(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年2月23日04時15分
和歌山県潮岬南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第十五冨士丸 |
漁船勘栄丸 |
総トン数 |
993トン |
8.5トン |
全長 |
79.30メートル |
15.92メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,618キロワット |
308キロワット |
3 事実の経過
第十五冨士丸(以下「冨士丸」という。)は、船尾船橋型油送船で、A及びB両受審人ほか7人が乗り組み、空倉のまま、船首1.9メートル船尾4.3メートルの喫水をもって、平成11年2月22日11時50分岡山県水島港を発し、三重県尾鷲港に向かった。
ところで、A受審人は、船橋当直を自身に三等航海士を、二等航海士に甲板長を及びB受審人に甲板手をそれぞれ付けて2人体制の3直4時間交替制をとっていた。そして、船橋当直者に対し、平素から口頭で他船と接近するようであれば状況に応じ、汽笛を吹鳴することや機関を使用して避航するように指示していたうえ、航海の度に航海日報と称する連絡簿に、航海計画のほかに避航動作についても早めに大幅にとることなどの注意事項を記載し、それを船橋に置いて周知を図っていた。
B受審人は、翌23日04時00分潮岬灯台から180度(真方位、以下同じ。)5.7海里の地点で、前直者から引き継いで甲板手とともに船橋当直に就き、引き続き航行中の動力船の灯火を表示のうえ、針路を068度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、13.3ノットの対地速力で進行した。
04時05分B受審人は、操舵室前面に立って見張りに当たっていたとき、左舷前方3海里のところに勘栄丸の緑灯を初めて視認し、双眼鏡で灯火状況などを確認して同船が南下していることを知り、同時10分潮岬灯台から157度5.3海里に達したとき、左舷船首32度1.5海里に勘栄丸を見るようになり、その後、その方位が変わらず、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め、同船の監視を続けながら続航した。
04時13分B受審人は、勘栄丸が自船の進路を避けずに同方位のまま1,140メートルに接近するのを認めたが、勘栄丸が右転の避航措置をとればなんとか替わるものと思い、避航措置を促す警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき直ちに右転するなど衝突を避けるための協力動作もとらないで進行し、同時15分少し前勘栄丸が100メートルに迫ったとき、衝突の危険を感じ、同船に向けて探照灯を照射して見守るうち、04時15分潮岬灯台から145度5.4海里の地点において、冨士丸は、原針路、原速力のまま、その左舷側中央部に、勘栄丸の船首が前方から75度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北北西風が吹き、潮候は低潮時で、視界は良好であった。
A受審人は、自室で寝ていたところ、甲板手から衝突の報告を受けて昇橋し、機関を停止したのち、事後の措置に当たった。
また、勘栄丸は、船体中央部船尾寄りに操舵室を設けたFRP製漁船で、かつお一本釣り漁の目的で、C受審人が1人で乗り組み、船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日03時25分和歌山県串本港を発し、航行中の動力船の灯火を表示して同港南方25海里沖合の漁場に向かった。
C受審人は、03時45分潮岬半島と大島との間の水路を通過し、操縦席に腰を掛けて見張りに当たっていたところ、しばらくして左右船首3海里前後に西行船と東行船の灯火をそれぞれ認め、両船に留意しながら南下を続け、まず転舵により東行船を避航し、次いで西行船の船尾を300ないし400メートル離して替わし終えたとき、04時10分潮岬灯台から140度4.7海里の地点で、針路を173度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で進行した。
定針した時、C受審人は、右舷船首43度1.5海里に冨士丸の白、白、紅3灯を視認できる状況で、その後、同船の方位が変わらず、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、避航した船舶以外に支障となる他船はいないものと思い、そのころ操縦席の右斜め下に設置したGPSのプロッター画面が暗いことに気付き、腰をかがめて調整を始め、周囲の見張りを十分に行わなかったので、冨士丸の存在とその接近に気付かず、右転するなどして同船の進路を避けることなく続航した。
こうして、C受審人は、プロッター画面の調整をしながら進行するうち、04時15分少し前突然周囲が明るくなったので顔を上げたところ、船首至近に迫った冨士丸を初めて視認し、機関を中立に操作したが、効なく、勘栄丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、冨士丸は、左舷中央部外板に凹損、勘栄丸は、船首部に破損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、和歌山県潮岬南方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南下する勘栄丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る冨士丸の進路を避けなかったことによって発生したが、冨士丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
C受審人は、夜間、潮岬南方沖合を漁場に向けて南下する場合、右舷船首方から接近する冨士丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、避航した船舶以外に支障となる他船はいないものと思い、GPSプロッター画面の調整を行っていて、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、冨士丸の存在と接近に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、冨士丸の左舷中央部外板に凹損及び勘栄丸の船首部に破損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、潮岬南方沖合を東行中、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する勘栄丸が、自船の進路を避けずに間近に接近するのを認めた場合、直ちに右転するなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、勘栄丸が右転の避航措置をとればなんとか替わるものと思い、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、そのまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。