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平成11年広審第117号
件名

漁船第八しんこう丸漁船幸丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年2月22日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(工藤民雄、竹内伸二、中谷啓二)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:第八しんこう丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:第八しんこう丸甲板員

損害
しんこう丸・・・損傷なし
幸 丸・・・左舷前部外板を圧壊、のち廃船処分

原因
しんこう丸・・・動静監視不十分、報告、引継の不適切、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
幸 丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第八しんこう丸が、動静監視不十分で、漁ろうに従事している幸丸の進路を避けなかったことによって発生したが、幸丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年11月26日00時20分
 瀬戸内海 備讃瀬戸

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八しんこう丸 漁船幸丸
総トン数 199トン 4.9トン
登録長 41.00メートル 12.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 第八しんこう丸(以下「しんこう丸」という。)は、九州、阪神間において活魚の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製漁獲物運搬船で、A受審人、B指定海難関係人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.5メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成10年11月25日19時10分兵庫県垂水漁港を発し、愛媛県宇和島港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を自身を含む乗組員3人による単独4時間交替で行うこととし、出港操船に引き続き当直に就いて播磨灘及び備讃瀬戸を西行し、23時55分備讃瀬戸東航路の男木島北方付近で、昇橋したB指定海難関係人に当直を引き継ぐことにしたが、同人が単独の当直経験が豊富で瀬戸内海の航行にも慣れているので大丈夫と思い、同人に対し、他船を認めたときは動静監視を十分に行って接近するようであれば速やかに報告するよう指示することなく、同人と当直を交替して降橋した。
 単独で当直に就いたB指定海難関係人は、航行中の動力船の灯火を表示して、舵輪の後方に立ち時折レーダーを見ながら見張りに当たって備讃瀬戸東航路沿いに西行し、翌26日00時11分俎石灯標から116度(真方位、以下同じ。)2.55海里の地点で、備讃瀬戸東航路中央第3号灯浮標(以下、灯浮標名については「備讃瀬戸東航路」を省略する。)に並航したとき、針路を航路にほぼ沿う255度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの西流に乗じて11.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 00時15分B指定海難関係人は、俎石灯標から130度2.05海里の地点に達したとき、1.5海里レンジとしたレーダーでほぼ正船首1.0海里のところに幸丸の映像を認め、更に肉眼によって同船の表示する緑、白2灯及び両舷灯のうち緑1灯のみを視認したものの、そのころ左舷前方に大型の反航船があり、また後方にも大型の同航船などがあったことから、これらに気をとられ、幸丸に対する動静監視を十分に行わなかったので、その後漁ろうに従事している同船と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、このことをA受審人に報告することなく続航した。
 一方、休息中のA受審人は、B指定海難関係人から前路に存在する幸丸についての報告が得られず、00時18分俎石灯標から144度1.8海里の地点に至り、幸丸が750メートルに接近していたが、その進路を避けることができなかった。
 00時20分少し前、B指定海難関係人は、ふと船首方を見たとき、至近に迫った幸丸の灯火を認め、衝突の危険を感じ、急いで機関を停止し、更に舵を手動に切り替えて右舵一杯をとったが効なく、00時20分俎石灯標から156度1.7海里の地点において、しんこう丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首が幸丸の左舷船首部に、前方から20度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期にあたり、衝突地点付近には約1.0ノットの西流があった。
 A受審人は、自室で休息中、急に機関が停止したうえ、B指定海難関係人が乗組員に衝突を知らせるために鳴らした非常ベルの音で目を覚まし、急いで昇橋して衝突を知り、事後の措置に当たった。
 また、幸丸は、小型機船底びき網漁業に従事する、船体のほぼ中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、装備する電気ホーンが故障したまま、同月25日09時00分香川県高松港を発し、中央第2号灯浮標付近の漁場に向かった。
 C受審人は、09時40分ごろ備讃瀬戸東航路内の中央第2号灯浮標と中央第3号灯浮標との間の漁場に到着し、船尾から底びき網を海中に投じ、その後東西に移動しながら曳網を繰り返し、やがて日没となったとき、両色灯、船尾灯のほか、前部マストにトロールにより漁ろうに従事していることを示す緑、白の全周灯を連携し、更にその下に黄色の回転灯を点灯して操業を続けた。
 ところで、幸丸の漁法は、長さ約19メートルのプラスチック製のはり棒で網口を広げた長さ約30メートルの網を船尾から海中に入れ、このはり棒の両端に約2メートルのチェーン及びその先に約30メートルのロープを繋ぎ、更にワイヤロープを約200メートル延出して引き綱とし、これを船尾甲板にある漁ろう用ローラに取り、低速で約3時間曳網したのち揚網して底魚を獲るものであった。
 22時00分C受審人は、備讃瀬戸東航路内の中央第2号灯浮標の東側で、俎石灯標から206度2.2海里の地点において網を投入して6回目の操業にかかり、その後東方に向けてほぼ航路に沿って曳網を続け、23時50分俎石灯標から168度1.7海里の地点で、針路を076度に定め、機関を回転数毎分2,000にかけ、折からの西流に抗して0.7ノットの対地速力で、舵輪の後方に立って見張りと手動操舵に当たって進行した。
 C受審人は、翌26日00時15分俎石灯標から158度1.7海里の地点に達したとき、ほぼ正船首1.0海里のところに、西行するしんこう丸の白、白、緑、紅4灯を視認でき、その後同船の方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近したが、操業中の自船を航行船が避けていくものと思い、左舷方の灯浮標などにより山立てしながら船位の確認に気をとられ、前方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かないで操業を続けた。
 00時19分C受審人は、しんこう丸が避航動作をとらないままほぼ正船首380メートルに接近したが、依然見張り不十分で、同船の接近に気付かず、右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく曳網中、同時19分半少し過ぎふと船首方を見たとき近距離に迫ったしんこう丸を初めて認め、衝突の危険を感じ、急いで右舵一杯としたが及ばず、幸丸は、095度を向いたとき、ほぼ原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、しんこう丸にはほとんど損傷はなかったが、幸丸は左舷前部外板を圧壊して水船状態となり、高松港に引き付けられたものの、のち廃船処分された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、備讃瀬戸東航路において、西行中のしんこう丸が、動静監視不十分で、トロールにより漁ろうに従事している幸丸の進路を避けなかったことによって発生したが、幸丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 しんこう丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対し、他船の動静監視を十分に行って接近するようであれば速やかに報告するよう指示しなかったことと、当直者が、動静監視を十分に行わず、他船の接近を船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、備讃瀬戸東航路を西行中、無資格者に船橋当直を行わせる場合、他船の動静監視を十分に行って接近するようであれば速やかに報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、当直者が単独の当直経験が豊富で瀬戸内海の航行にも慣れているので大丈夫と思い、他船の動静監視を十分に行って接近するようであれば速やかに報告するよう指示しなかった職務上の過失により、トロールにより漁ろうに従事中の幸丸の接近についての報告が得られず、同船の進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き、幸丸の左舷前部外板を圧壊させて水船状態となるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、夜間、備讃瀬戸東航路内において、トロールによる漁ろうに従事して東行する場合、同航路に沿って船首方向から接近するしんこう丸を見落とすことのないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、操業中の自船を航行船が避けていくものと思い、左舷方の灯浮標などにより山立てしながら船位の確認に気をとられ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、しんこう丸の接近に気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して衝突を招き、自船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、夜間、単独で船橋当直に当たって備讃瀬戸東航路を西行中、船首方向に幸丸の灯火を認めた際、動静監視を十分に行わず、同船の接近を船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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