(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年9月5日01時53分
沖縄県平良港
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船ぐすくIII世 |
総トン数 |
3.0トン |
登録長 |
9.56メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
143キロワット |
3 事実の経過
ぐすくIII世は、FRP製遊漁船で、船長Aが1人で乗り組み、釣り客4人を乗せ、釣り大会に参加する目的で、喫水不詳のまま、平成11年9月5日01時43分沖縄県平良市荷川取漁港を発し、来間島南西沖合の釣り場に向かった。
ところで、平良港から来間島南西沖に至るには、平良港西防波堤北灯台を左舷側に見て、通称平良港西口航路及び通称長山水路を南西進するが、同西口航路には、右舷標識のC灯浮標が沖縄県によって、同D灯標が平成5年3月平良市によってそれぞれ設置されており、D灯標の管理は指定海難関係人S課(以下「S」という。)が行なうことになっていたものの、Sはそのことを知らず、D灯標の点検を行っていなかった。
平成9年11月Sは、宮古島航路標識事務所からD灯標が消灯しているとの連絡を受け、Sが管理している灯標があることを初めて知り、指定海難関係R株式会社(以下「R社」という。)
に、D灯標のバッテリーの取替えを無償で行うよう口頭で依頼した。
R社は、昭和41年設立され、重機、ダンプカー、引船及び台船を所有し、建設業に従事していたところ、SからD灯標のバッテリー取替えの依頼を受け、自社の第八先嶋丸船長(平成10年4月死亡)にバッテリーを取り替えさせ、その旨をSに報告した。しかし、同船長は、D灯標とC灯浮標を聞き違えたものか、D灯標の南西方に設置されているC灯浮標のバッテリーを取り替えていた。
Sは、R社から報告を受けたが、バッテリーが正常に取り替えられたと思い、Sの事務所からD灯標を視認できたものの、点検を行わなかったので、D灯標のバッテリーが取り替えられていないことに気付かなかった。その後、職員の移動時において何等の事務引継ぎも行われなかったことから、後任者はSが管理している灯標があることを知らず、D灯標は約1年10箇月間消灯したままであった。
こうして、A船長は、01時51分少し前平良港西防波堤北灯台から047度(真方位、以下同じ。)385メートルの地点に達したとき、消灯中のD灯標に接近しないよう、平良港西口水路灯浮標を船首目標とするなどの安全な針路を選定することなく、針路を240度に定め、機関を全速力前進にかけて12.0ノットの対地速力で、操舵室左舷側で遠隔制御装置を手に持ち、ブルワークに左足を乗せ身を乗り出して操舵に当たり、消灯中のD灯標に著しく接近する状況で進行した。
ぐすくIII世は、同じ針路及び速力で続航中、01時53分平良港西防波堤北灯台から252度410メートルの地点において、その左舷船首がD灯標に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、潮候はほぼ高潮期であった。
衝突の結果、D灯標に損傷はなく、ぐすくIII世は、左舷船首外板に破口を生じたが、のち修理され、衝突の衝撃でA船長(昭和25年9月17日生、一級小型船舶操縦士免状受有)が海中に転落して溺死した。
本件後、Sは、職員の移動時における事務引継ぎの徹底、灯標の定期点検の実施、漁業協同組合及び各船舶会社等に対する灯標の異状時における通報体制の徹底及び関係機関との情報交換など事故防止の改善策を行った。
(原因)
本件灯標衝突は、夜間、平良港において、釣り場へ向けて航行中、針路の選定が不適切で、消灯中のD灯標に著しく接近する針路で進行したことによって発生したものである。
Sが、同課が管理する消灯中のD灯標のバッテリー取替えを行った際、点検を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
(指定海難関係人の所為)
Sが、同課が管理する消灯中のD灯標のバッテリー取替えを行った際、点検を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
Sに対しては、その後職員の移動時における事務引継ぎの徹底、灯標の定期点検の実施、漁業協同組合及び各船舶会社等に対する灯標の異状時における通報体制の徹底及び関係機関との情報交換など事故防止の改善策を行っていることに徴し、勧告しない。
R社の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。