（事実）
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月30日03時00分
島根県隠岐郡西郷港
2 船舶の要目
| 船種船名 |
漁船第六十二天祐丸 |
| 総トン数 |
188トン |
| 全長 |
43.50メートル |
| 機関の種類 |
ディーゼル機関 |
| 出力 |
860キロワット |
3 事実の経過
第六十二天祐丸（以下「天祐丸」という。）は、船尾に操舵室を有し中型旋網漁業に従事する漁獲物運搬船で、A受審人ほか4人が乗り組み、船首2.8メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、平成10年9月29日19時00分僚船と共に島根県西郷港を発し、島後の北東方約8海里の漁場に向かった。
A受審人は、20時ごろ漁場に着き、その後、僚船と共に操業を開始したが、当日は不漁であったことから翌30日02時00分操業を中止して西郷港への帰途に就くこととなった。
A受審人は、漁場発航後、自らが操船にあたり、隠岐諸島の島後東側海域を南下し、02時58分半西郷港沖防波堤南灯台（以下「南灯台」という。）から118度（真方位、以下同じ。）360メートルの地点に達したとき、同港西浦に向け、針路を293度に定めて手動操舵とし、入港に備えて船首に見張員を配し、機関を半速力前進に減じて9.0ノットの対地速力（以下「速力」という。）で進行した。
ところで、同船の着岸予定岸壁周辺の海域は、西郷港沖防波堤が南灯台から北北東方に約130メートルにわたって延び、ここから北東方に屈曲して180メートルほど至った地点で、西南西方に延びる岸線上約400メートルの地点には、ここから長さ約70メートル横幅が約40メートルの長方型状の突起した岸壁が南方に向けて構築されており、この南側部分が西郷1号岸壁で同船の着岸岸壁となっていた。
A受審人は、平素、東方海域からの着岸にあたっては、前示定針地点に達した後、針路を293度に保持して南灯台を右舷側正横に約20メートル離して航過し、その後同一針路のまま着岸予定岸壁の南側前面に至るように操船を行っていた。
こうしてA受審人は、02時59分南灯台から203度20メートルの地点に達し、前方の岸壁との距離が約250メートルになったとき、同灯台と並航したのを知って機関を停止とし、このままの針路を保持して進行すれば西郷1号岸壁の南側前面に位置することができる状況にあったが、平素、船首目標としていた同岸壁南端に設置されていた水銀灯柱が倒壊して消灯し、他に目標となる明かりがなく、降雨で岸壁が見づらかった状況であったことから、コンパス指度を確認するなどして針路の保持を十分に行うことなく続航中、徐々に進路が右偏して310度に向首する状態となった。
03時00分少し前A受審人は、船首方至近に岸壁を認め、このころ同時に船首の見張員から機関を後進にするように要請を受け、左舵一杯にすると共に機関を全速力後進としたが及ばず、03時00分南灯台から289度250メートルの西郷1号岸壁の南東端角に、231度を向首した天祐丸の右舷船首部が衝突した。
当時、天候は雨で風力2の東風が吹き、潮候は上げ潮の初期にあたり、月齢は9.3で、視程は約4海里であった。
衝突の結果、天祐丸は、右舷船首外板に亀裂を伴う凹損を生じたが、のち修理された。
（原因）
本件岸壁衝突は、夜間、西郷港の西郷1号岸壁に着岸するにあたり、同岸壁を視認できない状況下、東方海域から接近して同岸壁南側の前面海域に向けて直進する際、針路の保持が十分でなかったことによって発生したものである。
（受審人の所為）
A受審人は、夜間、西郷港の西郷1号岸壁に着岸するにあたり、同岸壁を視認できない状況下、東方海域から接近して同岸壁の前面海域に向けて直進する場合、進路が右偏して同岸壁に向首することのないよう、針路の保持を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、針路の保持を十分に行わなかった職務上の過失により、岸壁衝突を招き、天祐丸の右舷船首部外板に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
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