(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年8月17日01時07分
大分県佐伯港
2 船舶の要目
船種船名 |
交通船仁盛丸 |
総トン数 |
7.30トン |
全長 |
15.60メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
235キロワット |
3 事実の経過
仁盛丸は、船体中央部に操舵室と客室とを有するFRP製交通船で、A受審人が1人で乗り組み、旅客2人を乗せ、船首0.3メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、平成11年8月17日01時05分大分県佐伯港本港泊地にある魚市場前の岸壁を発し、同泊地北方の大入島守後浦に向かった。
ところで、A受審人は、昭和63年仁盛丸の竣工以来、同船に船長として乗り組み、主に佐伯港本港泊地と大入島とを結ぶ定期船の運航が終了した18時30分ころから翌日04時00分ころまでの間、旅客や新聞などの輸送に従事していたもので、平素守後浦に向かう際、同泊地内は速力を減じて航行し、同泊地本港北防波堤(以下「北防波堤」という。)の東端を左舷側7メートルばかりに見て通過したのち、守後浦に向く針路に転じ、機関を全速力前進として運航に当たっていた。
離岸後、A受審人は、小雨が降っていたので、操舵室の窓や扉をすべて締め切ったあと、舵輪の後方に立ち、旅客1人をその左舷側に立たせ、他の1人を同室後部の長いすに腰を掛けさせた状態で操船に当たり、01時05分少し過ぎ佐伯港中防波堤西灯台(以下、灯台の名称に冠する「佐伯港」を省略する。)から259度(真方位、以下同じ。)500メートルの地点で、針路を本港北防波堤灯台の灯火を正船首少し左舷方に見る072度に定め、機関を微速力前進にかけて4.5ノットの対地速力とし、手動操舵により進行した。
01時06分半わずか過ぎA受審人は、北防波堤東端の手前120メートルの地点に至り、機関を半速力前進に増速して10.0ノットの対地速力としたとき、雨足が急に強まって視程が10メートルばかりに狭められ、本港北防波堤灯台などの灯火を視認することができなくなったが、そのうち雨足が弱まって視界が回復するものと思い、速やかに機関を停止し、レーダーを起動して船位の確認ができるようになるまで、漂泊して待つことなく続航した。
こうして、A受審人は、船位の確認を行うことができないまま、曇っていた操舵室前面の窓ガラスをタオルで拭き始めたところ、左舵を少しとった状態となり、次第に船首が左に回頭して北防波堤に向首する態勢になったものの、このことに気付かないで進行中、01時07分わずか前正船首至近に迫った北防波堤を認め、急いで機関を中立にしたが及ばず、01時07分中防波堤西灯台から286度140メートルの地点において、仁盛丸は、原速力のまま、船首が040度に向いた状態で北防波堤の南側壁面にほぼ直角に衝突した。
当時、天候は雨で風力1の東北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期に当たり、視程は約10メートルであった。
衝突の結果、船首部を圧壊したが、のち修理され、旅客の1人が下顎部挫傷等の傷を負った。
(原因)
本件防波堤衝突は、夜間、大分県佐伯港本港泊地内を大入島守後浦に向けて出航中、降雨で急に視界制限状態となった際、レーダーによる船位の確認ができるようになるまで、漂泊して待たなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、大分県佐伯港本港泊地内を大入島守後浦に向けて出航中、降雨で急に視界制限状態となった場合、同泊地出口に接近していたのであるから、速やかに機関を停止し、レーダーを起動して船位の確認ができるようになるまで、漂泊して待つべき注意義務があった。ところが、同受審人は、そのうち雨足が弱まって視界が回復するものと思い、速やかに機関を停止し、レーダーを起動して船位の確認ができるようになるまで、漂泊して待たなかった職務上の過失により、針路が次第に左転していることに気付かないまま進行して北防波堤への衝突を招き、船首部を圧壊させ、旅客1人に下顎部挫傷等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。