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平成12年広審第33号
件名

旅客船フェリーくるしま岸壁衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年2月28日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、工藤民雄、横須賀勇一)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:フェリーくるしま船長 海技免状:三級海技士(航海)

損害
くるしま・・・左舷船首外板に破口と凹損
第2フェリー岸壁・・・防衝壁及び標識灯が損傷

原因
操船不適切

主文

 本件岸壁衝突は、霧のため著しく視界が狭められた際、着岸を中止しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年6月8日04時54分
 愛媛県 松山港

2 船舶の要目
船種船名 旅客船フェリーくるしま
総トン数 4,273トン
全長 119.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 8,237キロワット

3 事実の経過
 フェリーくるしま(以下「くるしま」という。)は、可変ピッチプロペラを装備した2基2軸の船首船橋型旅客フェリーで、関門、松山両港間の定期航路に就航し、A受審人ほか21人が乗り組み、旅客127人、車両59台を載せ、船首4.20メートル船尾4.40メートルの喫水をもって、平成11年6月7日21時55分関門港を発し、松山港に向かった。
 出航操船を終えたあとA受審人は、部下に船橋当直を命じて自室で休息していたところ、翌8日04時ごろ当直中の二等航海士から霧のため視界が悪くなったとの報告を受け、同時10分松山港外港2号防波堤灯台(以下「2号防波堤灯台」という。)西南西方4.5海里の地点において昇橋し、予定どおり航行中であることを知り、自船付近の視程が方向によって異なるものの1.5海里以上あり、運航基準に定められた入港中止条件の500メートルに達していなかったのでそのまま入港することとし、04時20分2号防波堤灯台の西南西方約1海里のところで通常より少し早く乗組員を入港部署配置に就けて見張りを強化し、松山港内に向け進行した。
 A受審人は、平素、運航管理者から運航基準を順守するように注意を受けており、当直の二等航海士を機関操作、当直甲板部員2名のうちの1名を操舵、他の1名を見張りにそれぞれ従事させたほか、入港時船首配置に就くことになっている一等航海士を操舵スタンド右舷側の1号レーダーの監視に当たらせ、自らは船橋前部中央に立って2号レーダーで周囲の状況を監視しながら操船に当たり、04時25分横枕礁灯浮標を左舷側550メートルに航過したとき機関用意を令するとともにバウスラスタの用意を命じて港域内に入り、その後同灯浮標と2号防波堤灯台のほぼ中央を北上して指定係留場所の高浜町観光港第1フェリー岸壁に向かった。
 そのころから霧が次第に濃くなって視程約1,000メートルとなり、折からの弱い北寄りの風により霧が流れて視程が短時間に変化するとともに港内の場所によっても異なる状況であった。
 04時32分A受審人は、2号防波堤灯台から317度(真方位、以下同じ。)670メートルの地点で、針路をほぼ神埼に向首する359度に定め、機関を港内全速力前進にかけ、その後徐々に減速しながら平均7.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行し、同時38分半松山港高浜5号防波堤灯台(以下「5号防波堤灯台」という。)から232度1,600メートルの地点に達したとき、高浜町観光港岸壁で待機中の係留作業員から岸壁付近の視程が120ないし130メートルであるという連絡を受け、視程が入港中止条件の500メートル未満となっていることを知ったが、着岸を中止して岸壁付近の視界が回復するまで付近で待機することなく、たまたま自船の周囲の視程が約500メートルであったので何とか着岸できるだろうと思い、レーダーを監視しながらゆっくり右転を開始し、同時42分同灯台から262度1,120メートルの地点で機関を7.1ノットの微速力前進に減じ右転を続けた。
 A受審人は、第1フェリー岸壁北側に隣接する第2フェリー岸壁北西端に設置された光達距離約3海里の船舶進入誘導用黄色回転灯を視認したのち右転して第1フェリー岸壁に接近することとし、04時48分5号防波堤灯台から320度540メートルの地点で、針路を第2フェリー岸壁北西端に向首する155度とし、機関を3.3ノットの極微速力前進に減じて続航した。
 04時50分レーダーを監視していたA受審人は、高浜漁港西方沖合に設置されたレーダー反射器付灯標(西方位標識、名称なし。)の映像を左舷船首35度150メートルに探知したが、船首配置の乗組員から同灯標が見えない旨の報告を受けたので機関停止を令し、その後惰力によって続航した。
 04時51分A受審人は、前示灯標のレーダー映像が左舷正横90メートルとなっても船橋から同灯標を視認することができず、間もなく見張員から5号防波堤灯台を視認した旨の報告があり、レーダー画面を見て左舷船首方向の同防波堤先端まで約190メートル、第2フェリー岸壁まで約300メートルであったので、同岸壁北西端の黄色回転灯を視認してから機関を後進にかければ同岸壁の手前で行きあしを止めることができると思い、船首及び船橋配置の各乗組員に前方をよく見張るよう指示するとともに自身も船首方向を注視して同一針路のまま進行中、同時54分わずか前正船首至近に前示黄色回転灯を視認し、右舵一杯、全速力後進を令したが効なく、04時54分5号防波堤灯台から193度220メートルの地点において、くるしまは、原針路のまま約1ノットの速力で、左舷船首が第2フェリー岸壁北西端に衝突した。
 当時天候は霧で、風力1の北東風が吹き、第2フェリー岸壁付近の視程は30ないし80メートルで短時間に変化し、潮候は下げ潮の初期にあたり、02時10分松山地方気象台から愛媛県全域に濃霧注意報が発表されていた。
 衝突の結果、くるしまは、左舷船首外板に破口と凹損などを生じて船首ランプウエーが使用不能となり、また、第2フェリー岸壁の防衝壁及び標識灯が損傷したが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件岸壁衝突は、夜間、愛媛県松山港において、高浜町観光港の第1フェリー岸壁に向け航行中、霧のため視界が著しく狭められ、同岸壁付近の視程が運航基準に定められた入港中止条件未満となった際、着岸を中止しなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、愛媛県松山港において、高浜町観光港第1フェリー岸壁に向け航行中、霧のため視界が著しく狭められ、係留作業員からの連絡により同岸壁付近の視程が運航基準に定められた入港中止条件未満であることを知った場合、着岸を中止して視界が回復するまで付近で待機すべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船の周囲の視程が約500メートルであったので何とか着岸できるだろうと思い、着岸を中止して視界が回復するまで付近で待機しなかった職務上の過失により、第2フェリー岸壁に向首したまま接近して同岸壁との衝突を招き、くるしまの左舷船首に破口及び凹損などの損傷を生じさせるとともに、同岸壁の防衝壁などを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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