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平成11年広審第122号
件名

訓練支援艦あづまかき養殖筏衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年2月7日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(中谷啓二、竹内伸二、横須賀勇一)

理事官
道前洋志

指定海難関係人
A 職名:あづま艦長

損害
あずま・・・左舷推進器翼に欠損及び曲損
かき養殖筏・・・2基全壊

原因
針路選定不適切

主文

 本件かき養殖筏衝突は、針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年11月20日19時34分
 瀬戸内海 広島湾

2 船舶の要目
船種船名 訓練支援艦あづま
排水量 1,950トン
全長 98.0メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,942キロワット

3 事実の経過
 あづまは、護衛艦隊に所属する訓練支援艦で、A指定海難関係人ほか101人が乗り組み、対空射撃の標的に使用される航空標的機の試運転を行う目的で、艦首3.98メートル艦尾3.86メートルの喫水をもって、平成10年11月20日07時50分呉港を発し、西能美島と江田島とに囲まれた小湾である江田内に寄って同機8機を積み込んだのち、同日午後江田内の北西方約4海里の、安芸絵ノ島灯台から090度(真方位、以下同じ。)2,700メートルの地点に至って投錨し、同機の試運転を開始した。
 A指定海難関係人は、試運転が順調に終了すればそのまま呉港に向け帰航する予定でいたところ、作動不良で部品交換を必要とする航空標的機が見つかり、いったん江田内に引き返したうえで帰航することとして19時20分抜錨した。
 ところで江田内の出入り口である津久茂瀬戸北口から、その北方沖約2キロメートルにかけての東西方向に広がる海域には、かき養殖筏設置区域が定められていて、同瀬戸沖合からは、設置された筏群に囲まれて、南北方向に長さ約2キロメートルで、最狭部が約500メートルとなった水路(以下「水路」という。)が、同瀬戸北口に接続するように形成されていた。
 また、同筏設置区域については、あづまで使用されている海図に、実際の区域と数百メートルの偏位がある概位で記入されており、同区域を示すため配置されていた標識灯の位置、灯質などについては記入されていなかった。
 A指定海難関係人は、これらの状況について、あづま乗艦以来、江田内への出入りを昼間のみ6回ほど経験して承知しており、また、かき養殖筏群のレーダー映像はその輪郭が明確でなかったこともあり、水路付近から津久茂瀬戸にかけて航行する際は、確実にかき養殖筏群を替わすため、水路入口の北方で筏群から十分離れた、安渡島灯台から063度1.0海里の地点を転針地点とし、そこから水路中央部を南下する170度の針路で同入口に向かうことにしていた。
 こうしてA指定海難関係人は、抜錨後、操船指揮を執り、船務長、信号長、速力通信器員、見張り員及び操舵員をそれぞれ配置に就け、前示の転針地点に向けて105度の針路で直行しようとしたところ、前方に支障となる他船を認めたことから、いったん同船を避けて500メートルばかり南下したのち、19時28分安渡島灯台から330度1,050メートルの地点で、針路を105度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で、予定している170度の針路線上に達したとき同針路で水路に向かうこととして、手動操舵により進行した。
 19時31分半A指定海難関係人は、安渡島灯台から051度900メートルの地点に達したことを知り、自艦右方の水路西方に広がっているかき養殖筏群の位置を確実に把握することが困難であり、そのまま予定針路線上まで約1,000メートル直進し、ここから同筏群を確実に替わす170度の針路として水路入口に向かうことが必要とされる状況であったが、呉港へ早く帰航して乗組員を休ませたい気持が働き、針路の選定を適切に行わず、航程を短縮しようとし、右舷前方に見えてきた津久茂瀬戸北口に向けて目視で周囲海面に注意を払いながら徐々に右転を始め、同時32分半針路を155度に転じて続航中、同時33分半ごろ船首方に他の当直者と共にかき養殖筏を視認し、急ぎ右舵一杯をとって機関を停止し、続いて後進にかけたが効なく、あづまは、19時34分安渡島灯台から102度1,200メートルの地点において、180度に向首したとき、艦首がかき養殖筏に衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 その結果、あづまは左舷推進器翼に欠損及び曲損を生じ、かき養殖筏2基が全壊し3基が半壊した。

(原因)
 本件かき養殖筏衝突は、夜間、広島湾において、かき養殖筏が設置されている海域を津久茂瀬戸に向け南下する際、針路の選定が不適切で、同筏群に接近する進路で航行したことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が、夜間、津久茂瀬戸に向け南下する際、航程を短縮しようとし、かき養殖筏群を確実に替わす針路を選定しなかったことは、本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては、本件発生後、護衛艦隊司令官が実施した各種教育訓練を受けたことに徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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