(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年4月8日18時05分
瀬戸内海 伊予灘
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船大濱丸 |
漁船第2豊栄丸 |
総トン数 |
497トン |
4.98トン |
全長 |
68.78メートル |
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登録長 |
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10.75メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
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漁船法馬力数 |
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15 |
3 事実の経過
大濱丸は、主として石灰石を大分県津久見港から関東地方に運搬する船尾船橋型貨物船で、福田、原両受審人ほか3人が乗り組み、石灰石1,600トンを積載し、船首3.6メートル船尾4.7メートルの喫水をもって、平成12年4月8日13時30分津久見港を発し、神奈川県久里浜港に向かった。
A受審人は、平成11年12月大濱丸の竣工以来B受審人とともに同船に乗り組んでおり、船首部に設置された荷役用クレーンの機械室のため正船首方向両舷にわたりそれぞれ5度ばかりが死角となっていたので、B受審人を含む船橋当直者に対し、平素からレーダーを活用するとか身体を左右に移動して見張りを行うよう口頭で注意していた。
15時50分ごろB受審人は、佐田岬沖合で前直の二等航海士と交替して単独の船橋当直に就き、釣島水道に向け伊予灘を東行し、17時00分八島灯台から168度(真方位、以下同じ)12.0海里の地点で、針路を042度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
B受審人は、視界が良かったのでほぼ30分ごとに1回レーダーを使用して数分間周囲を監視し、それ以外の時間はほとんど椅子に腰掛けて見張りに当たり、17時30分ごろ夕食を終えた機関長が昇橋し、その後船橋後部中央に置いてあった椅子に腰掛けて同人と雑談していたところ、同時50分ごろ代理店から船舶電話で次航の積荷予定などについて連絡を受けたので、A受審人に昇橋を求めるよう機関長に伝言を頼んだあと、再び椅子に腰掛けて当直を続けた。
18時01分B受審人は、伊予青島灯台から238度8.1海里の地点に達したとき、右舷船首2度1.0海里に、第2豊栄丸(以下「豊栄丸」という。)を視認することができる状況となり、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、船首方向の死角にかくれてこれを認めることができなかった。
B受審人は、豊栄丸が所定の形象物を掲げていなかったものの、低速力で航行中で、見張りの場所を左右に移動し双眼鏡を使用すれば操舵室後方の櫓及びえい網用ワイヤロープを認めることができ、トロールにより漁ろうに従事している船舶と分かる状況にあったが、30分ほど前にレーダーで周囲を監視して船首方向に他船を探知しなかったので同方向から接近する他船はいないと思い、見張りの場所を左右に移動するなどして死角を補う見張りを十分に行わず、椅子に腰掛けたまま前路を見ていたので、接近する豊栄丸に気付かず、その進路を避けることなく続航した。
大濱丸は、同じ針路、速力のまま進行中、18時05分伊予青島灯台から236度7.6海里の地点において、左舷船首が、豊栄丸の左舷船首に前方から6度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期にあたり、付近には弱い南西流があった。
A受審人は、昇橋してB受審人から代理店からの連絡を聞いたあと、船橋内左舷側後部の海図台の前に立って乗組員の休暇予定について思案していたが、衝突の衝撃が弱かったので福田、原両受審人とも豊栄丸と衝突したことに気付かず、その直後両受審人とも左舷船首部から現れた同船を初めて認め、B受審人が直ちに機関を中立とし、手動操舵に切り替えて船尾を同船から離すため左舵30度ばかりとり、また、左舷ウイングに出たA受審人が、自船の航走波で動揺する豊栄丸の船上で何ごとか叫びながら手を振っていた乗組員が海中に転落し、同船が左舷側至近を航過したのを認め、B受審人に機関を停止し旋回して衝突地点に戻るよう指示したのち、救助作業にあたったが、海中転落者を発見することができず、その後松山海上保安部の指示に従い、衝突地点を離れて愛媛県松山港に向かった。
また、豊栄丸は、小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、伊予灘を操業区域とし、中央部の操舵室後方にネットローラーと漁具吊り上げ用の櫓を備え、船長のEが1人で乗り組み、操業の目的で、同日16時30分愛媛県長浜町を発し、伊予灘東部の漁場に向かった。
17時00分ごろE船長は、同町北方沖合7海里ばかりの漁場に至り、トロールにより漁ろうに従事する船舶の形象物を表示しないまま、先端に重りのチェーンを取り付けた底引き網を船尾から投入し、長さ約400メートルのワイヤロープ2本で同網を引き、機関を前進にかけて操業を開始した。
17時30分E船長は、伊予青島灯台から244度5.3海里の地点において、針路を228度に定めて機関を前進にかけ、折からの潮流に乗じて3.7ノットのえい網速力で進行し、18時01分同灯台から240度7.2海里の地点に達し、水深約55メートルの海域でえい網中、左舷船首4度1.0海里のところに大濱丸が東航中で、その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近し、間近に近づいても自船の進路を避ける様子が認められなかったが、機関を停止して行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとらず、豊栄丸は、原針路、原速力のまま続航中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大濱丸は左舷船首部に擦過傷を、豊栄丸は左舷側外板及びブルワークなどに亀裂などを生じたほかマスト及び鋼製櫓が折損し、豊栄丸のE船長(昭和31年3月12日生)が左右大腿部などを骨折するなどして海中に転落し、外傷性ショックで死亡した。
(原因)
本件衝突は、伊予灘において、大濱丸が、見張り不十分で、トロールにより漁ろうに従事している豊栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、豊栄丸が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、伊予灘において、船橋前方の荷役装置による死角のため船首方向の見通しが困難な状況下、単独で船橋当直に従事し、前路の見張りを行う場合、船首方向から接近する漁ろうに従事中の豊栄丸を見落とさないよう、見張りの場所を左右に移動するなど死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船首方向から接近する他船がいないものと思い、見張りの場所を左右に移動するなど死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、豊栄丸に気付かずに進行して同船との衝突を招き、大濱丸の左舷船首部に擦過傷を、豊栄丸の左舷側外板などに亀裂などの損傷をそれぞれ生じさせたほか、豊栄丸船長に左右大腿部の骨折などを負わせ、外傷性ショック死させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用し、同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。