(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月27日11時00分
金沢港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第一七宝丸 |
漁船第30やまと丸 |
総トン数 |
31トン |
14.94トン |
全長 |
23.85メートル |
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登録長 |
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14.93メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
345キロワット |
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漁船法馬力数 |
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95 |
船種船名 |
漁船第8光福丸 |
総トン数 |
14.90トン |
登録長 |
14.99メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
160 |
3 事実の経過
第一七宝丸(以下「七宝丸」という。)は、沖合底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、鉄工所技師1人を乗せ、試運転の目的で、船首0.8メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成10年8月27日09時30分石川県金沢港水産ふ頭の船だまり(以下「船だまり」という。)を発し、西防波堤北端沖合に向かったところ、10時00分金沢港西防波堤灯台東方300メートル付近に至ったとき機関の不具合が生じ、点検のためしばらく停留したのち、10時40分同地を発進して船だまりに戻ることとなった。
ところで、A受審人は、1箇月前に海技免状を取得したばかりで、船長としての経験も着岸操船の経験もなかったが、他船の甲板員として20年の乗船経歴があったことから、前任の船長の急な退職に伴って8月初旬船長として雇い入れされ、その後、9月1日の出漁に備えて操業準備に当たり、その間に機関の修理も行われていたため、今回、試運転のため出航したものであった。
一方、船だまりは、金沢港の大野岸壁から更に南の内奥に位置し、南北の長さ210メートル、東西の幅140メートルの北に開いた凹状の泊地で、内周に沿って多数の漁船が係留しており、A受審人は、その南側岸壁に再係留する予定であった。
A受審人は、自ら操舵操船に当たり、西防波堤、次いで石油岸壁に沿って港内を南下し、大野岸壁前面に至ったとき、船だまりに向け大きく右転し、10時56分半大野灯台から107度(真方位、以下同じ。)720メートルの地点に達したとき、針路を船だまり南西端に向首する213度に定め、機関を微速力前進にかけ、5.0ノットの対地速力(以下、速力は対地速力である。)で手動操舵により進行した。
A受審人は、船だまり南側岸壁中央部に左舷付けしている第三船とその東側に船尾付けで係留中の第30やまと丸(以下「やまと丸」という。)との間に右舷付けで係留することとし、10時59分少し前大野灯台から136度710メートルの地点に至ったとき、20度の舵角で左転を開始した。
このとき、目的の岸壁まで150メートルの距離があったものの、初めての着岸操船となることを考慮すれば、このような余裕のある時期に一旦機関を停止するなどして十分に減速すべき状況となっていたが、同人は、5ノット程度の速力であればもっと接近してからでも大丈夫と思い、十分に減速することなくそのまま回頭を続けた。
11時00分少し前A受審人は、大野灯台から143度810メートルの地点に達したとき、第三船の右舷船尾に著しく接近するとともに、やまと丸まで40メートルに近づいたことから急に不安が募り、慌てて機関を全速力後進にかけたが、誤って再び機関を前進にかけるなどしているうち、11時00分七宝丸は、大野灯台から142度850メートルの地点において、ほぼ原速力のまま099度を向首したその船首が、やまと丸の左舷船尾部に直角に衝突し、その衝撃でやまと丸の右舷船尾部が、同船の右舷側に同じ体勢で係留していた第8光福丸(以下「光福丸」という。)の左舷船尾部に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の東北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
また、やまと丸は、FRP製漁船で、船長Dほか4人が乗り組み、小型底引き網漁業に従事していたところ、同年6月28日休漁期に入ったため、船首1.0メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、船だまり南側岸壁に、船尾を岸壁に向けて係留索をとり、船首を009度に向け錨索を出して係留中、前示のとおり衝突した。
一方、光福丸は、FRP製漁船で、船長Fほか3人が乗り組み、小型底引き網漁業に従事していたところ、同年8月26日11時00分帰港し、船首0.9メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、やまと丸の東隣に20センチメートルばかり離し、船尾を岸壁に向けて係留索をとり、船首を009度に向け錨索を出して係留中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、七宝丸は、ほとんど損傷がなかったが、やまと丸及び光福丸は、左舷側後部外板をそれぞれ損傷し、のち両船とも修理された。
(原因)
本件衝突は、金沢港において、七宝丸が、着岸する際の減速措置が不十分で、過大な速力のまま、岸壁係留中のやまと丸外1隻に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、金沢港において、自らの操船により、多数の船舶が係留する同港内奥の水産ふ頭船だまりに着岸する場合、初めての着岸操船であったから、余裕のある時期に一旦機関を停止するなどして十分に減速すべき注意義務があった。しかるに、同人は、5ノット程度の速力であればもっと接近してから速力を減じても大丈夫と思い、余裕のある時期に一旦機関を停止するなどして十分に減速しなかった職務上の過失により、過大な速力のまま岸壁に接近し、岸壁係留中のやまと丸への衝突を、更にその衝撃で隣に並んで停泊していた光福丸への衝突をそれぞれ招き、両船の左舷側後部外板に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。