(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年4月16日12時18分
瀬戸内海 備後灘
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船日英丸 |
漁船天力丸 |
総トン数 |
199トン |
4.90トン |
全長 |
47.35メートル |
13.60メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
625キロワット |
46キロワット |
3 事実の経過
日英丸は、船尾船橋型の液体化学薬品ばら積船兼油タンカーで、A受審人ほか2人が乗り組み、コールタール402トンを積載し、船首2.55メートル船尾3.45メートルの喫水をもって、平成11年4月16日11時10分広島県福山港を発し、関門港に向かった。
A受審人は、出航操船に引き続き1人で船橋当直に就き、11時45分福山港玉津島防波堤灯台から101度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点で、針路を246度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で進行した。
12時00分ごろA受審人は、田島南東方沖に差し掛かったとき、右舷前方約3海里に天力丸を初認し、その後同船に注意を払いながら同島南岸沿いに西進中、同時15分半右舷船首30度0.5海里のところに同船を認めるようになり、同船が西方に向首して船尾のデリックで網を吊り上げた状態で停留していることを知った。
12時16分A受審人は、天力丸が、右舷船首36度780メートルのところから南東に向首して進行を開始し、自船の前路を左方に横切る態勢となって接近するのを認めたので、同時16分半田島南西部の高山山頂(329メートル、以下「高山」という。)から146度1.0海里の地点に達し、同船を右舷船首38度600メートルに見るようになったとき、手動操舵に切り換えて右舵をとり、針路を284度に転じ、その後同船と互いに左舷を対し無難に航過する態勢となって進行した。
A受審人は、天力丸の動静を監視しながら進行中、12時17分少し過ぎ同船が、左舷船首16度250メートルのところに近づいたとき、突然左転して前路に接近する態勢になり、衝突のおそれが生じたのを認め、汽笛を連吹し、続いて右舵を一杯にとり、全速力後進としたが及ばず、日英丸は、12時18分高山から155度1,550メートルの地点において、004度に向首したとき、その左舷後部に天力丸の船首が後方から41度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期であった。
また、天力丸は、底びき網漁業に従事する木製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、えび漁の目的で、船首1.5メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、同日07時00分広島県横島漁港を発し、同時15分ごろ田島南方の漁場に至り操業を開始した。
B受審人は、田島南岸に沿って東西方向に約2海里の海域を、約4ノットのえい網速力で折り返して操業を行い、11時45分ごろ245度の針路でえい網していたところ、船尾方約4海里のところに同航する態勢の日英丸を初認した。
12時00分ごろB受審人は、高山から164度1,400メートルの地点で、揚網のため西方に向首して停留を始め、船尾のデリックで網を吊り上げて漁獲物を取り込んだのち、同時16分次の投網地点に向かうため、針路を135度に定め、機関を半速力前進にかけて前示停留地点を発進し、6.0ノットの対地速力で、船尾甲板の機関室囲壁後方で椅子に腰掛け、舵棒を操作して進行した。
発進したときB受審人は、左舷船首31度600メートルのところに日英丸を認めるようになり、同時17分少し過ぎ高山から160度1,600メートルの地点に達し、次の投網のため左転して北東方に向けようとしたとき、同船が左舷を対し無難に航過する態勢で左舷船首47度250メートルのところに近づいたことを知ったが、左転して北東方に向けると同船と衝突のおそれが生じる状況であったものの、あらかじめ転針に備えて同船に対する動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、左転してもその前路を航過できると思い、針路を045度に転じて日英丸の前路に進出し、同時18分わずか前至近に迫った同船を認めて初めて危険を感じ、機関を後進にかけたが効なく、天力丸は、原針路のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、日英丸は、左舷後部外板に軽微な凹損と擦過傷を生じ、天力丸は、船首部を圧壊し、のち廃船となった。
(原因)
本件衝突は、備後灘において、投網地点へ移動中の天力丸が、動静監視不十分で、無難に替わる態勢にあった日英丸の前路に進出したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
B受審人は、備後灘において、投網地点へ移動中、転針しようとする方向に日英丸を認めて進行する場合、転針しても同船と衝突のおそれが生じることがないかを判断できるよう、あらかじめ同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、転針すると衝突のおそれが生じることに気付かず、同船の前路を航過できると思い転針し、前路に進出して衝突を招き、同船の左舷後部外板に軽微な凹損と擦過傷を生じさせ、自船船首部を圧壊させるに至った。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。