避けるため、船首をいったん石廊埼に向ける290度とし、右舷船首方250メートルのところに見る岩礁を大回りで替わせるよう右舵5度とした状態で、機関を毎分1,000回転にかけて4.0ノットの速力で発進し、それまで節電のため停止していたGPSプロッターの設定作業を始めた。
 A受審人は、南西方からの風浪により右方に圧流されて岩礁に著しく接近する進路となっていたが、岩礁を大回りで替わせる進路にしているので大丈夫と思い、GPSプロッターの設定に没頭し、神子元島周辺の岩礁から十分に離れているかどうか船位を確認することなく進行し、16時23分富士丸は、神子元島灯台から294度310メートルの地点において、同島北西沖の干出岩に乗り揚げた。
 当時、天候は雨で風力4の南西風が吹き、視程は1海里で潮候は高潮時であった。
 乗揚の結果、富士丸は右舷船首部船底に破口を生じて転覆し、下田港に引きつけられたが、のち廃船とされ、A受審人ほか2名は僚船により救助された。

(原因)
 本件乗揚は、神子元島西方沿岸において、岩礁の点在する漁場を発進して帰港する際、船位の確認が不十分で、折からの風浪によって流され、岩礁に著しく接近する進路となって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、神子元島西方沿岸において、岩礁の点在する漁場を発進して帰港する場合、折からの風浪によって流され岩礁に著しく接近することのないよう、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、岩礁を大回りで替わせる進路にしているので大丈夫と思い、同島周辺の岩礁から十分離れているかどうか船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、岩礁に著しく接近する進路のまま進行して乗り揚げ、右舷船首部船底に破口を生じて転覆させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION