(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年7月25日15時00分
壱岐水道東部
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船幸淳丸 |
漁船満丸 |
総トン数 |
4.94トン |
4.92トン |
登録長 |
11.10メートル |
10.60メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
15 |
90 |
3 事実の経過
幸淳丸は、引き網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、平成11年7月25日03時00分佐賀県唐房漁港を発し、壱岐水道東部の小川島北方海域の漁場に向かった。
A受審人は、同海域に到着後漁場を移しながら操業に従事し、14時50分小川島北方約1.1海里の地点に至り、漁ろうに従事していることを表示する形象物を掲げないまま操業を再開した。
14時56分A受審人は、加唐島灯台から084度(真方位、以下同じ。)2.1海里の地点において、針路を096度に定めて機関を全速力前進にかけ、船尾から長さ約450メートルの漁具を引き、2.0ノットの対地速力で進行を開始したとき、左舷正横前6度0.9海里のところに南下する満丸を初めて視認した。
14時59分A受審人は、加唐島灯台の東方2海里ばかりの地点に達して、機関を中立回転とし、曳網索を引揚げ中に後退して同索が推進器に絡まらないよう、船首からパラシュート型シーアンカーを投入して船首を096度に向けてほぼ停留したとき、左舷正横420メートルに満丸を視認し、同船が衝突のおそれがある態勢で接近していたが、その内に自船を避けるものと思い、速やかに有効な音響による注意喚起信号を行うことなく揚網を開始した。
A受審人は、その後衝突のおそれがある態勢で、自船を避けないまま接近する満丸を監視しながら揚網中、15時00分幸淳丸は、加唐島灯台から085度2.2海里の地点において、その左舷後部に満丸の船首が90度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、視界は良好であった。
また、満丸は、FRP製漁船で、B受審人が、1人で乗り組み、同乗者2人を乗せ、釣りの目的で、船首0.48メートル船尾1.45メートルの喫水をもって、同日11時30分佐賀県小川島漁港を発し、小川島北方約7海里のガブ瀬に至り釣りを行ったのち、14時33分烏帽子島灯台から295度3.8海里の地点を発進し、同漁港へ帰航の途に就いた。
14時47分半B受審人は、加唐島灯台から040度3.8海里の地点において、針路を小川島島頂に向く186度に定め、機関を全速力前進にかけ、13.5ノットの対地速力で手動操舵によって進行した。
B受審人は、船首が浮上して片舷約5度の範囲で死角を生じた状態で続航し、14時56分加唐島灯台から065度2.5海里の地点において、右舷船首6度0.9海里のところに幸淳丸を視認できる状況であったが、前路には他船はいないものと思い、船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行わなかったので、幸淳丸の存在に気付かなかった。
14時59分B受審人は、正船首420メートルのところでほぼ停留して船尾から揚網を開始した幸淳丸を認めることができ、その後衝突のおそれがある態勢で接近したが、このことに気付かず、同船を避けることなく続航中、15時00分少し前船首至近に幸淳丸を初めて認め、機関を後進にかけたが、効なく、満丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、満丸は、船首部に擦過傷を生じ、幸淳丸は、左舷後部外板に破口を伴う凹損を生じて浸水し、A受審人が頚部挫傷及び左大腿部打撲傷並びに甲板員山口順一が左臀部及び右大腿部挫傷を負い、B受審人が口腔内に裂創及び下顎打撲を負った。
(原因)
本件衝突は、壱岐水道東部において、帰航中の満丸が、見張り不十分で、前路で停留して揚網中の幸淳丸を避けなかったことによって発生したが、幸淳丸が、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、壱岐水道東部を帰航する場合、船首浮上による死角が生じていたのだから、船首を振るなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、前路に他船はいないものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、幸淳丸の存在に気付かないまま進行して衝突を招き、満丸の船首部に擦過傷を生じさせ、幸淳丸の左舷後部外板に破口を伴う凹損を生じさせて浸水させ、A受審人に頚部挫傷及び左大腿部打撲傷並びに山口甲板員に左臀部及び右大腿部挫傷を負わせ、自らも口腔内に裂創及び下顎打撲を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、壱岐水道東部の海域において、漁ろうに従事していることを表示する形象物を掲げないまま、停留して揚網作業に従事中、自船に向首接近する満丸を認めた場合、速やかに有効な音響による注意喚起信号を行うべき注意義務があった。しかるに同人は、その内に自船を避けるものと思い、注意喚起信号を行わなかった職務上の過失により、揚網作業を続けて満丸との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。