(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年5月31日03時25分
兵庫県浜坂港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第一冨美丸 |
総トン数 |
99トン |
全長 |
37.03メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
617キロワット |
3 事実の経過
第一冨美丸は、沖合底引き漁業に従事する鋼製漁船で、A及びB両受審人ほか7人が乗り組み、操業の目的で、船首1.7メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成11年5月26日21時00分兵庫県浜坂港を発し、翌27日02時00分島根県西郷港の北東方9海里の漁場に至って操業を始め、越えて同月30日22時30分かれいなど2トンを獲て帰港することとし、西郷岬灯台から093度(真方位、以下同じ。)17.0海里の地点を発進した。
ところで、B受審人は、船橋において繰り返し操業の指揮を執っていたものの、その合間に短時間ながら休息をとっていたことから、漁場発進時に疲労が蓄積している状況ではなかった。
A受審人は、帰航途中の船橋当直を陸岸に接近するまで無資格の甲板員に行わせることとし、発進後直ちに針路を浜坂港港口付近に向く130度に定め、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
発進後間もなくA受審人は、船橋当直者が自動操舵で航行時にいすに腰をかけて見張りに当たることを知っていたが、日頃から同当直者に対して居眠り運航をしないようにと言っていたので、特に指示をしなくても大丈夫と思い、眠気を催した際には、いすから立ち上がって外気に当たるなど、具体的に居眠り運航の防止措置を示し、その旨を申し送りするよう十分な指示をすることなくB受審人に船橋当直を委ねて降橋し、自室で休息した。
B受審人は、23時10分漁獲物の選別収納作業を終えて昇橋した甲板員に、翌31日02時00分に起こすよう指示をして同当直を引き継ぎ、船橋内後部に備えた寝台で休息した。こうして同受審人は、3時間ばかりの休息をとったのち、浜坂港矢城ケ鼻灯台(以下「矢城ケ鼻灯台」という。)から312度13.5海里の地点に至ったところで船橋当直者から報告を受け、再び単独で同当直に就いた。
その後B受審人は、いすに腰をかけて見張りに当たっていたところ、02時30分を過ぎたころから眠気を催すようになったが、浜坂港沖合まで残り1時間ばかりであることから我慢できるものと思い、立ち上がって外気に当たるなどの居眠り運航の防止措置をとることなく、そのままいすに腰をかけて見張りに当たっているうち、いつしか居眠りに陥った。
そのため、B受審人は、03時21分矢城ケ鼻灯台から040度810メートルの地点で、浜坂港の防波堤入口まで900メートルの地点に差し掛かっていたが、同入口に向けて転針することも減速の措置をとることもできず、同港東岸の通称しめ島に向けて続航し、03時25分矢城ケ鼻灯台から094.5度1,450メートルの地点で、第一冨美丸は、原針路、原速力のまま同島北西岸に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。
A受審人は、乗揚の衝撃で昇橋し、事後の措置に当たった。
乗揚の結果、球状船首部に亀裂を伴う凹損を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、漁場から兵庫県浜坂港に向け帰航中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同港東岸のしめ島に向首進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が船橋当直者に対して居眠り運航の防止措置について十分な指示をしなかったことと、同当直者が眠気を催した際、いすから立ち上がって外気に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとらなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、漁場から兵庫県浜坂港に向け帰航中、単独で船橋当直に就き、自動操舵のままいすに腰をかけて見張りに当たっているうち、眠気を催した場合、立ち上がって外気に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、浜坂港沖合まで残り1時間ばかりであることから我慢できるものと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、同港東岸のしめ島に向首進行して乗揚を招き、球状船首部に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人は、夜間、漁場から浜坂港に向けて帰航するに当たり、部下に単独の船橋当直を任せる場合、眠気を催した際には、いすから立ち上がって外気に当たるなど、具体的に居眠り運航の防止措置を示し、その旨を申し送りするよう十分な指示をすべき注意義務があった。しかるに、同人は、日頃から居眠り運航をしないようにと言っていたので、特に指示をしなくても大丈夫と思い、居眠り運航の防止措置について十分な指示をしなかった職務上の過失により、船橋当直者が居眠りに陥って居眠り運航となり、浜坂港東岸のしめ島に向首進行して乗揚を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。