(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年10月16日03時35分
瀬戸内海安芸灘 桴磯灯標南方
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船北斗丸 |
総トン数 |
499トン |
全長 |
71.0メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,029キロワット |
3 事実の経過
北斗丸は、専ら、広島県呉港と大阪港両港間において鋼材の輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で、A受審人ほか5人が乗り組み、鋼材約1,685トンを積載し、船首3.90メートル船尾5.16メートルの喫水をもって、平成10年10月16日00時55分呉港を発し、大阪港に向かった。
ところで、北斗丸の運航形態は、1月約15回の折り返し運航で、往航の航海時間は約17時間で、呉港での積荷役の約7時間は一等航海士がこれに当たり、大阪港での揚荷役の約4時間は次席一等航海士が当たることになっており、船橋当直体制は、出港操船からA受審人が5時間、次席一等航海士が4時間、一等航海士が5時間及び残りの3時間余りをA受審人がそれぞれ単独の輪番制で行うこととし、このほか同人は来島海峡通航の操船にも当たることになっていた。
A受審人は、前日15日13時呉港に入港し、出港時刻が荷役終了後の16日04時の予定だったので、15日の夕食後、次席一等航海士とともに久しぶりに街へ出て飲酒し22時帰船したところ、荷役が早く終了したため出港時間が3時間早まったことから出港までに予定していた睡眠が十分とれない状況となった。
こうして、A受審人は、出港操船に引き続いて音戸瀬戸を通航し、単独で当直に従事して安芸灘を南行し、02時10分鴨瀬灯台から267度(真方位、以下同じ。)5.0海里の地点に達したとき、針路を桴磯灯標の南方に向首する090度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で進行した。
02時40分A受審人は、鴨瀬灯台から163度600メートルの地点に達したころ、視界もよく、広い海域で前路に支障となる船舶もいなかったことから、気が緩み、睡眠不足と飲酒の影響もあってか、眠気を催してきたものの、しばらくすれば眠気も覚めると思い、休息中の乗組員を起こして2人当直にするなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、操舵スタンドの後方の壁に設置された書棚に寄り掛かって見張りに当たり続航するうち、いつしか居眠りに陥った。
02時58分A受審人は、来島海峡西口に向かう予定転針地点に達したものの、居眠り運航のまま転針の措置をとれず、このことに気付かず、愛媛県大角鼻西岸に向首進行したまま、03時28分来島海峡航路第2号灯浮標を左舷正横1,600メートルに通過したことにも気付かず、依然、居眠り運航のまま同針路で続航中、同時33分ふと目が覚めたとき、左舷船首方の大角鼻潮流信号所の明かりに初めて気が付き、左舷正横に桴磯灯標の灯火を認め、慌てて引き返そうと手動操舵に切換え左舵一杯をとって反転回頭中、03時35分北斗丸は、桴磯灯標から178度370メートルの小桴の浅所に、276度に向首したとき、ほぼ原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力2の南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果、船首部船底に凹損を生じ、のちサルベージにより離礁し修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、安芸灘北部を東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、予定の転針が行われず、愛媛県大角鼻西岸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独の船橋当直に就き、操舵スタンド後方の壁に設置された書棚に寄り掛かって見張りに当たり自動操舵として安芸灘北部を東行中、眠気を催した場合、睡眠不足と飲酒により居眠り運航となるおそれがあったから、居眠り運航とならないよう、2人当直にするなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、しばらくすれば眠気も覚めると思い、休息中の乗組員を起こして2人当直にするなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、予定の転針をすることができないまま進行して乗揚を招き、船首部船底に凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。