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平成11年広審第125号
件名

旅客船しまんと漁船萬福丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年3月8日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(中谷啓二、釜谷奬一、内山欽郎)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:しまんと一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:萬福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
しまんと・・・左舷中央部外板に軽微な擦過傷
萬福丸・・・船首部外板に亀裂

原因
しまんと・・・動静監視不十分、船員の常務(新たな危険、衝突回避措置)不遵守(主因)
萬福丸・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、しまんとが、動静監視不十分で、無難に替わる態勢にあった萬福丸に対し、新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、萬福丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年4月17日17時02分
 豊後水道

2 船舶の要目
船種船名 旅客船しまんと 漁船萬福丸
総トン数 1,446トン 3.4トン
全長 89.00メートル  
登録長   9.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 4,413キロワット  
漁船法馬力数   70

3 事実の経過
 しまんとは、前部に船橋を備えた旅客船兼自動車航送船で、A受審人ほか11人が乗り組み、旅客40人を乗せ、車輌8台を積載し、船首3.4メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成11年4月17日15時30分大分県佐伯港を発し、高知県片島港に向かった。
 A受審人は、15時45分ごろ佐伯港港界付近で、甲板手と共に船橋当直に就いて豊後水道を東進し、16時54分高茂埼灯台から293度(真方位、以下同じ。)7.9海里の地点で、針路を130度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、17.5ノットの対地速力で進行した。
 16時58分A受審人は、左舷船首11.5度1.75海里のところに、西進している萬福丸を初認し、その後同船が方位変化が少ないまま前路に近づくと感じたものの、いずれ同船が針路を変更すると思い続航した。
 17時00分A受審人は、高茂埼灯台から288度6.2海里の地点に達し、萬福丸が左舷船首8度1,600メートルに近づいたとき、そのまま進行すれば同船が自船船首方700メートルのところを右方に替わり、互いに右舷を対し無難に航過する状況にあったが、十分に動静監視を行っていなかったので、衝突の有無を判断できず、同船が同一針路のまま近づくことに不安を感じ、手動操舵に切り換え、右転して離れようと針路を140度に転じたところ、萬福丸に対し新たな衝突のおそれを生じさせ、このことに気付かず、衝突を避けるための措置をとらずに続航した。
 A受審人は、17時02分少し前萬福丸が方位にほとんど変化がなく接近していることに気付き、汽笛を吹鳴し、続いて右舵一杯をとり、機関を停止したが効なく、しまんとは、17時02分高茂埼灯台から285度5.7海里の地点において、ほぼ原針路、原速力のまま、その左舷中央部に萬福丸の船首が前方から48度の角度で衝突した。
 当時、天候は雨で風力2の南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 また、萬福丸は、一本つり漁業に従事する、後部に操舵室を備えたFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、たい漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日05時00分大分県大島漁港を発し、豊後水道を挟んで東方対岸にあたる横島沿岸の漁場に至って操業を開始した。
 B受審人は、たい約40キログラムの漁獲を得たのち帰途に就くこととし、16時55分高茂埼灯台から289度4.5海里の地点を発進し、針路を272度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で進行した。
 16時58分B受審人は、高茂埼灯台から287度5.0海里の地点に達したとき、右舷船首26.5度1.75海里のところに、南下するしまんとを視認できる状況で、17時00分同船が、右舷船首30度1,600メートルのところで右転し、その後新たな衝突のおそれのある態勢となり前路に接近していたが、このころ周囲を一瞥して他船が見当たらなかったことから、支障となる他船はいないものと思い、船首甲板で船尾方向を向いていけすに入れた生餌の選別作業に専念し、十分な見張りを行うことなく、しまんとに気付かず、右転するなど衝突を避けるための措置をとらずに続航した。
 17時02分少し前B受審人は、しまんとの吹鳴した汽笛を聞いて至近に迫った同船に初めて気付き、急ぎ操舵室に戻ったがどうすることもできず、萬福丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、しまんとは左舷中央部外板に軽微な擦過傷を生じ、萬福丸は船首部外板に亀裂を生じたが、のち修理された。

(原因)
 本件衝突は、豊後水道において、南下中のしまんとが、動静監視不十分で、前路を無難に替わる態勢にあった萬福丸に対し、転針して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、西進中の萬福丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、豊後水道を南下中、左舷前方に西進中の萬福丸を視認して進行する場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、萬福丸との衝突のおそれの有無を判断できず、同船が同一針路で近づくことに不安を感じて転針し、無難に替わる態勢にあった同船に対し新たな衝突のおそれを生じさせ、衝突を招き、しまんとの左舷中央部外板に擦過傷を、萬福丸の船首部外板に亀裂を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、豊後水道を西進する場合、前路に接近するしまんとを見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲を一瞥して他船が見当たらなかったことから、支障となる他船はいないものと思い、船首甲板でいけすに入れた生餌の選別作業に専念し、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、しまんとに気付かず進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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