(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年12月25日03時50分
北海道檜山郡江差町
2 船舶の要目
船種船名 |
引船龍翔丸 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
16.60メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
755キロワット |
3 事実の経過
龍翔丸は、北海道室蘭港を基地として北海道南岸及び西岸の各港間に台船・起重機船などを曳航している鋼製引船で、A受審人とB指定海難関係人の2人が乗り組み、平成11年12月23日15時ごろ台船を曳航して久遠漁港を発し、翌24日01時ごろ増毛港に入港の後、回航の目的で、船首1.2メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、同日11時ごろ独航で同港を発し、室蘭港に向かった。
ところで、B指定海難関係人は、五級海技士(航海)の海技免状を受有し、過去に漁船船長、貨物船航海士及び引船船長等を長期に渡って歴任して平成8年平成産業株式会社を定年退職して以後、同社所有の引船の臨時の甲板員として短期間の勤務を行っていたところ、平成11年12月23日からは龍翔丸に甲板員として乗船していた。
一方、A受審人は、B指定海難関係人と乗り合わせるのは今航海で3度目で、同人の経歴・操船技量を知っていたことから同人には船橋当直のみを任せることとし、同人と交互に当直を行うこととしていた。
A受審人は、発航後、適宜、B指定海難関係人と当直を交代し、機関の点検や食事の準備をしながら航海を続け、同月25日00時ごろ瀬棚郡水垂岬西方沖合で、休息から目覚めて昇橋してきたB指定海難関係人と船橋当直を交代することとして、眠気を感じたらいつでも起こすことなどを指示して降橋し、船員室で休息した。
単独の船橋当直に就いたB指定海難関係人は、北海道西岸に沿って自動操舵により針路を140度(真方位、以下同じ。)に設定して南下中、02時ごろ久遠郡ポンモシリ岬沖に達したとき、操舵装置を遠隔手動操舵に切り替えて操業漁船群を避航しながら進行し、03時32分江差港西防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から334度3.0海里の地点に至り、前路に他船を視認しなくなったことから、江差港鴎島西方1.5海里のところを針路193度で航過するつもりで、同針路に船首を向けて操舵装置を自動操舵に切り替えた。ところがこのとき、同人は、操舵装置の操舵方法切替スイッチを自動の側に切り替えたのみで、針路設定ノブを193度とする針路設定操作を失念したため、龍翔丸は、自動操舵装置の設定針路が、前示の遠隔手動操舵に切り替える前に設定されていた140度に定針されたまま9.4ノットの対地速力で続航した。
定針時、B指定海難関係人は、龍翔丸の船首方位と自動操舵装置の設定針路との間に53度のずれが生じていたが、同装置にはオフコース・アラーム(針路外警報)が装備されていなかったので、自動に切り替えた際、警告音によりこの針路のずれを知らされることなく、また、前路に他船がいなくなり、慣れた海域であったことから気が緩み、操舵室後部の長椅子に腰を掛け、左肘を同室左舷側の窓枠につき、その上に顔を乗せ、同室後壁に背中をもたせ掛けたとき、眠気を催したが、同椅子から立ち上がって冷気にあたるなど居眠り運航の防止措置をとらないでいるうち、いつしか居眠りに陥った。
龍翔丸は、江差港北方の檜山郡江差町の海岸に向首したまま進行し、03時50分防波堤灯台から042度0.7海里の地点で、同海岸に原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は雨で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
A受審人は、船員室で就寝中、乗揚の衝撃で目を覚まして昇橋し、事後の措置に当たった。
乗揚の結果、船底外板全般及び舵板に凹損、プロペラ先端部に欠損並びに推進機軸に曲損を生じたが、自力で離礁したものの航行不能となり、引船により江差港に引き付けられ、のち損傷部は修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、増毛港から室蘭港に向けて航行中、江差港北北西方沖合において、居眠り運航の防止措置が不十分で、江差港北方の江差町の海岸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人等の所為)
B指定海難関係人が、夜間、単独で船橋当直に当たって江差港北北西方を航行中、居眠り運航の防止措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。