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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成12年広審第4号
件名

貨物船日章丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年1月29日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(工藤民雄、竹内伸二、中谷啓二)

理事官
安部雅生

受審人
A 職名:日章丸船長 海技免状:四級海技士(航海)

損害
船底外板に一部亀裂を伴う凹損

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年7月25日06時20分
 瀬戸内海 伊予灘興居島

2 船舶の要目
船種船名 貨物船日章丸
総トン数 419トン
全長 72.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 日章丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、火力発電所向けの電動機2基128トンを積載し、船首1.5メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成11年7月24日07時00分長崎県長崎港を発し、徳島県橘港に向かった。
 ところで、A受審人は、前日夕刻、長崎港で積荷役を終えた日章丸に乗船し、同日は同港で待機して休養をとったあと前示時刻に長崎港を発航したもので、発航後、一等航海士と交互に6時間交替で単独の船橋当直に当たって九州北岸沿いに東行し、当直中の同24日22時40分ごろ関門海峡を通峡したのち、翌25日00時ごろ同航海士に当直を引き継いで降橋し、同時30分ごろ就寝した。
 05時ごろA受審人は、目が覚めたので起床し、同時25分伊予灘東部の伊予青島灯台(以下「青島灯台」という。)から359度(真方位、以下同じ。)2.8海里の地点で、一等航海士と交替して当直に就き、引き続き針路を061度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で、伊予灘航路第8号灯浮標を左舷側に見て航過したあと釣島水道に向け転針するつもりで推薦航路線に沿って進行した。
 その後、A受審人は、冷房された操舵室の右舷側前部にあるソファーに正座し、前面窓下の棚に両手を乗せて前方の見張りに当たっていたところ、天気も良く慣れた航路で折から漁船や航行船も見当たらなかったことから気が緩み、05時44分ごろ由利島南方2海里ばかりの伊予灘東部を航行中、眠気を催すようになった。しかし、同人は、休息をとったばかりでまさか居眠りすることはないものと思い、立ち上がって手動操舵に当たるなど、居眠り運航防止の措置をとることなく、そのままソファーに座って見張りを続けているうち、間もなく居眠りに陥った。
 そしてA受審人は、05時48分伊予灘航路第8号灯浮標を左舷側に通過し、釣島水道に向ける転針地点に達したものの、居眠りしていてこのことに気付かず、転針することなく松山港西側の興居島南岸に向首したまま進行中、06時20分松山港外港2号防波堤灯台から275度1.5海里の地点において、日章丸は、興居島御手洗鼻の南岸に、原針路、原速力で乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
 乗揚の結果、日章丸は、船底外板に一部亀裂を伴う凹損を生じたが、サルベージ船の援助を得て引き下ろされ、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、伊予灘東部を東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、予定の転針が行われないまま興居島の南岸に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、単独の船橋当直に就き、自動操舵としてソファーに座って伊予灘東部を東行中、眠気を催した場合、ソファーから立ち上がって手動操舵に当たるなど、居眠り運航防止の措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、休息をとったばかりでまさか居眠りすることはないものと思い、立ち上がって手動操舵に当たるなど、居眠り運航防止の措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、予定の転針を行うことができずに興居島の南岸に向首進行して乗揚を招き、日章丸の船底外板に一部亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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