(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年9月14日06時38分
瀬戸内海 周防灘
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船菱真丸 |
漁船幸信丸 |
総トン数 |
199.66トン |
3.2トン |
全長 |
43.50メートル |
10.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
551キロワット |
191キロワット |
3 事実の経過
菱真丸は、船尾船橋型のセメント運搬船で、A受審人ほか3人が乗り組み、セメント206トンを載せ、船首1.85メートル船尾2.77メートルの喫水をもって、平成11年9月14日02時38分福岡県苅田港を発し、香川県小豆島の内海港に向かった。
A受審人は、出航操船に引き続いて船橋当直に従事し、05時58分姫島灯台から345度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点で、周防灘航路第5号灯浮標に並航したとき、針路を095度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵によって進行した。
A受審人は、06時31分少し前姫島灯台から070度5.6海里の地点に達したとき、左舷船首2度1.5海里のところに、幸信丸を視認することができ、同船が、漁ろうに従事していることを示す形象物を掲げていなかったものの、黄色回転灯を点灯して低速力で移動していることなどから漁ろうに従事中の船舶であることを認め得る状況で、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近していたが、海面付近に朝もやが少し残った前路を一瞥しただけで支障となる他船はいないものと思い、見張りを十分に行っていなかったので、同船の存在に気付かなかった。
06時33分A受審人は、幸信丸の接近に気付かないまま、これから通航する予定のクダコ水道の通航方法を検討するため、舵輪の左舷側に設置されたレーダーの左前方にある海図台から海図を取り出し、レーダーと船橋中央の舵輪との間に置いた仮設の低い椅子に腰をかけて、海図上で航行計画の検討を始めた。
A受審人は、06時36分半幸信丸が左舷船首2度570メートルばかりに接近したものの、航行計画を検討することに気を奪われていて依然このことに気付かず、菱真丸は、幸信丸の進路を避けずに続航中、06時38分姫島灯台から075度6.9海里の地点において、原針路、原速力のまま、その左舷船首部に幸信丸の船首が前方から15度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風は弱く、潮候は上げ潮の初期で、日出は05時54分であった。
A受審人は、航行計画の検討を終えて海図を海図台に戻そうとしたとき、船首部に衝撃を感じるとともに船首左舷側に漁船を認めたので、同船に衝突したことを知り、直ちに事後の処置に当たった。
また、幸信丸は、船体中央部のやや船尾寄りに操舵室を設けた船体が白色のFRP製漁船で、B受審人が妻と2人で乗り組み、たち魚はえ縄漁の目的で、船首0.35メートル船尾1.40メートルの喫水をもって、同日04時15分ごろ大分県東国東郡国東町の富来浦を発し、周防灘の姫島東方沖合の漁場に向った。
幸信丸のたち魚はえ縄漁は、長さが1,000メートルのもの1本と約800メートルのもの2本を繋いだ、全長約2,600メートルのはえ縄を約1時間かけて直線状に投縄したのち、すぐに投縄開始地点に戻って揚縄を行うというもので、幹縄には、直径が約2ミリメートルの釣り糸を使用し、約1.8メートル間隔で枝縄を取付け、枝縄35ないし36本ごとにタンポと呼ばれる浮標を取付けていた。
05時52分B受審人は、姫島灯台から076度8.0海里の地点で、針路を姫島に向首する260度に定めて自動操舵とし、機関を最低回転数にかけ、主機及び舵のコード付遠隔操縦装置(以下「遠隔操縦スイッチ」という。)でトローリングと称する状態とし、1.5ノットの速力で進行しながら投縄を開始した。
B受審人は、マストの黄色回転灯を点灯させただけで、漁ろうに従事している船舶であることを示す形象物を掲げないまま続航するうち、06時31分少し前姫島灯台から075度7.1海里の地点に達したとき、右舷船首13度1.5海里のところに、東行する菱真丸を視認できる状況で、その後その方位が変わらないまま同船と衝突のおそれのある態勢で接近していたが、自船は黄色回転灯を表示しているので、接近すれば相手船が自船を認めて避けてくれるものと思い、見張りを十分に行わず、遠隔操縦スイッチを操舵室の船尾側に置き、妻が船尾の発泡スチロール製の台に腰を掛けて右舷側を向いた姿勢で幹縄を投入する一方、自身は妻の少し船首寄りで中腰になってえさの選別とタンポの取付け作業に専念していたので、同船が接近していることに気付かなかった。
B受審人は、06時37分半菱真丸が右舷船首2度190メートルばかりに接近したものの、はえ縄の投縄作業に専念していて依然このことに気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらないで進行中、06時38分わずか前、妻の声で目前に迫った菱真丸を初めて認め、操舵室に急行して機関を中立としたが及ばず、幸信丸は、菱真丸と前示のとおり衝突した。
衝突の結果、菱真丸は左舷船首部外板に擦過傷を生じたのみであったが、幸信丸は、船首部を圧壊し、のち修理された。また、B受審人が左胸部に、妻のCが頚部及び左肩部にそれぞれ打撲傷を負った。
(原因)
本件衝突は、周防灘東部において、東行中の菱真丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している幸信丸の進路を避けなかったことによって発生したが、幸信丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、単独で船橋当直に就いて周防灘を東行する場合、漁ろうに従事しながら接近する幸信丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、海面付近に朝もやが少し残った前路を一瞥しただけで、支障となる他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漁ろうに従事しながら接近する幸信丸に気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、菱真丸の左舷船首部外板に擦過傷を、幸信丸の船首部に圧壊をそれぞれ生じさせるとともに、B受審人と幸信丸の同乗者に打撲傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、周防灘推薦航路線付近で漁ろうに従事する場合、自船と衝突のおそれのある態勢で接近する菱真丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、自船は黄色回転灯を点灯させているので、接近すれば相手船が自船を認めて避けてくれるものと思い、船尾甲板ではえ縄の投入作業に専念し、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する菱真丸に気付かず、衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせたほか、自身と妻の工藤タミ子が打撲傷を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。