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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成12年函審第53号
件名

漁船第三十八日章丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年1月24日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(大石義朗、織戸孝治、大山繁樹)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:第三十八日章丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
舵損傷、操舵不能、全損、甲板員1人が海中に転落、死亡

原因
険礁海域に対する配慮不十分

主文

 本件乗揚は、陸岸に向け移動中の流氷帯により水路が閉塞された際、険礁海域に対する配慮が不十分で、引き返して避泊する措置がとられず、同海域に進入したことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月6日14時20分
 北海道根室半島南岸

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十八日章丸
総トン数 12トン
全長 20.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 330キロワット

3 事実の経過
 第三十八日章丸(以下「日章丸」という。)は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的をもって、投網準備をしたきちじ刺網1連及びすけとうだら刺網2連を載せ、船首1.0メートル船尾2.0メートルの喫水で、平成12年3月6日05時00分10数隻の同業船とともに北海道歯舞漁港を発し、同漁港の南南東方沖合漁場に向かった。
 発航後A受審人は、1人で船橋当直に当たって南下していたところ、同日05時半ごろ歯舞漁港の南南東方7ないし8海里沖合で多数の散在する流氷塊を認め、舵及び機関を使用してこれらを避けながら南下を続け、07時ごろ同漁港南南東方18海里ばかりの漁場に至ったところ、漁場の少し東側に南北に連続する流氷帯を認めたが、特に支障がなかったので、操業を開始した。
 A受審人は、3日前に設置しておいたきちじ刺網1連と前日設置しておいたすけとうだら刺網2連を揚網したのち、投網準備をしたきちじ刺網1連とすけとうだら刺網1連を、それぞれの揚網地点に設置したところ、12時25分漁場の少し北方から歯舞漁港沖合にかけて連続する流氷帯が形成され、これが西方に移動するのを認め、すけとうだら刺網1連の設置を取り止め、きちじ、すけとうだら及びほっけなど合計約660キログラムを獲て操業を打ち切り、同時30分ハボマイモシリ島灯台から182度(真方位、以下同じ。)20.0海里の漁場を発進し、帰途に就いた。
 漁場発進後A受審人は、1人で船橋当直に当たり、前部甲板で甲板員に刺網に掛かったすけとうだらの取外し作業を行わせ、7隻の同業船が一列になって流氷帯の西の限界に沿って北上するのを認め、この最後尾の同業船を追尾しながら北上した。
 A受審人は、14時15分ハボマイモシリ島灯台から253度2.9海里の地点に達したとき、針路をシキウス岬突端の西方約400メートルのところを向く052度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.5ノットの対地速力で進行した。
 ところで、シキウス岬は、歯舞漁港南西端の西方約1,200メートルのところから約1,300メートル南南西方に突き出し、その突端から400メートルばかり南西方沖合にかけて険礁が拡延し、その中央付近には通称あぶらこ根と呼ばれる低い水上岩が存在し、さらに同突端の南東方沖合約700メートルのところに低い水上岩とその周囲約200メートルにわたって拡延する険礁が存在しており、両険礁間の幅約400メートルの海域は、こんぶ採取漁業に従事する小型漁船の水路となっており、A受審人は、シキウス岬付近を航行したことがなかったものの、こんぶ採取船の船長から前示水路状況を聞いてGPSプロッターに前示両険礁の位置を入力していたので、両険礁間の水路を航行する予定としていた。
 A受審人は、14時17分半、ハボマイモシリ島灯台から257度2.4海里の地点に達したとき、流氷帯の北の限界がシキウス岬沖合の険礁海域に接近しており、前示両険礁間の水路が閉塞されているのを認めた。しかし、同人は、険礁海域に対する配慮が不十分で、先航の同業船があぶらこ根の北側の険礁が点在する海域を無難に通過したことから、先航船を追尾して行けばなんとか通航できるものと思い、速やかに引き返して最寄りの安全な港に避泊する措置をとることなく、対地速力を10.0ノットに減じ、針路を流氷帯の北の限界に沿う075度に転じ、シキウス岬突端南西方沖合の険礁海域に向け進行中、14時20分突然衝撃を受け、ハボマイモシリ島灯台から258度2.0海里の地点において、険礁に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力4の南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
 乗揚の結果、前部甲板で作業中の甲板員K(昭和44年11月4日生)は、乗揚の衝撃で、海中に転落して死亡し、日章丸は、自力で離礁したものの舵を損傷して操舵不能となり、流氷により海岸に寄せられて全損となった。

(原因)
 本件乗揚は、陸岸に向け移動中の流氷帯により、可航海域が狭められた北海道根室半島シキウス岬沖合を北海道歯舞漁港に向け帰航中、流氷帯の北の限界がシキウス岬突端の南西方沖合の険礁海域に接近し、同険礁海域と同岬突端の南東方沖合の険礁海域間の水路が閉塞されているのを認めた際、険礁海域に対する配慮が不十分で、速やかに引き返して最寄りの安全な港に避泊する措置がとられず、険礁が点在する海域に進入したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、陸岸に向け移動中の流氷帯により、可航海域が狭められた北海道根室半島シキウス岬沖合を北海道歯舞漁港に向け帰航中、流氷帯の北の限界がシキウス岬突端の南西方沖合の険礁海域に接近し、同険礁海域と同岬突端の南東方沖合の険礁海域間の水路が閉塞されているのを認めた場合、速やかに引き返して最寄りの安全な港に避泊する措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、険礁海域に対する配慮が不十分で、先航する同業船があぶらこ根の北側の険礁が点在する海域を無難に通過したことから、先航船を追尾して行けばなんとか通航できるものと思い、速やかに引き返して最寄りの安全な港に避泊する措置をとらなかった職務上の過失により、険礁が点在する海域に進入して乗揚を招き、乗揚の衝撃で甲板員1人を海中に転落、死亡させ、日章丸の舵を損傷させて操舵不能にさせ、流氷により海岸に寄せられて全損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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