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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成12年長審第3号
件名

護衛艦おおよど油送船よし丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年1月19日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(森田秀彦、亀井龍雄、平野浩三)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:よし丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
よし丸・・・損傷なし
おおよど・・・左舷中央部の水線上の外板に破口

原因
よし丸・・・操船不適切

主文

 本件衝突は、よし丸が、行きあし停止の措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年1月14日11時11分
 長崎県佐世保港

2 船舶の要目
船種船名 護衛艦おおよど 油送船よし丸
基準排水量 2,000トン  
総トン数   19トン
全長 109メートル  
登録長   15.51メートル
機関の種類 ガスタービン機関
ディーゼル機関
ディーゼル機関
出力 19,858キロワット 205キロワット

3 事実の経過
 おおよどは、鋼製護衛艦で、艦長Bほか119人が乗り組み、艦首3.98メートル艦尾3.92メートルの喫水をもって、平成11年1月13日15時26分佐世保港倉島8岸に並列状態で着岸している2隻の護衛艦の沖側に、3隻目として艦首尾ともそれぞれ3本の係留索をもって右舷付けし、艦首を283度(真方位、以下同じ。)に向けて係留していたところ、翌14日11時11分佐世保港弁天島灯台(以下「弁天島灯台」という。)から036度1,550メートルの地点において、その左舷中央部によし丸の左舷船首が前方から40度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。
 また、よし丸は、専ら佐世保港内において、貨物船や旅客船への給油業務に従事する鋼製油送船で、A受審人が1人で乗り組み、A重油34,940リットル、軽油6,330リットル、灯油50リットル及び潤滑油200リットルを積載し、給油の目的で、船首1.40メートル船尾1.60メートルの喫水をもって、同月14日10時06分同港干尽岸壁東側の会社事務所前の岸壁を発し、三浦岸壁に停泊中の貨物船に向かった。
 A受審人は、三浦岸壁に至り、給油作業の手伝いとして作業員を1人乗せたのち、同岸壁で貨物船に軽油1,000リットルを給油し、そのあと鯨瀬埠頭東側の浮き桟橋に停泊中の旅客船に向かい、10時59分同船に軽油3,600リットルの給油を終え、発航地に向けて帰途に就き、途中再び三浦岸壁に立ち寄り、同作業員を下船させた。
 A受審人は、三浦岸壁を後進で離岸し、11時06分弁天島灯台から027度1,720メートルの地点で、機関を前進にかけて右回頭しながら進行し、船首が西南西方を向いたところで左舵をとって左に回頭しながら、徐々に増速し、機関を回転数毎分1,200の全速力前進にかけて続航した。
 11時09分少し過ぎA受審人は、弁天島灯台から027度1,460メートルの地点において、舵を中央に戻し、針路を発航地に向く126度に定めたとき、対地速力が7.0ノットに達したので、減速しようとして機関回転数調整ホイールを回したところ、同ホイールが空回りした。A受審人は、自動車整備士の資格も受有していたので、すぐに同ホイールとホイール軸とを固定しているキーが脱落していることに気付き、ホイール軸を増速方向に直接手で回すことは不可能であったが、減速方向には可能であったことから、直ちに同軸を直接手で回して機関を最低回転数の毎分600に減じ、機関回転調整ホイールとは別個に設けられていたクラッチレバーを中立としてキーを探したところ、すぐに同軸を覆っている箱の内側に落ちているキーを見つけた。
 A受審人は、折から、左舷船首30度230メートルにおおよどが係留していたが、常時護衛艦が係留している岸壁なので何ら気にならず、直ちに復旧作業に当たることとした。
 ところで、キーは、長さ約15ミリメ−トル(以下「ミリ」という。)高さ約6ミリ厚さ約4ミリの半月型で、円弧の部分をホイール軸の溝に約4ミリ嵌入し、その上にホイールの溝を合わせて弦弧の部分を同溝に約2ミリ嵌入してホイールと軸とを固定していた。
 A受審人は、機関回転数の調整が不能な状態となったが、キーの復旧作業が短時間で終了するものと思い、同作業に手間取ることに気付かず、クラッチを後進に入れて前進行きあしを停止する措置をとることなく、舵輪から手を離して同作業を開始した。
 その後A受審人は、よし丸が次第に速力を減じながら、左転しておおよどに向かって進行していたが、作業に熱中していて、このことに気付かず、11時11分わずか前おおよどの乗組員の叫び声で初めて船首至近に同艦を認め、急いでクラッチを後進に入れたが、効なく、よし丸は、63度を向いて4ノットの残存速力で前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、よし丸には損傷を生じなかったが、おおよどは、左舷中央部の水線上の外板に破口を生じたが、のち修理された。

(原因)
 本件衝突は、佐世保港において、よし丸が、航行中、機関回転数の調整が不能な状態となった際、前進行きあしを停止する措置が不十分で、岸壁に係留中のおおよどに向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、佐世保港において、航行中、機関回転数の調整が不能な状態となった場合、クラッチを後進に入れて前進行きあしを停止する措置をとるべき注意義務があった。しかるに同人は、脱落したキーの復旧作業が短時間で終了するものと思い、前進行きあしを停止する措置をとらなかった職務上の過失により、岸壁に係留中のおおよどとの衝突を招き、その外板に破口を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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