(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年7月24日03時50分
岩手県綾里埼南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第三豊邦丸 |
油送船栄和丸 |
総トン数 |
749トン |
699トン |
全長 |
82.09メートル |
76.67メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
1,323キロワット |
3 事実の経過
第三豊邦丸(以下「豊邦丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長D、A受審人ほか2人が乗り組み、転炉スラグ2,168トンを載せ、船首4.15メートル船尾5.00メートルの喫水をもって、平成11年7月23日11時25分鹿島港を発し、新潟県姫川港に向かった。
D船長は、航海中の船橋当直を23時45分から03時45分まで及び11時45分から15時45分までを二等航海士(以下「二航士」という。)、03時45分から07時45分まで及び15時45分から19時45分までをA受審人にそれぞれ単独で当たらせ、自らは07時45分から11時45分及び19時45分から23時45分に入直する4時間交替の3直制とし、実際には当直交替予定時刻の5分前に昇橋して前直者から当直を引き継ぐ当直体制を繰り返して航海を続け、自ら入直して航行中の動力船であることを示す灯火を掲げ、福島県から宮城県の東岸沿いを北上したのち、23時40分金華山灯台から159度(真方位、以下同じ。)約6海里の地点に達したとき、昇橋してきた二航士に船橋当直を引き継ぐことにした。
ところで、D船長は、平素から船橋当直者に対し、霧などにより視程が2海里以下になったら報告するよう繰り返し指示し、折から霧模様で視程が3海里ばかりになっていたので、二航士に対し同指示を与えて降橋し自室で休息した。
翌24日03時40分A受審人は、綾里埼灯台から156度8.7海里の地点で昇橋して間もなく、霧のため視界が著しく制限された状況下で船長が在橋していないことを知ったものの、前直者を促せて視程が2海里以下であることを速やかに船長に報告することも、霧中信号を行うこともしないまま、GPSの表示を見て018度の針路及び11.0ノットの全速力前進で進行中であることを知ったのち、3海里レンジとしたレーダーを見ながら二航士と引継ぎを始めた。
03時42分A受審人は、綾里埼灯台から155度8.5海里の地点で、二航士から視程が約0.5海里である旨を聞いて引継ぎを終えたが、依然として視界制限状態であることを船長に報告せず、霧中信号を行わず、針路を018度に定め、機関を対地速力11.0ノットの全速力前進にかけたまま安全な速力としないで、自動操舵により進行した。
当直を引き継いだとき、A受審人は、レーダーで左舷船首7.5度3.0海里のところに栄和丸の映像を初めて探知し、間もなくその接近模様から同船が反航船で、著しく接近することとなることが分かったものの、大幅に右転するなど、この事態を避ける措置をとらず、03時45分綾里埼灯台から152度8.0海里の地点に達したとき、両船の距離が1.9海里となり、著しく接近することを避けることができない状況となったが、かなり接近しても相手船を視認してから転舵すれば替わせるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、行きあしを止めることもせず、左舷を対して替わるつもりで針路を5度右に転じて023度とし、その後肉眼で前方の見張りに当たって続航中、同時50分少し前左舷船首至近に栄和丸の灯火を認めて驚き、急ぎ機関を中立、続いて右舵一杯としたが、03時50分綾里埼灯台から146.5度7.5海里の地点において、豊邦丸は、ほぼ原針路、同速力のままその船首が、栄和丸の右舷船首部に前方から23度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風力2の北北西風が吹き、視程は約200メートルであった。
D船長は、自室で休息中、衝突の衝撃で本件発生を知り、急ぎ昇橋して事後の措置に当たった。
また、栄和丸は、専ら重油の輸送に従事する船尾船橋型鋼製油送船で、船長G、B受審人ほか5人が乗り組み、空倉のまま、船首1.60メートル船尾3.20メートルの喫水をもって、同月23日10時40分室蘭港を発し、鹿島港に向かった。
G船長は、航海中の船橋当直を4時間交替の3直制とし、03時20分から07時20分まで及び15時20分から19時20分までをB受審人、11時20分から15時20分まで及び23時20分から03時20分までを甲板長にそれぞれ単独で当たらせ、自らは07時20分から11時20分及び19時20分から23時20分に入直する当直体制を繰り返して航海を続け、自ら入直して青森県から岩手県の東岸沿いを南下したのち、23時20分閉伊埼灯台から011度約16海里の地点に達したとき、次直の甲板長に船橋当直を引き継ぐことにした。
ところで、G船長は、前任の船長が7月3日から休暇下船中で、その間昇格して船長職を執っていたもので、視界制限時の船長報告について、前任船長が平素船橋当直者に対し、霧などにより視程が2海里以下になったら報告するよう夜間命令簿により指示していたうえ、年間4回程度用船者が訪船した際に開催される安全会議においても乗組員全員に対して同様の指示がされ、その内容が記載された指示書が船橋に掲示されていたので、針路及び速力を告げて引継ぎを終え、降橋して自室で休息した。
翌24日03時20分B受審人は、綾里埼灯台から094度5.1海里の地点で昇橋して前直の甲板長から当直を引き継ぎ、針路を195度に定め、機関を全速力前進にかけ12.0ノットの対地速力で、航行中の動力船であることを示す灯火を掲げ、岩手県綾里埼東方沖合を自動操舵で南下した。
当直を引き継いだとき、B受審人は、霧のため視界が著しく制限された状況であったものの、その旨をG船長に報告することなく、霧中信号を行わず、安全な速力としないで進行し、03時34分綾里埼灯台から125度5.3海里の地点に達したとき、レーダーで右舷前方の陸岸沿いに漁船らしき映像が点在しているのを認めて沖合の進路をとることにし、針路を7度左に転じ、188度として続航した。
転針して間もなく、B受審人は、右舷船首3.5度6.0海里のところに豊邦丸の映像を探知し、その後その動静を監視したところ反航船であることを知った。
03時42分B受審人は、綾里埼灯台から138.5度6.3海里の地点に達したとき、豊邦丸の映像を右舷船首2.5度3.0海里に見るようになり、同船に著しく接近することとなることが分かったものの、大幅に速力を減じるなど、この事態を避ける措置をとらず、豊邦丸の映像を船首輝線の右側に離すよう針路を8度左に転じ、180度として進行した。
03時45分B受審人は、両船の距離が1.9海里となり、著しく接近することを避けることができない状況となったが、豊邦丸の映像が船首輝線の右側にあるのでこのまま右舷を対して替わせるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、行きあしを止めることもせず、レーダーを1.5海里レンジとして同船の映像を見ながら続航中、同時50分少し前ようやく不安を感じて前方を見張ったとき、右舷船首至近に豊邦丸の灯火を認め、急ぎ右舵一杯、続いて機関を停止としたが、栄和丸は、ほぼ原針路、同速力のまま前示のとおり衝突した。
G船長は、自室で休息中、衝突の衝撃で本件発生を知り、急ぎ昇橋して事後の措置に当たった。
衝突の結果、豊邦丸は船首部外板に、栄和丸は右舷船首部外板にそれぞれ亀裂を伴う凹損を生じ、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、霧のため視界が著しく制限された岩手県綾里埼南東方沖合において、北上中の豊邦丸が、霧中信号を行わず、安全な速力とせず、かつ、レーダーで左舷船首方に栄和丸の映像を探知し、同船に著しく接近することとなったとき、その事態を避けるための大幅な動作をとらず、その後同船に著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、行きあしを止めずに針路を小角度右に転じて進行したことと、南下中の栄和丸が、霧中信号を行わず、安全な速力とせず、かつ、レーダーで右舷船首方に豊邦丸の映像を探知し、同船に著しく接近することとなったとき、その事態を避けるための大幅な動作をとらず、その後同船に著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、行きあしを止めずに針路を小角度左に転じて進行したこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、霧のため視界が著しく制限された岩手県綾里埼南東方沖合を北上中、レーダーで左舷船首方に栄和丸の映像を探知し、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったのを認めた場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、また、行きあしを止めるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、かなり接近しても相手船を視認してから転舵すれば替わせるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、行きあしを止めなかった職務上の過失により、小角度に右転進行して栄和丸との衝突を招き、豊邦丸の船首部及び栄和丸の右舷船首部にそれぞれ亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、霧のため視界が著しく制限された岩手県綾里埼南東方沖合を南下中、レーダーで右舷船首方に豊邦丸の映像を探知し、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったのを認めた場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、また、行きあしを止めるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、豊邦丸の映像が船首輝線の右側にあるのでこのまま右舷を対して替わせるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、行きあしを止めなかった職務上の過失により、小角度に左転進行して豊邦丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。