(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年5月24日20時55分
鹿児島県草垣群島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八明光丸 |
貨物船オリエンタル フォーチュン |
総トン数 |
57.89トン |
36,604.00トン |
全長 |
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225.00メートル |
登録長 |
20.82メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
441キロワット |
8,914キロワット |
3 事実の経過
第八明光丸(以下「明光丸」という。)は、はえなわ漁業に従事するFRP製漁船で、船長E及び同人の父のA受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、平成11年5月12日06時00分鹿児島県枕崎港を発し、吐喇群島の宝島北西方沖合に至り、連日操業を行ってきんめだい約10トンを獲たところで操業を終え、船首1.40メートル船尾2.30メートルの喫水をもって、同月24日13時30分宝島北西方27海里ばかりの地点を発進して熊本県牛深港に向かった。
ところで、明光丸の乗組員は、漁場では毎日00時30分に起床してはえなわ漁の準備を行い、02時30分から投縄を開始し、12時に揚縄を終えて後片づけと漁獲物の整理などを行ったのち、夕方から真夜中まで漂泊して休息する操業模様を繰り返し、12日間操業を行ってから帰港していた。
E船長は、航海中の船橋当直を自らとA受審人との単独6時間交替の輪番制としており、発進後、宇治群島西方8海里の地点に向けて北上し、18時00分草垣島灯台から211度(真方位、以下同じ。)36.3海里の地点で、昇橋したA受審人に当直を引き継ぎ、降橋して自室で休息した。
A受審人は、当直を引き継いだとき、針路をGPSプロッター上に設定した目標地点に向く010度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、航行中の動力船の灯火を表示し、操舵輪後方の背もたれ付きのいすに腰掛けて11.0ノットの対地速力で進行したところ、連日の操業で疲労が蓄積していたことから、20時40分ごろから眠気を催すようになった。
しかし、同受審人は、当直前に休息したので居眠りすることはないと思い、立ち上がるなどして眠気を払拭(ふっしょく)し、それでも眠気が覚めないときには船長を呼ぶなど居眠り運航の防止措置をとることなく、当直を続けていたところ、20時40分半作動中のレーダーにより右舷前方3海里にオリエンタル フォーチュン(以下「オ号」という。)の映像を朧気(おぼろげ)に認めたものの、気に留めずに続航し、そのうち居眠りに陥った。
20時46分A受審人は、草垣島灯台から266度13.5海里の地点に達したとき、右舷船首68度1.9海里のところにオ号の白、白、紅3灯を視認できる状況で、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、居眠りしていたのでこのことに気付かず、同船の進路を避けることができないまま進行中、20時55分草垣島灯台から273度13.2海里の地点において、明光丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首がオ号の左舷後部に後方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力5の西風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。
A受審人は、衝突の衝撃で目覚めてオ号の船体を視認し、機関を中立としたが、船体に異常がないのですぐ航行を再開し、24時ごろE船長に当直を引き継いだ。
一方、E船長は、当直交替時に衝突の報告を受け、日出後に損傷状況を確認し、牛深港に入港してから海上保安庁と連絡をとり、事後の措置に当たった。
また、オ号は、船尾船橋型のばら積み貨物運搬船で、船長D及び三等航海士Gほか19人が乗り組み、石炭61,749トンを積載し、船首12.14メートル船尾12.20メートルの喫水をもって、同月12日10時55分(現地時刻)オーストラリアのニューキャッスル港を発し、関門港若松区に向かった。
ところで、オ号は、船橋当直を一等航海士、二等航海士及び三等航海士にそれぞれ操舵手1人が付いた4時間交替の3直制を採っており、同月24日14時15分屋久島の南方14.5海里の地点に至り、吐喇海峡を通過して草垣群島北西方沖合に向け北上した。
20時00分G三等航海士は、草垣島灯台から209度8.1海里の地点で昇橋し、前直者と交替して操舵手とともに船橋当直に就き、針路を310度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、航行中の動力船の灯火を表示し、13.1ノットの対地速力で進行した。
G三等航海士は、20時46分草垣島灯台から267度11.5海里の地点に達したとき、左舷船首52度1.9海里のところに明光丸の白、緑2灯を視認でき、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めることができる状況であったが、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、間近に接近しても右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航した。
20時54分G三等航海士は、明光丸の右舷灯を同方位400メートルに初めて視認し、衝突の危険を感じ、VHF無線電話で同船に呼びかけたが応答がなく、昼間信号灯による発光信号と汽笛の吹鳴を行い、続いて同時55分少し前右舵一杯としたが効なく、オ号は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
D船長は、衝突の報告を受けて昇橋し、機関を停止したのち、海上保安庁に連絡して事後の措置に当たった。
衝突の結果、明光丸は、右舷側船首部のブルワークに破損及び同部ハンドレールに曲損などを生じたが、のち修理され、オ号は、左舷側後部外板に軽微な凹損を伴う擦過傷を生じた。
(原因)
本件衝突は、夜間、鹿児島県草垣群島西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、明光丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切るオ号の進路を避けなかったことによって発生したが、オ号が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独で操舵と見張りに当たり、鹿児島県草垣群島西方沖合を北上中、眠気を催した場合、いすから立ち上がるなどして眠気を払拭し、それでも眠気が覚めないときには船長を呼ぶなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同受審人は、当直前に休息したので居眠りすることはないと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに賂り、オ号の進路を避けることができないまま進行して同船との衝突を招き、明光丸の右舷側船首部ブルワークに破損及び同部ハンドレールに曲損などを、オ号の左舷側後部外板に軽微な凹損を伴う擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。