(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年9月29日16時35分
山口県特牛(こっとい)港西北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二十一龍進丸 |
漁船第三海宝丸 |
総トン数 |
19トン |
16トン |
全長 |
22.700メートル |
19.98メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
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561キロワット |
漁船法馬力数 |
190 |
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3 事実の経過
第二十一龍進丸(以下「龍進丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事する、船体中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、平成11年9月29日12時50分山口県特牛港を発し、15時30分同港西北西方沖合約26海里の漁場に至り、操業を始める日没まで待機するため、機関を停止したのち、船首からパラシュート形シーアンカーを投入し、直径36ミリメートルの合成繊維製引索を50メートル延出して漂泊を開始した。
漂泊後、A受審人は、乗組員2人に船体後部の船員室で休息をとらせ、自らが船橋当直を行っているうち、自身も身体を休めることとし、16時00分左右両舷を無線電話や配電盤などで、後方を窓のない壁でそれぞれ囲まれた操舵室後部の、床面からの高さ1メートルばかりのじゅうたん敷き台の上で横になった。
A受審人は、16時26分わずか過ぎ角島灯台から283度(真方位、以下同じ。)22.7海里の地点で、船首が013度を向いていたとき、右舷正横後5度1.5海里のところに第三海宝丸(以下「海宝丸」という。)を視認でき、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、漂泊中の自船を他船が避けるものと思い、依然操舵室後部の台の上に横になったまま、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近しても機関を始動して前進するなどの衝突を避けるための措置をとることもなく、漂泊を続けた。
16時35分わずか前A受審人は、機関音に気付いて起き上がり、操舵室の窓から右舷方を見たところ、至近に迫った海宝丸を初めて認めたが、何をする間もなく、16時35分角島灯台から283度22.7海里の地点において、龍進丸は、船首を013度に向けたまま、その右舷船首部に、海宝丸の船首が後方から85度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北北東風が吹き、視界は良好で、潮候は下げ潮の末期であった。
また、海宝丸は、いか一本釣り漁業に従事する、船体中央部に操舵室を設けた軽合金製漁船で、B受審人及び同受審人の息子のC受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日14時00分特牛港を発し、同港西北西方沖合50海里ばかりの漁場に向かった。
これより先、B受審人は、前日28日夜山口県見島北方沖合の漁場で操業中、燃料移送ポンプが故障して主機が停止したので、C受審人に手動ポンプにより燃料を常備タンクに送らせて主機を起動し、再び操業を行ったのち、同漁場を発進して自ら操船に当たり、引き続きC受審人に同ポンプで燃料を送らせながら翌29日09時00分特牛港に入港し、水揚げなどを済ませ、11時00分からC受審人と2人で同ポンプの修理に取り掛かり、2時間余りかかって修理を終えたものの、休息をとれないまま、他の漁船とともに同港を出航したもので、自身及びC受審人とも睡眠不足の状態であったことから、同港から漁場までの航海中、交替で休息をとる予定であった。
B受審人は、出航操船を行い、14時05分特牛港港外の要岩灯浮標西方沖合に至ったとき、C受審人に船橋当直を委ねることとし、その際、眠気を催したときには当直を交替する旨を同受審人に告げ、しばらく休息したあと同受審人と当直を交替するつもりで、降橋して操舵室後方の船員室で休息した。
C受審人は、単独の船橋当直に当たり、14時22分角島灯台から202度2.0海里の地点に達したとき、針路を288度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.1ノットの対地速力で進行した。
16時00分ごろC受審人は、眠気を催したので、顔を洗ったり外気に当たるなどして眠気をとったのち、舵輪後方約50センチメートルの、床面からの高さ約75センチメートルの台に腰を掛けたところ、再び眠気を催してきたが、目を覚ますため、顔を洗うなどしたので、まさか居眠りをすることはあるまいと思い、休息中のB受審人を起こして当直を交替するなど、居眠り運航の防止措置をとることなく続航中、いつしか居眠りに陥った。
C受審人は、16時26分わずか過ぎ角島灯台から282.5度21.2海里の地点に至ったとき、正船首1.5海里のところに漂泊中の龍進丸を視認でき、その後衝突のおそれがある態勢で同船に接近するのを認め得る状況であったが、依然居眠りをしていたので、このことに気付かず、同船を避けないまま進行中、海宝丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、龍進丸は右舷船首部外板に破口を生じたほか、いか釣り機3台を損壊し、海宝丸は船首に擦過傷及び左舷船首部外板に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、山口県特牛港西北西方沖合において、西行中の海宝丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で漂泊中の龍進丸を避けなかったことによって発生したが、龍進丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
C受審人は、山口県特牛港西北西方沖合において、単独の船橋当直に就いて漁場に向け西行中、眠気を催した場合、睡眠不足の状態であったから、居眠り運航にならないよう、休息中のB受審人を起こして船橋当直を交替するなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、C受審人は、まさか居眠りすることはあるまいと思い、休息中のB受審人を起こして船橋当直を交替するなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、前路で漂泊中の海宝丸を避けることなく進行して同船との衝突を招き、龍進丸の右舷船首部外板に破口を生じさせたほか、いか釣り機3台を損壊させ、海宝丸の船首に擦過傷及び左舷船首部外板に凹損を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、山口県特牛港西北西方沖合において、漂泊して待機する場合、衝突のおそれがある態勢で接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、漂泊中の自船を他船が避けるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する海宝丸に気付かず、警告信号を行うことも、更に接近しても機関を使用して前進するなどの衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。