(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年9月27日10時05分
宮城県松島湾
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船天龍丸 |
漁船第八大慶丸 |
総トン数 |
1.3トン |
1.1トン |
登録長 |
6.85メートル |
7.11メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
漁船法馬力数 |
30 |
30 |
3 事実の経過
天龍丸は、採介藻漁業に従事する船外機を装備したFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、のり養殖作業の目的で、船首0.1メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、平成11年9月27日05時30分宮城県月浜漁港を発し、同県松島湾内の羅漢島北北西方約1,000メートルにあるのり養殖施設に至って同作業を始め、09時58分同作業を終えて同施設を発し、帰途に就いた。
ところで、松島湾の羅漢島北側には、毎年9月から翌年4月までの間、宮城県区第325号(以下「第325号養殖区画」という。)及び同第328号(以下「第328号養殖区画」という。)と称する、のりとかきの養殖区画が設置されており、第325号養殖区画の養殖施設が、同島29メートル頂(以下「羅漢島頂」という。)から094度(真方位、以下同じ。)120メートルの地点(以下「F点」という。)、F点から310度330メートルの地点(以下「ロ点」という。)、ロ点から247度160メートルの地点(以下「ハ点」という。)、ハ点から332度810メートルの地点(以下「ニ点」という。)、ニ点から060度250メートルの地点(以下「ホ点」という。)、ホ点から138度940メートルの地点(「ヘ点」という。)の各点を順次結んだ線で囲まれた区域に、また、第328号養殖区画の養殖施設が、羅漢島頂から046度440メートルの地点(以下「チ点」という。)、チ点から320度940メートルの地点(以下「リ点」という。)、リ点から056度660メートルの地点(以下「ヌ点」という。)、ヌ点から128度780メートルの地点(以下「ル点」という。)、ル点から140度200メートルの地点(「ヲ点」という。)の各点を順次結んだ線で囲まれた区域にそれぞれ設定されていた。
A受審人は、発航時から立てひざの姿勢で右舷船尾に位置し、左手で船外機のハンドルを持ちながら左舷方を向いて操船に当たり、10時00分羅漢島頂から339度1,050メートルの地点で、針路を137度に定め、機関を微速力前進にかけ、4.4ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
定針したとき、A受審人は、右舷船首16度1,130メートルに第八大慶丸を視認できる状況であったが、一瞥して前路には航行に支障のある他船はないものと思い、前方の見張りを十分に行うことなく、第八大慶丸の存在に気付かないで続航した。
10時04分わずか過ぎA受審人は、羅漢島頂から000度570メートルの地点に達したとき、第八大慶丸が右舷船首9度350メートルに接近していることも、その後同船が自船の船首方を約180メートル離して無難に航過する態勢であることにも気付かず、10.7ノットに増速して新たな衝突の危険のある関係を生じさせて進行した。
10時05分わずか前A受審人は、第328号養殖区画の養殖施設南側を替わす針路に向けようと左転を始めたとき、右舷船首至近に迫った第八大慶丸を初めて認め、左舵一杯、機関を中立としたが間に合わず、10時05分羅漢島頂から032度400メートルの地点において、天龍丸は、067度に向首したとき、原速力のまま、その船首が第八大慶丸の左舷中央部に後方から57度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期であった。
また、第八大慶丸は、大慶丸船団に所属して採介藻漁業に従事する、船外機を装備したFRP製漁船で、同月27日早朝から第328号養殖区画の養殖施設でのり養殖作業に従事していたが、他の養殖施設の作業場(以下「作業場」という。)に使用する竹竿を運搬するため、大慶丸とともに宮城県九ノ島西端の積込み場(以下「積込み場」という。)に至って竹竿の積込みを開始した。
ところで、B受審人は、第八大慶丸船舶所有者の実父が仕事を辞めてから、実質的な船舶所有者となり、のり養殖作業の際には、自ら大慶丸を操船するとともに大慶丸船団並びにC指定海難関係人及び作業員2人の指揮監督に当たっていた。
09時35分B受審人は、大慶丸に竹竿の積込みを終えたのち、作業員1人を乗せて作業場に向かうこととし、第八大慶丸にC指定海難関係人と作業員1人を残すことになったが、C指定海難関係人が川船で川のえび刺し網漁を行っていることを認めていたことから有資格者であるものと思い、第八大慶丸に有資格者を乗り組ませることなく、第八大慶丸の運航をC指定海難関係人に委ねて発航した。
09時55分第八大慶丸は、無資格のC指定海難関係人1人が乗り組み、作業員1人を乗せ、竹竿を揚げる目的で、喫水不詳のまま、積込み場を発して作業場に向かった。
C指定海難関係人は、発航時から作業員を積載した竹竿のほぼ中央部に配置し、自らは右舷船尾に座って操舵操船に当たり、10時00分羅漢島頂から101度140メートルの地点で、針路を010度に定め、機関を極微速力前進にかけ、2.5ノットの速力で進行した。
定針したとき、C指定海難関係人は、左舷船首37度1,130メートルのところに天龍丸を視認することができる状況であったが、作業場を捜すことに気を奪われ、見張りを十分に行わないで、同船に気付かないまま続航した。
10時04分わずか過ぎC指定海難関係人は、羅漢島頂から035度340メートルの地点に達したとき、左舷船首44度350メートルのところで、天龍丸が増速して新たな衝突の危険のある関係を生じさせる状況となったことに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないで進行中、10時05分第八大慶丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、天龍丸及び第八大慶丸は、それぞれ船外機を損傷し、また、C指定海難関係人は、1週間の入院加療を要する頭部切創を負った。
(原因)
本件衝突は、養殖施設の設置してある松島湾において、南下する天龍丸が、見張り不十分で、無難に航過する態勢の第八大慶丸に対し、増速して新たな衝突の危険のある関係を生じさせたことによって発生したが、第八大慶丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
第八大慶丸の実質的な船舶所有者である大慶丸船団長兼指揮船船長が第八大慶丸に有資格者を乗り組ませなかったことは本件発生の原因となる。
(受審人等の所為)
A受審人は、養殖施設の設置してある松島湾を南下する場合、前路を無難に航過する態勢の第八大慶丸を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、一瞥して前路には航行に支障のある他船はないものと思い、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を無難に航過する態勢の第八大慶丸に気付かず、増速して新たな衝突の危険のある関係を生じさせて同船との衝突を招き、天龍丸及び第八大慶丸両船の船外機に損傷をそれぞれ生じさせ、第八大慶丸の乗組員を負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、養殖施設の設置してある松島湾において、第八大慶丸の実質的な船舶所有者である大慶丸船団長兼指揮船船長として大慶丸船団を指揮し、第八大慶丸の運航を乗組員に委ねる場合、有資格者を乗り組ませるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、C指定海難関係人が川船で川のえび刺し網漁を行っていることを認めていたことから有資格者であるものと思い、有資格者を乗り組ませなかった職務上の過失により、天龍丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、第八大慶丸の乗組員を負傷させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C指定海難関係人が、養殖施設の設置してある松島湾でのり養殖作業に従事する際、無資格で第八大慶丸を操船したばかりか、見張りを十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては、同人が無資格で操船したこと及び見張りを十分に行わなかったことについて十分反省している点に徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。