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平成12年神審第122号
件名

貨物船星陽丸貨物船第二百治丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年2月28日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(須貝壽榮、阿部能正、黒岩 貢)

理事官
野村昌志

受審人
A 職名:星陽丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第二百治丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
星陽丸・・・右舷側中央部外板に亀裂を伴う凹損
百治丸・・・船首部を圧壊

原因
百治丸・・・船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
星陽丸・・・警戒信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、強い北流時の鳴門海峡最狭部において、両船が出会う状況であった際、潮流に抗して南下する第二百治丸が、潮流に乗じて北上する星陽丸の通過を待たなかったことによって発生したが、星陽丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成9年11月12日03時02分
 鳴門海峡

2 船舶の要目
船種船名 貨物船星陽丸 貨物船第二百治丸
総トン数 498トン 199.24トン
全長 72.77メートル 47.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 882キロワット 588キロワット

3 事実の経過
 星陽丸は、船尾船橋型の貨物船で、A受審人ほか6人が乗り組み、空倉のまま、船首1.10メートル船尾4.30メートルの喫水をもって、平成9年11月11日17時40分三重県鵜殿港を発し、鳴門海峡経由で香川県坂出港に向かった。
 ところで、鳴門海峡は、淡路島南西部と四国北東部との間にある海峡で、同海峡に架かっている大鳴門橋付近が、両側から拡延する浅礁で可航幅約360メートルの最狭部となっており、大潮における潮流の最盛期には流れが速く、複雑な渦流が生じるところであった。また、総トン数199トン以上の船舶が、強潮流時の夜間に通航する際は、浅礁に接近しないよう、可航水域の中央寄りを航行することが多く、最狭部で他船と出会うときは、その航過距離が短くなり、衝突のおそれが生じるところでもあった。
 A受審人は、翌12日02時50分鳴門飛島灯台(以下「飛島灯台」という。)の南方2.2海里付近で鳴門海峡の通航に備えて昇橋し、船橋当直中の一等航海士に代わって操船の指揮を執り、同航海士を操舵に就かせ、同時54分同灯台から154度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点で、針路を大鳴門橋橋梁灯(C1灯)(以下、橋梁灯の名称に冠する「大鳴門橋」を省略する。)に向く341度に定め、機関を全速力前進にかけて航行中の動力船の灯火を表示し、折からの北流に乗じ、13.0ノットの対地速力(以下、速力は対地速力である。)で手動操舵により進行した。
 定針したとき、A受審人は、左舷船首2度2.6海里にあたる、大鳴門橋北方から南下する第二百治丸(以下「百治丸」という。)の白、白、緑3灯を初めて視認し、02時57分飛島灯台から148度1,570メートルの地点に差し掛かったとき、船首方1.5海里のところで百治丸が両舷灯を表示しているのを認め、間もなく船首わずか右で左舷灯を見せるようになり、両船がこのまま航行すれば鳴門海峡の最狭部で出会う状況であることを知った。しかし、A受審人は、百治丸に対して潮流に乗じている自船の通過を待つよう警告信号を行うことなく、操舵室の屋上に設置されている探照灯を同船に向けて数回点滅したものの、反応が認められなかったため、その後も点滅を繰り返して続航した。
 02時59分A受審人は、飛島灯台から137度820メートルの地点に達したとき、右舷船首2度1,730メートルのところで南西方に向首している百治丸を認め、その後同船が船首をほぼ同じ方向に向けたまま最狭部に徐々に接近し、衝突のおそれがあったが、やがて左舷を対して航過することができるものと思い、直ちに大角度の右舵を取って反転するなど衝突を避けるための措置をとらなかった。
 A受審人は、03時01分飛島を通過したころから急に強まった潮流に乗じて16.5ノットの速力で北上し、同時01分少し過ぎ船首少し右500メートルに見るようになった百治丸の船尾方に向けようとし、2度ばかりの右転を命じたものの、右方の浅礁に近づくことになるので危険と思い、すぐ原針路に戻した。
 03時01分半A受審人は、速力の遅い百治丸の前路に向けるつもりで左舵を令し、間もなく20度ばかり回頭したころ、橋梁灯(L1灯)の西方にある橋脚(以下「西側橋脚」という。)への接近を恐れて針路を341度に復し、同時02分少し前同船が右舷側から迫ってくるのを認め、機関を半速力前進としたが効なく、03時02分飛島灯台から009度680メートルの地点において、星陽丸は、原針路、原速力のまま、右舷中央部のやや前寄りに百治丸の船首が90度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、月齢は12日で、潮流は最強時の1時間前にあたり、付近には6.0ノットの北流があった。
 また、百治丸は、船尾船橋型のエチルアルコール運搬船で、B受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.50メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、同月11日16時05分広島県広島港を発し、鳴門海峡経由で三重県四日市港に向かった。
 B受審人は、翌12日02時30分徳島県島田島の北北西方2.5海里付近で鳴門海峡の通航に備えて昇橋し、自ら操船の指揮を執り、自主的に在橋していた一等機関士を見張りに、船橋当直中の甲板長を手動操舵に就かせ、同時50分孫埼灯台から344度1.3海里の地点で、針路を橋梁灯(L2灯)と橋梁灯(C2灯)とのほぼ中間に向く154度に定め、機関を全速力前進にかけて航行中の動力船の灯火を表示し、折からの北流に抗し、9.5ノットの速力で進行した。
 B受審人は、02時52分ごろから潮流の影響で徐々に左方に落とされ始め、同時57分孫埼灯台から037度680メートルの地点に差し掛かったとき、圧流防止の目的で針路を西側橋脚に向く192度に転じたところ、次第に強まる潮流により左方に39度ばかり圧流され、153度方向へ5.0ノットの速力で南下した。
 転針したころB受審人は、左舷船首31度1.5海里にあたる大鳴門橋南方に北上中の星陽丸の白、白、緑、紅4灯を初めて視認し、両船がこのまま航行すれば鳴門海峡の最狭部で出会う状況であることを知ったが、そのうちに左舷を対して航過できるものと思い、直ちに減速するなどして同船の通過を待つことなく続航した。
 B受審人は、転針後間もなく、星陽丸が自船に向けて探照灯の点滅を始めたことに気付かず、02時59分孫埼灯台から063度600メートルの地点に至り、針路を西側橋脚に向く210度に転じたところ、同船を左舷船首47度1,730メートルに見るようになり、その灯火が両舷灯から緑灯に変わったのを認め、左方に大きく圧流されながら、160度方向へ4.5ノットの速力で進行した。
 そして、B受審人は、03時01分孫埼灯台から091度580メートルの地点で、西側橋脚に向くよう針路を240度に転じ、同時01分半それまで短時間両舷灯を見せていた星陽丸の灯火が、突然白、白、緑3灯に変わり、同船を左舷船首68度320メートルに認めるようになったとき、衝突の危険を感じ、急いで右舵一杯を令するとともに、機関停止に次いで全速力後進としたが効なく、百治丸は、船首が251度を向いたとき、3.0ノットの前進行き脚をもって前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、星陽丸は、右舷側中央部外板に亀裂を伴う凹損を生じたほか、同側甲板上のハンドレールが長さ25メートルにわたって曲損し、百治丸は、船首端を圧壊したが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、強い北流時の鳴門海峡最狭部において、星陽丸と百治丸の両船が出会う状況であった際、潮流に抗して南下する百治丸が、潮流に乗じて北上する星陽丸の通過を待たなかったことによって発生したが、星陽丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、強い北流時の鳴門海峡を潮流に抗して南下中、北上する星陽丸とその最狭部で出会う状況であることを知った場合、直ちに減速するなどして同船の通過を待つべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、そのうちに左舷を対して航過できるものと思い、直ちに減速するなどして星陽丸の通過を待たなかった職務上の過失により、そのまま進行して同船との衝突を招き、星陽丸の右舷側中央部外板に亀裂を伴う凹損及び同側甲板上のハンドレールに曲損を生じさせ、百治丸の船首端を圧壊させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、夜間、強い北流時の鳴門海峡において、潮流に乗じて飛島の南東方を北上中、潮流に抗して南下する百治丸が南西方に向首したまま徐々に同海峡最狭部に接近しているのを認めた場合、衝突のおそれがあったから、直ちに大角度の右舵を取って反転するなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、やがて左舷を対して航過することができるものと思い、直ちに大角度の右舵を取って反転するなど衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、そのまま進行して百治丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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