(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年2月1日01時00分
石川県金沢港北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二十五住吉丸 |
漁船第十七重福丸 |
総トン数 |
38トン |
19トン |
全長 |
27.70メートル |
23.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
375キロワット |
404キロワット |
3 事実の経過
第二十五住吉丸(以下「住吉丸」という。)は、船体中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人及びB受審人ほか3人が乗り組み、かに底引き網漁の目的で、船首0.80メートル船尾2.50メートルの喫水をもって、平成11年1月31日22時40分石川県金沢港を発し、同港北西方40海里沖合の漁場に向かった。
ところで、住吉丸は、前年11月6日以降かに底引き網漁に出漁していたもので、概ね23時に金沢港を出港して約2時間後に同港北西方沖合の漁場に至り、そこで7ないし8回の操業を行い、翌日20時ごろ帰港する運航を繰り返し、通常、A受審人が出入港時の操船、船橋当直及び漁場における操業指揮に、B受審人を含む他の乗組員が専ら漁労作業及び水揚作業にそれぞれ当たっていた。
しかし、A受審人は、あらかじめ今回の漁場を通常よりも約10海里遠方に決め、そこまでの船橋当直をB受審人に行わせることにして発航時の操船に当たり、22時55分金沢港の西防波堤北端を近距離で通過したとき、針路を303度(真方位、以下同じ。)に定め、機関を全速力前進にかけて航行中の動力船の灯火を表示し、12.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
定針直後、A受審人は、船橋当直をB受審人に行わせるにあたり、同人が3日間の連続操業で疲労が蓄積しているうえ、発航前は自宅で1時間ばかり休息しただけであり、当直中に眠気を催すおそれがあったが、同人に対して特に指示するまでもないと思い、眠気を催した際には速やかに報告するよう指示することなく、操舵室後方の寝台に入って就寝した。
単独で船橋当直に就いたB受審人は、操舵室左舷側でいすに腰を掛けて見張りに当たり、A受審人が定めた針路のまま同じ速力で西行し、翌2月1日00時45分大野灯台から306.5度23.1海里の地点に至り、自船がこれまでにたびたび操業したことのある漁場に差し掛かったとき、船首少し右3.0海里に作業灯を多数点灯した第十七重福丸(以下「重福丸」という。)のほか、前路で同船より少し遠方に5、6隻の漁船の灯火を認めた。
そのころ、B受審人は、眠気を催すようになったが、まさか居眠りすることはないと思い、A受審人に報告して当直を交替するなど居眠り運航の防止措置をとらず、暖房の効いた操舵室の窓から顔を出して冷気にあたったり、立ったりして眠気の払拭に努めるうち、やがていすに腰を掛けたところ、いつしか居眠りに陥った。
00時55分B受審人は、大野灯台から306度25.1海里の地点に至ったとき、船首方1.0海里のところに、マスト灯の上に掲げている緑灯のほか、左舷灯を見せている重福丸が存在し、トロールにより漁労に従事していることを示す灯火を表示していないものの、甲板上に作業灯を多数点灯したまま停留しているうえ、地元における同業者間の取決めにより、夜間、揚網中は緑色の全周灯を表示するようになっていることから、同船を漁労に従事している船舶と認めることができる状況であり、衝突のおそれがあったが、居眠りしていたのでこれに気付かず、同船を避けることができずに続航した。
こうして、B受審人が居眠りを続けるうち、01時00分大野灯台から306度26.1海里の地点において、住吉丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首が重福丸の左舷船尾端に後方から78度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南南東風が吹き、視界は良好であった。
A受審人は、B受審人から何ら報告を受けられずに休息していたところ、衝突の衝撃で目を覚まして操舵室に入り、事後の措置に当たった。
また、重福丸は、船体中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で、C受審人ほか4人が乗り組み、かに底引き網漁の目的で、船首0.70メートル船尾2.50メートルの喫水をもって、同年1月31日20時30分金沢港を発し、同港北西方25海里沖合の漁場に向かった。
C受審人は、23時00分漁場に到着したとき、操舵室にとどまって操船に当たるとともに、指揮を執って操業を開始したが、夜間、トロールにより漁労に従事する際に表示する緑色及び白色の全周灯を連掲することなく、航行中の動力船の灯火に加え、マスト灯の上に緑色の全周灯1個を表示したほか、甲板上の照明用として、前後部の各マストに3個、中央部に6個の作業灯をそれぞれ点灯し、投網に次ぎ、同時15分北東方へ曳網を始めた。
翌2月1日00時30分C受審人は、曳網を終えたところで反転して船首を南西方に向け、船首から曳網索の巻込みに取り掛かり、同時50分前示衝突地点の北東方400メートルのところで、船首が218度を向き、機関を中立回転にかけ、3.0ノットの対地速力で揚網していたとき、左舷正横2.0海里のところに自船に向首する態勢の住吉丸の白、紅、緑3灯を初めて視認したものの、同船が甲板上を作業灯で照明している揚網中の自船を避けてくれるものと思い、その後、その動静監視を十分に行うことなく、操舵スタンドの後ろに立ち、前部甲板上で乗組員が行う揚網作業を見守っていた。
やがて、C受審人は、行き脚が止まり、00時55分船体が底引き網の真上に位置し、これを巻き揚げる段階となり、00時59分前示衝突地点において、船首が225度を向いて揚網中、住吉丸が左舷船尾78度370メートルに接近していたが、依然、揚網作業に気を取られてこれに気付かず、警告信号を行わないでいるうち、重福丸は、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、住吉丸は左舷船首に擦過傷を生じ、重福丸は、左舷船尾端に亀裂を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、金沢港北西方沖合において、住吉丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、漁労に従事している停留中の重福丸を避けなかったことによって発生したが、重福丸が、動静監視不十分で、住吉丸に対して警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
住吉丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対して眠気を催した際に報告するよう指示しなかったことと、同当直者が、眠気を催した際に船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、金沢港の西防波堤北端において同港北西方沖合の漁場に向けて定針直後、B受審人に船橋当直を行わせる場合、同人が3日間の連続操業で疲労が蓄積しているうえ、発航前に自宅で1時間ばかり休息しただけであり、当直中に眠気を催すおそれがあったから、眠気を催した際には速やかに報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、A受審人は、B受審人に対して特に指示するまでもないと思い、眠気を催した際には速やかに報告するよう指示しなかった職務上の過失により、同人から何ら報告を受けられずに休息中、前路で漁労に従事している停留中の重福丸との衝突を招き、住吉丸の左舷船首に擦過傷を、重福丸の左舷船尾端に亀裂を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、単独の船橋当直に当たり、金沢港北西方沖合の漁場に向けて航行中、前路に多数の作業灯を点灯した重福丸を認めたころ、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、A受審人に報告して当直を交替するなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、B受審人は、まさか居眠りすることはないと思い、A受審人に報告して当直を交替するなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、前路で漁労に従事している停留中の重福丸を避けることができずに進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、金沢港北西方沖合の漁場において船首を南西方に向けて揚網中、左舷正横に自船に向首する態勢の住吉丸の灯火を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、住吉丸が甲板上を作業灯で照明している揚網中の自船を避けてくれると思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、揚網作業を見守っていて住吉丸の接近に気付かず、警告信号を行わずに同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。