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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成12年広審第62号
件名

貨物船第八海祥丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年1月30日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(内山欽郎、釜谷奬一、横須賀勇一)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:第八海祥丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)

損害
左舷船首船底外板に破口を伴う亀裂

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年5月14日15時10分
 隠岐諸島 島後水道

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八海祥丸
総トン数 191トン
全長 43.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 514キロワット

3 事実の経過
 第八海祥丸(以下「海祥丸」という。)は、専ら島根県松江港から西郷港を最終揚地とする隠岐諸島各港への土木工事用二次製品や日用雑貨類等の運搬に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、平成11年5月14日06時30分土木工事用のコンクリート製品及び雑貨類等約200トンを積載して松江港を発し、途中隠岐諸島島前の別府湾及び諏訪湾に寄港して積荷の一部を揚荷したのち、船首1.7メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、14時10分諏訪湾を発し、最終揚地の西郷港に向かった。
 ところで、A受審人は、通常、松江港から別府湾までの隠岐海峡航行中は一等航海士と甲板員に各々単独で1時間半程度の船橋当直を任せ、この間2時間半ほど仮眠をとるようにしていたが、それ以外はほとんど自らが船橋当直に当たっていた。松江港停泊中、同人は、12日及び13日の両日に各々08時から17時までウインチ係として積荷作業に従事したが、夜間荷役がなかったので、13日19時ごろ外出して飲酒したのち出港当日の翌14日03時ごろ帰船し、出港時刻まで3時間ほどの仮眠をとった。
 A受審人は、出港操船に引き続いて自らが単独で船橋当直に当たり、14時29分湾の出入口である中井口を通過したころ、視界もよく、前路には支障となる漁船が見当たらなかったうえ広い水域に出たことなどの安心感から気が緩み、いつもどおり隠岐海峡通航時に2時間半ほど仮眠をとってはいたものの、出港前の飲酒が影響したものか、眠気を催すようになったが、大森島辺りまでは漁船を避けるなど時々変針する必要があったので、椅子に腰掛けたり立ったりしながら当直を続けた。
 14時51分少し過ぎA受審人は、四敷島灯台から265度(真方位、以下同じ。)3.1海里の地点で、大森島北方に達したとき、針路を神島南端よりやや南側に向首する090度に定め、機関を全速力前進にかけて自動操舵とし、12.5ノットの対地速力で進行した。
 定針後、A受審人は、神島南端を200ないし300メートル離して航過することとし、同島に接近したら適宜針路を修正するつもりで、船橋前部右舷側に置いた椅子に腰を掛けて当直に当たって間もなく、再び眠気を催すようになったが、入港スタンバイまであとわずかだったのでそれまでは眠気を我慢できるものと思い、待機中の甲板員を昇橋させて2人で当直を行うなどの居眠り運航の防止措置をとることなく、単独で船橋当直を続けているうち、いつしか居眠りに陥った。
 こうして、海祥丸は、A受審人が居眠りし、折りからの東南東風を受けるなどして左方に1度ばかり圧流されていたものの、途中で針路が修正されないまま同一針路及び速力で進行中、15時10分四敷島灯台から104度1,520メートルの神島西岸の浅所に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力2の東南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果、海祥丸は、左舷船首船底外板に破口を伴う亀裂を生じたが、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、隠岐諸島の島後水道を東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、針路が修正されないまま左方に圧流され、神島西岸の浅所に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、単独で船橋当直に就いて隠岐諸島の島後水道を東行中、眠気を催した場合、出港前の飲酒が影響して居眠り運航となるおそれがあったから、入港に備えて待機中の甲板員を昇橋させて2人で当直に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、入港スタンバイまであとわずかだったので、それまでは眠気を我慢できるものと思い、甲板員を昇橋させて2人で当直に当たるなどの居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、当直中に居眠りに陥って針路を修正できず、左方に圧流されながら神島西岸の浅所に向首進行して乗揚を招き、海祥丸の左舷船首船底外板に破口を伴う亀裂を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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