(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年6月3日22時55分
北海道根室港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船コーラル ホワイト |
漁船第37芳陽丸 |
総トン数 |
334トン |
4.9トン |
登録長 |
46.79メートル |
11.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
551キロワット |
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漁船法馬力数 |
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90 |
3 事実の経過
コーラル ホワイト(以下「コ号」という。)は、毎年4月中旬から10月末日までの期間、北海道根室港を基地として北方四島の各港間のビザなし交流の旅客を運送している船首船橋型の鋼製旅客船で、A受審人ほか9人が乗り組み、ロシア人乗客68人を乗せ、平成11年6月2日22時45分国後島古釜布港を発し、翌3日08時20分根室港北地区1・2号岸壁に着岸し、乗客全員を下船させたのち沖待ちする目的で、船首2.10メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、同日09時25分同岸壁を発し、機関を微速力前進にかけて根室港北防波堤入口を出航したのち10時00分根室港北防波堤灯台から330度(真方位、以下同じ。)1,420メートルの地点に達したとき、右舷船首錨を投下し、錨鎖を3節延出して錨泊した。
A受審人は、錨泊したとき、霧模様で視界がやや不良であったことから、船橋上部マストの錨泊灯のほか船首甲板の作業灯2個、上甲板客室外側の両舷側通路照明灯各6個及び船尾甲板の作業灯2個を点灯し、正午まで船橋当直に当たったのち次直の二等航海士に当直を任せて降橋し、昼食をとったのち自室で休息し、20時00分再び昇橋し、前直の一等航海士から当直を引き継いだ。
A受審人は、3海里レンジとしたレーダーを時々見ながらに周囲の見張りに当たっていたところ、22時ごろから濃霧となり視界が200メートルに狭められたことを知ったが、レーダーに他船の映像が認められなかったことから、錨泊中の霧中信号を行わずに当直を続けていた。
A受審人は、22時52分自船が063度に向首したとき、右舷正横1,390メートルに根室港北防波堤入口を通過して北上中の第37芳陽丸(以下「芳陽丸」という。)の映像を探知できるようになり、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となった。しかし、同人は、夜間に北防波堤入口から出航する他船はいないものと思い、レーダーによる周囲の見張りを十分に行わなかったので、同船の映像に気付かず、警告信号を行わず、このころ尿意を催したので、急ぎ降橋し、船橋後部客室後端の便所に赴いて小用を足し始めたところ、22時55分前示錨泊地点において、芳陽丸の船首が、原針路、全速力のままコ号の右舷側中央部付近に直角に衝突した。
A受審人は、便所で衝突の衝撃を感じ、急ぎ昇橋して事後の措置に当たった。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期にあたり、視程は25メートルであった。
また、芳陽丸は、かれい刺網漁業に従事するFRP製漁船で、操業の目的でB受審人ほか2人が乗り組み、船首0.30メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、同日22時43分根室港1号物揚場を発し、同港の北北西方15海里ばかりの漁場に向かった。
B受審人は、発航時、航行中の動力船の灯火を表示し、濃霧で視界が制限されていたので、甲板員2人を船首見張りに当たらせたが、霧中信号を行わず、機関を極微速力前進にかけて1.5海里レンジとしたレーダーで船位を確認しながら1人で操船にあたって北防波堤入口を出航したのち22時52分根室港北防波堤灯台から266度70メートルの地点に達したとき、針路を333度に定め、機関を全速力前進にかけ、15.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
定針したときB受審人は、レーダーで正船首1,390メートルに錨泊中のコ号の映像を探知できるようになり、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となった。しかし、同人は、レーダーを一見して前路に他船はいないものと思い、船首見張り員の配置を解き、その後レーダーにより前方の見張りを十分に行わなかったので、コ号の映像に気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもしないまま続航中、22時55分、突然、衝撃を受け、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、コ号は右舷側中央部外板に凹損及び擦過傷を生じ、浴室の舷窓及び鏡を破損し、芳陽丸は船首楼前部を圧壊し、B受審人が全身打撲傷及び鼻骨骨折を、甲板員1人が顔面打撲傷などを負った。
(原因)
本件衝突は、芳陽丸が、夜間、霧のため視界制限状態となった北海道根室港沖合を北上中、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもなく、レーダーによる見張りが不十分で、コ号と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことによって発生したが、錨泊中のコ号が、霧中信号を行わず、レーダーによる見張りが不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、単独船橋当直に就いて霧のため視界制限状態となった北海道根室港北防波堤入口を出航して北上する場合、船首方に錨泊しているコ号のレーダー映像を見落とすことのないよう、レーダーによる前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、北防波堤入口を通過したときレーダーを一見して前路に他船はいないものと思い、その後レーダーにより前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路に錨泊中のコ号のレーダー映像に気付かず、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもなく、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行して衝突を招き、コ号の右舷側中央部外板に凹損及び擦過傷を生じさせ、浴室の舷窓及び鏡を破損させ、自船の船首楼前部を圧壊させ、自身が全身打撲傷及び鼻骨骨折を負い、甲板員1人に顔面打撲傷などを負わせるに至った。
A受審人は、夜間、北海道根室港北防波堤入口沖合に錨泊して船橋当直中、霧のため視界制限状態となった場合、錨泊中の霧中信号を行い、同港北防波堤入口を出航して接近する芳陽丸のレーダー映像を見落とすことのないよう、レーダーによる周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、夜間に北防波堤入口から出航する他船はいないものと思い、レーダーにより周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に接近中の芳陽丸のレーダー映像に気付かず、警告信号を行うことなく錨泊を続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、芳陽丸の乗組員2人に前示の外傷を負わせるに至った。