(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年8月5日11時21分00秒
山口県仙崎港
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートドルフィンI
ドルフィンI |
プレジャーボートサザン
サザン |
全長 |
3.15メートル |
2.99メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
出力 |
62キロワット |
36キロワット |
3 事実の経過
ドルフィンIは、ヤマハマリンジェットMJ−760XLと称する、FRP製水上オートバイ型プレジャーボート(以下「水上オートバイ」という。)で、山口県立水産高等学校の教諭であるA受審人が1人で乗り組み、中学生1人を乗せ、体験試乗を行わせる目的で、平成11年8月5日11時16分ごろ仙崎港沖防波堤南灯台(以下「南灯台」という。)から196度(真方位、以下同じ。)710メートルに位置する、水上オートバイ発着所とした同校桟橋を発し、同桟橋沖合に設定した体験試乗コースに至り、航走を始めた。
ところで、山口県立水産高等学校は、毎年8月の夏期休暇中に翌年の中学校卒業予定者を対象として体験入学講座を催していたところ、今年度から同講座の一環として水上オートバイの体験試乗を項目に加え、同校所有のドルフィンIと民間のマリーナから借用したサザンの2艇を使用して体験試乗を行うこととした。また、同校は、体験試乗コースとして南灯台から194度680メートルのところに浮標(以下「1号ブイ」という。)を、1号ブイから069度80メートルのところに浮標(以下「2号ブイ」という。)を、2号ブイから169度130メートルのところに浮標(以下「3号ブイ」という。)をそれぞれ設置し、これらのブイの外側を10メートルばかり離すことを目安に、大型で速力の速いドルフィンIが外側を、小型で速力の遅いサザンがブイ寄りを航走して周回するように計画を立てていた。
また、A、B両受審人及び他の水上オートバイ担当者の3人は、試乗開始前に打合せを行った際、速力を約16ノット以下に抑えたうえ、体験試乗コースを周回するにあたり、生徒と操縦席を交替する時間も含め、1周するのに要する時間を約1分と見積もり、両艇とも右回りに周回することとし、初めに各担当者が操縦して体験試乗コースを1回ないし2回周回する間、生徒にハンドルの操作方法を教えたのち、操縦席を交替し、生徒にハンドルを握らせて更に2周することなどは打ち合わせたものの、操縦を交替する際、速力を減じたうえ、いったん停止することとなるが、操縦席を交替する地点をあらかじめ定めておくなど異常接近防止策などについての事前の取決めを行っていなかった。
こうして、A受審人は、後部座席に生徒を座らせて体験試乗コースを2周したのち、1号ブイから014度30メートルの地点で、いったん停止し、生徒を操縦席に移動させてハンドルを握らせるとともに、自らも後方から同ハンドルに手を添え、11時18分52秒同地点を発し、体験試乗コースの周回を再開した。
A受審人は、体験試乗コースを2周目の周回に入って3号ブイを回り、11時20分10秒1号ブイから139度139メートルの地点に達したとき、針路を315度に定め、機関をほぼ半速力前進にかけ、16.2ノットの速力で進行した。
11時20分22秒A受審人は、1号ブイに42メートルまで接近したとき、自ら操縦して水上オートバイ発着所に戻ることにし、速力を5.0ノットに減じたが、そのころサザンが3号ブイの北方43メートルのところを後続しているのを視認し、速力を減じると互いに著しく接近するおそれがあったものの、後続するサザンが前路の状況確認を十分に行うものと思い、その後、サザンに対する動静監視を十分に行わないまま続航した。
11時20分38秒A受審人は、1号ブイの南西方10メートルの地点に達したとき、自ら決めた予定の交替地点に向かうことにして右旋回を始め、そのころ、サザンが右舷後方101メートルのところまで接近する状況となっていたものの、旋回することに気を取られていて、このことに気付かないまま進行した。
11時20分46秒A受審人は、右旋回をほぼ終えたころ、サザンが右舷後方17メートルのところまで接近していたが、依然として同艇に対する動静監視を行っていなかったので、このことに気付かず、速やかに自艇を進路から大きく外すなど衝突を避けるための措置をとることなく続航し、同時20分50秒1号ブイから014度20メートルの地点に達したとき、針路をD防波堤に係留中の青海丸に向く014度に転じ、クラッチを切って約2ノットの前進惰力で進行中、11時21分00秒南灯台から194度680メートルの地点において、行きあしがほぼ停止したとき、ドルフィンIの左舷船尾に、サザンの船首部が後方から13度の角度をもって衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
また、サザンは、ヤマハマリンジェットMJ−650TLと称する、ドルフィンIと同様のFRP製水上オートバイ型プレジャーボートで、山口県立水産高等学校の教諭であるB受審人が1人で乗り組み、中学生1人を乗せ、体験試乗を行わせる目的で、自らが操縦席に座り、生徒を後部座席に座らせて同日11時18分ごろ水上オートバイ発着所とした同校桟橋を発し、体験試乗コースに向かった。
B受審人は、体験試乗コースを1周したのち、1号ブイから058度70メートルの地点で、いったんサザンを停止し、生徒を後部座席から操縦席に移動させ、自らは後部座席に座り、11時19分03秒生徒にハンドルを握らせて同地点を発し、体験試乗コースの周回を再開した。
B受審人は、体験試乗コースの2周目の周回に入って3号ブイを回り、11時20分32秒1号ブイから137度139メートルの地点に達したとき、針路を315度に定め、機関をほぼ半速力前進にかけ、12.5ノットの速力で進行した。
針路を定めたときB受審人は、1号ブイの手前で、左舷船首方126メートルのところに、周回速力より極端に減じた速力で航走中のドルフィンIを視認することができ、原速力を保って航走すると著しく同艇に接近するおそれがあったものの、前路の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、速やかに速力を減じるなどして、同艇との艇間距離を保つ措置をとらないまま続航した。
11時20分46秒B受審人は、1号ブイの南西方6メートルの地点に達したとき、自艇の旋回方向にあたる、右舷船首53度17メートルに旋回をほぼ終えたドルフィンIを視認したが、同艇が周回速力を保って航走しているものと思っていたうえ、右旋回することに気を取られ、その後、同艇に対する動静監視を行わず、速やかに機関を停止するなどして、同艇の進路を避けることなく、また、ハンドルを握った生徒がドルフィンIに追走していることにも気付くことなく、船首をD防波堤の東端に向け、原速力のまま、027度の針路で進行中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ドルフィンIは、操縦ハンドルと左舷船尾舷側外板に損傷を生じ、サザンは、船首船底に擦過傷を生じたが、のちいずれも修理された。また、A受審人は、衝突の衝撃で海中に投げ出され、肋骨骨折などを負った。
(原因)
本件衝突は、山口県仙崎港港内の狭い水域において、ドルフィンIとサザンの両艇が、狭い水域に設けた体験試乗コースを航走する際、異常接近防止策をとらなかったばかりか、サザンが、動静監視不十分で、行きあしがほぼ停止したドルフィンIの進路を避けなかったことによって発生したが、ドルフィンIが、動静監視不十分で、後方から接近するサザンとの衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、山口県仙崎港港内の狭い水域において、中学生に水上オートバイによる体験試乗を行わせる場合、2艇の水上オートバイがほぼ同一進路を航走する状況にあったから、両艇が著しく接近することのないよう、ドルフィンIに対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、先航する同艇が周回速力を保って航走しているものと思っていたうえ、右旋回することに気を取られ、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、前路で機関を停止して惰力で進行し、ほぼ行きあしが停止したドルフィンIの進路を避けないまま進行して同艇との衝突を招き、ドルフィンIの操縦ハンドルなどに損傷を、自艇の船首船底外板に擦過傷をそれぞれ生じさせ、A受審人に肋骨骨折などを負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、山口県仙崎港港内の狭い水域において、中学生に水上オートバイによる体験試乗を行わせて航走中、操縦席を交替するため減速する場合、2艇の水上オートバイがほぼ同一の進路を航走する状況にあったから、両艇が著しく接近することのないよう、サザンに対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、後続する同艇が前路の状況確認を十分に行うものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、自艇に向首接近する態勢のサザンに気付かず、衝突を避けるための措置がとれないまま、同艇との衝突を招き、前示損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。