(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年6月3日21時10分
愛媛県壬生川港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船良栄丸 |
漁船北新2号丸 |
総トン数 |
4.99トン |
4.70トン |
登録長 |
9.98メートル |
10.62メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
40キロワット |
46キロワット |
3 事実の経過
良栄丸は、船尾に操舵室を有するFRP製の漁船で、A受審人が1人で乗り組み、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成10年6月3日18時00分愛媛県東予市の河原津漁港を発し、くるまえび操業の目的で同漁港北方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、漁場に到着後、操業準備を終えて20時00分壬生川港壬生川東防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から336度(真方位、以下同じ。)1.0海里の地点に達したとき、第1回目の操業を行うこととし、針路を106度に定めて機関を半速力前進にかけ、1.5ノットの速力で曳網を開始した。
A受審人は、曳網にあたり、両舷灯及びマスト上部に緑色全周灯1個を表示し、船尾部には傘付きの作業灯2個を表示したものの、船尾灯及び前示全周灯下の白色全周灯の表示は行わないまま操業に従事したが、周囲の他船からは航行中の動力船とは違って、何らかの漁ろうに従事している船舶であることを認識し得る状況となっていた。
ところで同船の操業は、長さ約10メートルの底びき網の先端に約18メートルのビームを取り付けて網の入口を開口し、同ビームの両端から平行に曳網索をとり、その端末を船尾のローラーにとりブレーキをかけて結止して曳くもので、約1時間の曳網を行った後に揚網することを繰り返すものであった。
こうしてA受審人は、21時00分防波堤灯台から062度1.1海里の地点に達したとき、揚網の準備にとりかかることとし、針路を000度に転じて続航した。
21時05分A受審人は、防波堤灯台から056度1.2海里の地点に達したとき、左舷船首21度1,550メートルのところに南下して航行する北新2号丸(以下「北新丸」という。)の表示する緑色舷灯及び船尾方に設けられた作業灯を視認し得る状況となったが、前路を一瞥しただけで、支障となる他船はいないものと思い、見張りを十分に行うことなく進行した。
21時07分半A受審人は、北新丸と衝突のおそれのある態勢となって750メートルに接近したが、依然、見張りが不十分で、このことに気付かず、モーターホーンを使用して注意を喚起する信号を行わず、更に接近する同船に対し衝突を避けるための措置をとらないまま操舵室を離れ船尾の甲板で揚網準備にとりかかった。
A受審人は、その後、揚網作業を終え、ふと左舷船首方を見たとき至近に迫った北新丸の表示する灯火を認め、あわててローラーのブレーキを緩めて前進しようと試みたが効なく、21時10分良栄丸は、防波堤灯台から051度1.25海里の地点において、同船の左舷中央部付近に北新丸の船首が前方から24度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はなく、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、北新丸は、船尾に操舵室を有するFRP製の漁船で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.2メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、同日13時00分愛媛県壬生川港を発し、くるまえび等の操業の目的で同港北方沖合の漁場に向かった。
B受審人は、同漁場に到着したのち4回の操業を行い、くるまえび約1キログラム、たち魚を約8キログラムを漁獲したところで操業を中断し、その後南下して漁場を移動することとし、次の投網場所までが短距離であったことから両舷灯及び船尾方に作業灯3個を表示したのみで移動を開始した。
B受審人は、21時00分防波堤灯台から010度2.1海里の地点に達したとき、針路を156度に定めて機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの速力で進行した。
21時05分B受審人は、防波堤灯台から026度1.6海里の地点に達したとき、船首方一帯に広がる西条市内の街の灯火を背景に、折からバッテリー電源節約のためレーダーを休止として移動中、背後の灯火に紛れて良栄丸の表示するマスト上の緑灯1個、紅色舷灯及び船尾方に2個の作業灯を右舷船首3度1,550メートルのところに視認し得る状況となり、同船が極めて低速力で移動していることなどから、何らかの漁ろうに従事している船舶であることを知り得る状態にあったが、前路を一瞥しただけで他船はいないものと思い、見張りを十分に行うことなく続航した。
21時07分半B受審人は、良栄丸と衝突のおそれのある態勢となって750メートルに接近したが、依然、前路の見張りが不十分で、このことに気付かず、その後漁ろうに従事する良栄丸の進路を避けることなく、このころ次の投網準備にとりかかることとし、舵輪を中央にして操舵輪後方で船尾方に向かって中腰となり、甲板上の網の準備作業にとりかかった。
21時10分同作業中のB受審人は、突然、船首に衝撃を受け、北新丸は原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、良栄丸は、左舷中央部外板に破口及び操舵室に損傷を生じ、北新丸は、船首船底を破損し、のちいずれも修理され、A受審人が腰椎等打撲を、B受審人が頭部挫創を負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、壬生川港北方海域において、漁場を移動中の北新丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している良栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、良栄丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、壬生川港北方海域において、船首方一帯に広がる西条市内の街の灯火を背景に漁場を南下して移動する場合、背後の灯火に紛れて良栄丸の表示する灯火が見づらい状況にあったから、これを見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、前路を一瞥しただけで他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漁ろうに従事する良栄丸に気付かず、同船の進路を避けることなく進行して良栄丸との衝突を招き、良栄丸の左舷中央部外板に破口及び操舵室に損傷を、北新丸の船首船底に破損を生じさせ、A受審人に腰椎等打撲を、自らは頭部挫創を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、壬生川港北方海域において、漁ろうに従事して北上する場合、漁場を南下して移動中の北新丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、前路を一瞥しただけで支障となる他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢となって接近する北新丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく進行して同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。