(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年3月2日08時05分
岩手県閉伊埼北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三漁運丸 |
漁船第五海鷲丸 |
総トン数 |
9.7トン |
8.5トン |
全長 |
19.82メートル |
16.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
354キロワット |
354キロワット |
3 事実の経過
第三漁運丸(以下「漁運丸」という。)は、いさだと称するつのなしおきあみを漁獲する船曳網漁(以下「いさだ船曳網漁」という。)に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成12年3月2日03時00分宮古湾湾奥にあたる岩手県宮古市高浜の定係地を発進し、同県閉伊埼北方沖合の漁場に向かった。
05時42分A受審人は、閉伊埼灯台から004度(真方位、以下同じ。)3.9海里の地点に達して操業を開始し、その後魚群探索をしながら漁場を南方に移動して操業を繰り返した。
ところで、いさだ船曳網漁は、魚群を探知して投網地点を決めると、まず左舷側の曵網索の先端にブイを取り付けてこれを海面に投下し、海潮流を左舷側から受ける態勢で左方に旋回しながら長さ200メートル、深さ約50メートルの長方形の漁網を扇形に投網したのち、左舷側の曳き網索を拾いあげて漁網が海中に展張するのを待ち、両舷長さ約150メートルの曳網索を低速力で曳いて漁網を絞ったのち揚網する漁法で、1回の操業に20分ないし25分を要していた。また、漁網の上部には、直径約1メートル高さ約1.2メートルの円筒形で、オレンジ色の浮子が6ないし8個取り付けられ、付近を航行する船舶がこれを容易に死人できる状況であった。
07時57分A受審人は、閉伊埼灯台から358度2.9海里の地点で3回目の操業を行っていたとき、自船の東方約300メートルのところで第五海鷲丸(以下「海鷲丸」という。)が投網を始めたものの、このことに気付かないまま操業を続けた。
08時03分少し過ぎA受審人は、前示操業地点で、船首がほぼ045度を向いていたとき、揚網を終えて漁場を移動することにし、そのとき、右舷船首55度300メートルのところに、漁ろうに従事している船舶が表示する形象物を掲げないまま左舷側を見せて漂泊中の海鷲丸と、その船尾方に扇形に点在する浮子が視認でき、同船が漁ろうに従事していることが分かる状況であったが、付近の海域には航行の支障となる他船はないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、海鷲丸が存在することに気付かず、乗組員を甲板上で漁獲物の整理に当たらせて自らは操舵室に立ち、同室内左舷側に備え付けた魚群探知器及びソナーを作動させて単独で操舵操船に当たり、両画面を交互に見ながら右舵をとり、機関を対地速力5.5ノットの極微速力前進にかけて発進した。
操業地点を発進して間もなく、A受審人は、前示速力のまま針路を100度に定めたところ、海鷲丸に向首することとなり、その後衝突のおそれがある態勢で同船に接近したが、依然として魚群探知器及びソナー両画面を交互に注視したまま前方の見張りを行っていなかったので、このことに気付かないで進行した。
こうして、A受審人は、右転するなどして漁ろうに従事している海鷲丸を避ける措置をとらないまま続航し、08時05分少し前、ふと前方を見たとき、船首方至近に迫った海鷲丸を認め、急ぎ機関を全速力後進にかけたが、及ばず、08時05分閉伊埼灯台から001度2.9海里の地点において、漁運丸は、原針路、同速力のまま、その船首が海鷲丸の左舷側前部に前方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、付近には南方に流れる海流が少しあった。
また、海鷲丸は、いさだ船曳網漁に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか3人が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、平成12年3月2日03時00分岩手県小本漁港を発進し、閉伊埼北方沖合の漁場に向かった。
発進後、B受審人は、単独で操舵操船に当たり、魚群を探索しながら岩手県の太平洋岸沿いを南下し、05時00分閉伊埼北方約3海里の漁場に到着して自ら操業の指揮を執り、乗組員を船尾甲板に配置して操業を開始し、その後漁ろうに従事している船舶が表示する形象物を掲げないまま、魚群探索をしながら付近の漁場を移動して操業を繰り返した。
07時57分B受審人は、閉伊埼灯台から001度2.9海里の地点で、魚群を探知して3回目の投網を開始し、そのとき、自船の西方約300メートルのところで操業している同業船の漁運丸を認めたが、同船が揚網を終えて漁場を移動する際には操業中の自船を認めて避航してくれるものと思い、その後同船の動静監視を十分に行うことなく、やがて投網を終えて機関を中立運転とし、操舵室の右舷側に立って船尾方を向き、漁網が海中に展張するのを待った。
08時03分少し過ぎB受審人は、前示投網開始地点で、微弱な海流を漁網に受けて船首が340度を向いた態勢で漂泊していたとき、右舷側の曵網索が徐々に左舷側に寄せられるのを認め、そのとき、左舷船首60度300メートルのところに、揚網を終えて漁場を移動する漁運丸を視認でき、間もなく同船が自船に向首しその後衝突のおそれがある態勢で接近して来たものの、依然として同船の動静を監視していなかったのでこのことに気付かず、漁運丸に対して避航を促すよう警告信号を行うことなく、船尾方を向いたまま曵網索の状況を見守っているうちに、08時05分わずか前甲板上の乗組員が大声をあげたので左舷前方を見たとき、至近に迫った漁運丸を認めたが、何をする間もなく、船首が340度を向いたまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、漁運丸は船首部に擦過傷及びシーアンカー用ローラガイドに曲損を生じ、海鷲丸は左舷側外板及びいさだ水切りかごにそれぞれ損傷を生じた。
(原因)
本件衝突は、岩手県閉伊埼北方沖合漁場において、魚群探索中の漁運丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している海鷲丸を避けなかったことによって発生したが、海鷲丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、岩手県閉伊埼北方沖合漁場において、魚群探索する場合、漁ろうに従事している海鷲丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、付近の海域には航行の支障となる他船はないものと思い、魚群探知器及びソナー両画面を交互に注視したまま周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路に漁ろうに従事している海鷲丸が存在することに気付かず、針路を右に転じるなど同船を避ける措置をとらないまま進行して衝突を招き、漁運丸の船首部に擦過傷及びシーアンカー用ローラガイドに曲損を、海鷲丸の左舷側外板及びいさだ水切りかごにそれぞれ損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、岩手県閉伊埼北方沖合漁場において、漁ろうに従事中、付近の海域で操業している同業船の漁運丸を認めた場合、揚網を終えて漁場を移動する同船と衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、漁運丸が漁場を移動する際には操業中の自船を認めて避航してくれるものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、揚網を終えた同船が自船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近して来ることに気付かず、漁運丸に対して避航を促すよう警告信号を行わないまま操業を続けて衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。