(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年8月1日16時50分
愛知県師崎水道
2 船舶の要目
船種船名 |
交通船テクノI世 |
全長 |
11.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
169キロワット |
3 事実の経過
テクノI世は、最大搭載人員が12名のFRP製交通船兼作業船で、A受審人が1人で乗り組み、知人9人を乗せ、周遊の目的で、船首0.20メートル船尾0.80メートルの喫水をもって、平成11年8月1日08時00分名古屋市堀川右岸にある名古屋マリンクラブの定係地を発し、愛知県佐久島漁港に向かい、10時30分ごろ同漁港に至り、海水浴や食事をとるなどして休息をとったのち、16時30分同漁港を出港して帰航の途に就いた。
ところで、A受審人は、発航に先立ち、往路と同じ航路を反対方向に航行することとして船内備え付けの海図に当たり、復路の予定航路の確認を行ったものの、羽豆岬沖合には浅礁域など存在しないものと思い、水路調査が不十分となり、羽豆岬と羽島灯標の間にある浅礁域の存在に気付かなかった。
A受審人は、16時39分少し前日間賀港第19号防波提西灯台から095度(真方位、以下同じ。)670メートルの地点に達したとき、針路を愛知県日間賀島と同県篠島との間を航行する249度に定め、機関を全速力前進として20.0ノットの対地速力とし、手動操舵によって進行した。
A受審人は、16時43分少し前羽島灯標から088度1,670メートルの地点に達したとき、右舷船首に自船の前路を左方に横切る態勢の漁船を認め、同時44分速力を5.0ノットに減速し、右転して同船を避航し、同時47分少し過ぎ羽島灯標から087度620メートルの地点で、同船が前路を替わったとき、羽豆岬沖の浅礁域の存在に気付かないまま、針路を281度に定めて速力を9.0ノットに増速し、同浅礁域に向首した状況で続航した。
A受審人は、16時49分羽豆岬沖の浅礁域に300メートルと近づいたが、水路調査を十分に行っていなかったので、依然、前路の浅礁域に気付かないまま進行中、テクノI世は、16時50分羽島灯標から006度160メートルの地点において、原針路、原速力のまま、羽島灯標と羽豆岬の中間に存在する水面下に没していた干出岩に乗り揚げ、これを乗り切った。
当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果、テクノI世は舵及び推進器等に損傷を生じて航行不能となり、後部船底外板に破口を生じて沈没し、のち引き揚げられたが廃船処分とされ、A受審人及び同乗者は救命浮器などに掴まって脱出した。
(原因)
本件乗揚は、師崎水道において、愛知県佐久島から名古屋市の定係地に向けて帰航する際、水路調査が不十分で、羽豆岬と羽島灯標との中間に存在する浅礁域に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、師崎水道において、愛知県佐久島から名古屋市の定係地に向けて航行する場合、水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、羽豆岬沖合には浅礁域など存在しないものと思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、羽豆岬と羽島灯標との中間を進行し、前路の浅礁域に著しく接近していることに気付かず、同浅礁域に乗り揚げ、舵及び推進器等に損傷を生じさせて航行不能となり、後部船底外板に破口を生じさせて沈没させるに至った。