(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年5月14日17時30分
香川県高松港
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートNO3利徳丸 |
漁船池田丸 |
総トン数 |
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1.73トン |
登録長 |
8.00メートル |
7.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
95キロワット |
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漁船法馬力数 |
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17 |
3 事実の経過
NO3利徳丸(以下「利徳丸」という。)は、船体のほぼ中央部に甲板上高さ約1メートルの操舵室を備え、舵棒により操縦するFRP製釣り船で、専ら余暇の魚釣りに使用され、A受審人が単独で乗り組み、友人1人を乗せ、遊興の目的で、船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、平成11年5月14日17時28分高松港玉藻地区船だまりを発し、岡山県倉敷市児島に向かった。
ところで、高松港玉藻地区船だまりは、港内南東奥に位置し、陸岸から北方に約350メートル延びる北浜町岸壁の東岸と城東町岸壁の西岸に囲まれた東西幅100メートル奥行き350メートルの船だまりで、北浜町岸壁東岸中央付近にはこれに沿って幅15メートルの船揚場があり、それを挟んで、同岸壁には北方に約20メートル、南方に約70メートルにわたって高松東部漁業組合の漁船が互いに接舷する形で船尾付け係留されていた。
これより先、同14日朝A受審人は、坂出市から高松港に入港し、高松港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から170度(真方位、以下同じ。)910メートルの前示船だまり奥の南岸壁中央付近に、船首を西方に向け左舷付けで係留したのち、付近の飲食店などで日本酒約5合を飲んで気持ちが高揚したところ、同人が一緒に酒を飲んでいた友人を乗せて岡山県児島へ行くことを思い立ち、酩酊していて安全運航の確保が困難であり、飲酒運航となる状況であったが、この程度の酔いであれば大丈夫と思い、発航を中止するなど飲酒運航の防止措置をとらなかった。
こうして、A受審人は、友人を左舷船尾甲板上に乗せ、右舷船尾甲板上に立って左手で舵棒を、右手で機関操作レバーをそれぞれ持ち、針路を船だまりの出口に向けるよう右舵をとり、17時29.2分機関を微速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、時計回りに回頭しながら離岸を開始した。
17時29.3分A受審人は、係留場所の約20メートル北方に至り、船首が約90度回頭して約010度に向いたとき、左舷船首25度90メートルのところに船首を東方に向け停留している池田丸を視認し得る状況であったが、酩酊状態にあったので、これに気付かず、その後、船首を蛇行させながら同船と衝突のおそれのある態勢で、不規則に機関の増減速を繰り返しながら同船に接近したが、同船を避けないで進行中、17時30分利徳丸は、東防波堤灯台から170度800メートルの地点において、343度に向首したとき、8.0ノットの速力となり、池田丸の右舷船尾に前方から66度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はなく、潮候は上げ潮の初期であった。
また、池田丸は、はえなわ漁に従事するFRP製漁船で、B受審人が船舶所有者と乗り組み、あなごはえなわ漁の目的で、船首尾とも0.4メートルの喫水をもって、同日17時28.8分東防波堤灯台から172度800メートルの高松港玉藻地区船だまり北浜町岸壁東岸を発し、同港内の漁場に向かうこととした。
ところで、B受審人は、利徳丸が朝から同船だまり奥の南岸壁に係留していることを知っており、以前からしばしばA受審人が岸壁上で飲酒し、飲酒運航していたところを目撃していたことから、日頃から同船の運航には注意を払っていた。
こうして、B受審人は、離岸に当たり左右に接舷している僚船を慎重にかわして、船首を東方に向け機関を前進にかけてゆっくり前進中、17時29.3分岸壁から20メートルほど離れたとき、右舷船首約70度90メートルに左舷付けしていた利徳丸が離岸し、回頭して船首を船だまり出口方に向けるのを視認したので、一旦機関を中立とし行きあしを止め、同船の動向を注意して監視していたところ、その後利徳丸が蛇行しながら、不規則に機関の増減速を繰り返して接近し、同時29.9分利徳丸が増速して、自船に接近するので大声を出して注意喚起したが効なく、池田丸は船首を097度に向けて停留中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、利徳丸は船首に擦過傷を生じ、池田丸は右舷船尾外板に亀裂などを生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、香川県高松港において、利徳丸が、飲酒運航の防止措置をとらず、停留中の池田丸を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、香川県高松港において、岡山県児島港に向け出航しようとする場合、酩酊していて安全運航の確保が困難であったから、飲酒運航とならないよう発航を中止するなど飲酒運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、この程度の酔いであれば大丈夫と思い、発航を中止するなど飲酒運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、池田丸に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、利徳丸の船首部に擦過傷及び池田丸の右舷側に亀裂などをそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を2箇月停止する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。