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平成12年横審第101号
件名

油送船ひかり丸プレジャーボートムーンラビット衝突事件
二審請求者〔理事官伊藤由人〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年3月15日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(勝又三郎、猪俣貞稔、西村敏和)

理事官
伊東由人

受審人
A 職名:ひかり丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:ムーンラビット船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
ひかり丸・・・左舷船首部外板に擦過傷
ム 号・・・船首部を大破して沈没

原因
ム 号・・・動静監視不十分、船員の常務(前路進出)不遵守

主文

 本件衝突は、ムーンラビットが、動静監視不十分で、無難に替わる態勢にあったひかり丸の前路に進出したことによって発生したものである。
 受審人Bの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年11月22日04時04分
 京浜港東京区

2 船舶の要目
船種船名 油送船ひかり丸 プレジャーボート ムーンラビット
総トン数 141トン 7.14トン
全長 40.40メートル 7.96メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 367キロワット 136キロワット

3 事実の経過
 ひかり丸は、船尾船橋型の鋼製油送船で、A受審人ほか2人が乗り組み、軽油500キロリットルを載せ、船首2.1メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、航行中の動力船の灯火を表示し、平成11年11月22日03時14分京浜港川崎区の多摩川係船場を発し、荒川上流に所在するジャパンエナジー朝霞油槽所桟橋に向かった。
 ところで、ひかり丸は荒川を遡航して前示桟橋に至るまでには多数の橋梁下を航行するが、河口に近い高速湾岸荒川橋の航行は問題ないものの、それより上流の橋梁は桁下高さが十分でなく、このため航行に支障のないよう事前にマストを倒す必要があった。
 A受審人は、甲板長を見張りに就け、機関を回転数毎分380の8.5ノットの全速力前進にかけ、針路を適宜にとって手動操舵で進行し、東京国際空港南東端を替わしたのち北上し、03時50分ごろ視界が良く少し早めにマストを倒しておこうと思い、甲板長に命じてマスト灯を消し、マストを倒させたのち食事に行かせた。
 03時59分半A受審人は、東京東防波提灯台から161度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点に達したとき、針路を高速湾岸荒川橋の中央に向く006度に定めたところ、04時01分正船首わずか左方1.5海里のところにムーンラビット(以下「ム号」という。)の白、紅、緑3灯を初認し、同船は白波を立てながらバウンドし、船首を左右に振るようにして高速で航走しているのでモーターボートと判断して続航した。
 04時03分少し前A受審人は、ム号が少しずつ自船の船首方に寄ってくるように感じ、互いに左舷を対して航行することを示すため、ム号に自船の紅灯のみを見せるよう少しずつ針路を右に転じ、同時03分少し過ぎ正船首わずか左700メートルのところで同船が時折両舷灯を見せるようになったので、右転をすれば安全に航行できると思い、操船信号を行わないまま、右舵5度をとって進行した。
 A受審人は、ム号と無難に替わるつもりで右回頭を続けていたところ、04時04分少し前同船が左舷前方至近のところに緑灯を見せ、自船の前路に進出したのを認め、衝突の危険を感じ右舵一杯をとり、機関を後進にかけたが、効なく、原速力のまま、04時04分東京東防波提灯台から143度1.0海里の地点において、055度を向いたひかり丸の左舷船首にム号の船首が直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は高潮時であった。
 また、ム号は、最大搭載人員が10人のFRP製プレジャーボートで、釣りの目的で、B受審人が1人で乗り組み、知人2人を同乗させ、船首0.3メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、航行中の動力船の灯火を表示し、同日03時55分東京都江東区の夢の島マリーナを発し、千葉県館山湾に向かった。
 B受審人は、低速で新砂水門を経由して荒川に出たのち、機関の回転数毎分3,300の26.0ノットの全速力前進にかけ、荒川西岸に沿う針路として手動操舵で南下し、04時01分ごろ前方に停泊船の灯火が多数見えたので、若干減速して22.0ノットの速力として進行した。
 04時02分少し過ぎB受審人は、東京東防波提灯台から116度1,150メートルの地点で東京東第2号灯浮標(以下、東京東各号灯浮標については「東京東」を省略する。)を認め、針路をほぼ同灯浮標に向く176度に定めて進行していたところ、同灯浮標を見失ってしまったが、周囲の灯火などで方位の見当をつけ、同一針路を保てるようにして続航した。
 04時03分B受審人は、東京東防波提灯台から128度1,390メートルの地点で、第1号及び第2号灯浮標を確認し、針路をその中間に向く187度に転じたとき、ほぼ正船首方850メートルのところにひかり丸の紅、緑の2灯を認め、このままの進路で無難に替わると思い、その動静を十分把握できるよう安全な速力に減速しないまま進行した。
 B受審人は、目標としていた第2号灯浮標をさがしているうちにひかり丸をも見失ったまま、同一針路、速力で続航し、04時03分半左舷前方にいた同船と400メートルに接近したことに気付かないまま、同船とは右舷を対して航過できるつもりで、少しずつ左転して進行するうち、同船の前路に進出し、同時04分わずか前船首至近に同船の紅灯と船体を認め左舵一杯をとったが、効なく、原速力のまま、船首が145度を向いたとき前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、ひかり丸は左舷船首部外板に擦過傷を生じ、ム号は船首部を大破して沈没したが、のち引き揚げられ、B受審人が左大腿部に打撲傷を、同乗者2人が骨折などを負った。

(原因)
 本件衝突は、夜間、京浜港東京区において、ム号が、東京東第1号灯浮標と同第2号灯浮標との間に向けて航行中、転進方向に対する動静監視が不十分で、無難に替わる態勢のひかり丸の前路に進出したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、京浜港東京区において、東京東第1号灯浮標と同第2号灯浮標との間に向けて航行中、前路に反航するひかり丸の両舷灯を視認した場合、その動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、このままの進路で無難に替わるものと思い、その動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、ひかり丸の動静を把握できないまま、その前路に進出して衝突を招き、ひかり丸の左舷船首部外板に擦過傷を生じさせ、ム号の船首部を大破して沈没させ、自らは打撲傷を負い、同乗者2人に骨折などを負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:67KB)





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