(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年7月25日10時47分
北海道利尻島北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船北洋丸 |
漁船第三十五北洋丸 |
総トン数 |
237トン |
6.6トン |
全長 |
42.01メートル |
16.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,176キロワット |
301キロワット |
3 事実の経過
北洋丸は、専ら漁業に関する試験、調査業務に従事する鋼製漁船で、船長イ、A受審人ほか18人が乗り組み、宗谷海峡周辺での海洋観測を行う目的で、調査員3人を乗船させ、船首2.9メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、平成12年7月24日10時20分北海道稚内港を発し、同11時10分野寒布(のしゃっぷ)岬沖から順次各観測地点に沿って海洋観測業務を開始した。
ところで、F船長は、船橋当直を4時間交替の3直制とし、各直を1人の航海士と2人の甲板部員等の計3人により実施させ、自らは、出入航時のほか狭視界時等の操船指揮に当たっていた。
翌25日07時50分A受審人は、他の2人の甲板部員と共に船橋当直に就いて海洋観測業務を続行し、09時12分第14番目の観測を終了し、第15番目の観測地点に移動するため、機関を全速力前進にかけ、自動操舵により航走を開始した。
A受審人は、10時42分鴛泊港東外防波堤東灯台(以下「東灯台」という。)から061度(真方位、以下同じ。)4.7海里の地点に達したとき、左舷船首20度1.5海里ばかりのところに小型漁船(以下「第三船」という。)を視認したため、同船との航過距離を大きくとるつもりで、自動操舵のまま5度右転し、針路を345度に定め、機関を全速力前進にかけて11.5ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、10時44分東灯台から056度4.8海里の地点に達したとき、右舷船首37度1.1海里のところに前路を左方に横切る態勢の第三十五北洋丸を視認し得る状況で、その後衝突のおそれのある態勢で互いに接近していたが、同人ほか2名の当直者全員が前示の左舷方の第三船の動静を監視することに気を奪われ、右舷側の見張りが不十分となって、第三十五北洋丸に気付くことなく、右転するなど同船の進路を避けることなく続航した。
A受審人は、10時46分少し過ぎ前示左舷方の第三船が替わったころ、右舷方近距離のところに接近した第三十五北洋丸を初めて認めて衝突の危険を感じ、直ちに同船の注意を喚起するため汽笛を吹鳴し、引き続いて同時47分少し前機関を全速力後進にかけるも及ばず、北洋丸は、10時47分東灯台から050度5.0海里の地点で、ほぼ原針路でわずかな前進行きあしをもったまま、その右舷前部に第三十五北洋丸の船首部が前方から約65度の角度で衝突した。
当時、天候は霧雨で風力2の南南東風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、視程1.5海里であった。
また、第三十五北洋丸は、たこからつりなわ漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人と甲板員Dの2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、同月25日06時30分北海道利尻郡利尻富士町にある雄忠志内漁港を発し、同漁港北東方10海里ばかりの漁場に向かい、たこ約500キログラムを漁獲したのち、10時30分東灯台から050度9.2海里の地点で、利尻島の鴛泊港に向け発進した。
発進時B受審人は、3海里レンジとしたレーダー画面上に自船の航行の支障となる他船を認めなかったので、操舵室内で1人で操舵操船に当たり、甲板員に前部甲板上で漁獲物の整理を行わせ、自動操舵により針路を東灯台に向く230度に定め、機関を全速力前進にかけ15.0ノットの対地速力とした。
B受審人は、今回の操業で今期のたこからつりなわ漁の最終操業となるため、発進後GPSに入力してあった同漁に関連したメモリーの消去作業を行いながら進行中、10時44分東灯台から050度5.7海里の地点に達したとき、左舷船首28度1.1海里のところに前路を右方に横切る態勢の北洋丸を視認し得る状況で、その後衝突のおそれのある態勢で互いに接近していたが、前示の作業に没頭していて、周囲の見張りが不十分となり、同船に気付くことなく、警告信号を行わず、更に接近するに及んで衝突を避けるための協力動作をとることなく続航中、10時46分半ごろ北洋丸の汽笛信号を聞き、慌てて機関回転数を減速するも及ばず、第三十五北洋丸は、ほぼ原速力、原針路のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、北洋丸は、右舷前部外板に凹損などを生じ、第三十五北洋丸は、船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。また、B受審人が左多発肋骨骨折などを、D甲板員が頭蓋骨陥没骨折などをそれぞれ負った。
(原因)
本件衝突は、利尻島北東方沖合で、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、北洋丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第三十五北洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第三十五北洋丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、更に接近するに及んで衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、利尻島北東方沖合を航行する場合、右舷方から接近する第三十五北洋丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷方の第三船の動静を監視することに気を奪われ、周囲の見張りを十分行わなかった職務上の過失により、右舷方から衝突のおそれのある態勢で接近する第三十五北洋丸に気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、自船の右舷前部外板に凹損などを生じ、第三十五北洋丸の船首部を圧壊させ、また、B受審人に左多発肋骨骨折などを、D甲板員に頭蓋骨陥没骨折などをそれぞれ負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、利尻島北東方沖合を航行する場合、左舷方から接近する北洋丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、発進時周囲に航行の支障となる他船を認めなかったことから、GPSの操作に没頭し、周囲の見張りを十分行わなかった職務上の過失により、左舷方から衝突のおそれのある態勢で接近する北洋丸に気付かず、衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、また、自身が負傷し、D甲板員を負傷させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。