(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年6月2日10時00分
石川県金沢港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二海幸丸 |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
19.12メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
529キロワット |
3 事実の経過
第二海幸丸は、船体中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、いか一本釣り漁を行う目的で、船首0.5メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成11年6月1日14時00分石川県鹿磯漁港を発し、猿山岬西北西方40海里の漁場に向かった。
A受審人は、17時30分漁場に至って操業を開始し、するめいか1.5トンを獲たところで水揚地を同県金沢港に決め、翌2日04時45分猿山岬灯台から283度(真方位、以下同じ。)43.3海里の地点を発進して直ちに針路を同港に向かう145度に定め、機関を全速力前進にかけて12.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
ところで、A受審人は、午後に出港して夜通し漂泊状態で操業し、翌朝水揚地に寄港するという操業形態を繰り返しており、港と漁場との往復時の船橋当直を自らが単独で行っていたことから、操業中の作業をできるだけ乗組員に任せ、その間に休息をとるようにしていた。しかし、同受審人は、今回の出漁に先立ち、水揚げ終了後から出漁直前まで集魚灯用安定器の修理に立ち会っていたうえに、漁場においては、折から豊漁のため乗組員と共に漁獲物の箱詰め作業に従事し、長時間にわたって休息がとれないまま、漁場を発進したものであった。
A受審人は、操舵輪後方の高床に置いた座いすに腰を掛けるなどしながら見張りに当たっているうち、07時45分金沢港西防波堤灯台から324度26.3海里の地点に達し、このころから強い眠気を覚えるようになったが、立ち上がって外気に当たるなどしたところ、眠気が薄らいだように感じたため、金沢港まで何とか我慢できるものと思い、速やかに休息中の甲板員と船橋当直を交替するなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、その後座いすに腰を掛けて間もなく居眠りに陥った。
そのため、A受審人は、09時52分半金沢港西防波堤灯台から292度1.0海里の地点に差し掛かったが、同港港口に向けて左転することができないまま金沢港の西防波堤に向首進行し、10時00分金沢港西防波堤灯台から185度1,570メートルの地点で、第二海幸丸は、原針路、原速力のまま、その船首が同防波堤西側に衝突した。
当時、天候は曇で風力2の西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
衝突の結果、球状船首及び船底外板に破口を伴う亀裂並びに推進器翼に曲損を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件防波堤衝突は、漁場から石川県金沢港に向け航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同港の西防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、漁場から石川県金沢港に向け単独で船橋当直に当たって航行中、睡眠不足から眠気を覚えた場合、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員と同当直を交替するなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、何とか我慢できるものと思い、休息中の甲板員と船橋当直を交替するなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、その後間もなく居眠りに陥り、金沢港の西防波堤に向首進行して衝突を招き、球状船首及び船底外板に破口を伴う亀裂並びに推進器翼に曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。