(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年5月21日12時19分
瀬戸内海広島湾
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船さくら丸 |
プレジャーボート平成丸 |
総トン数 |
394トン |
1.5トン |
全長 |
54.69メートル |
8.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
54キロワット |
3 事実の経過
さくら丸は、船首部甲板上にジブクレーンを備えた船尾船橋型の砂利運搬船で、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.4メートル船尾3.1メートルの喫水をもって、平成11年5月21日10時46分広島港を発し、大分県津久見港に向かった。
A受審人は、出航操船に引き続き船橋当直に就いて広島湾を南下し、12時11分山口県岩国市沖の甲島島頂(102メートル、以下「甲島」という。)から319度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点で、針路を207度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で、大畠瀬戸に向け進行した。
ところで、さくら丸は、船橋中央部の操舵スタンドの位置から前方を見通すと、正船首方両舷が数度にわたってジブクレーンにより死角になっていたものの、同スタンド位置から左右に数メートル移動することで死角を補う見張りができる状況にあった。
定針したころA受審人は、日頃は多数の遊漁船を認めていた付近海域に、1隻の遊漁船を右舷前方1海里ばかりに認めたのみであったことから、操舵スタンド後ろに置かれた椅子に腰掛けて当直を始めた。
12時14分A受審人は、甲島から297度1.3海里の地点に達したとき、正船首1,700メートルのところに、錨泊中の平成丸を視認することができる状況で、その後同船に衝突のおそれのある態勢で接近していたが、周囲に前示の遊漁船を認めただけであったので気が緩み、椅子から移動するなど正船首方向の死角を補う十分な見張りを行うことなく、平成丸に気付かず続航した。
12時17分半A受審人は、平成丸と510メートルに接近していたが、依然、見張り不十分で同船に気付かず、同船を避けることなく進行中、さくら丸は、12時19分甲島から260度3,050メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その右舷船首部が、平成丸の左舷船首部に後方から72度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
また、平成丸は、汽笛を備えないFRP製小型遊漁兼用船で、B受審人が1人で乗り組み、友人2人を乗せ、あじ、めばるなどを釣る目的で、船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、同日10時00分岩国市今津川河口の係留地を発し、10時15分ごろ水深約30メートルの前示衝突地点付近に至って機関を停止し、直径10ミリメートルのクレモナ製ロープを錨索として両舷から投錨し、錨泊中であることを示す球形形象物を掲げて釣りを開始した。
12時14分B受審人は、錨索を左舷側に約90メートル、右舷側に約80メートル延出して船首部たつに係止し、ほぼ東南東に向首して船尾甲板で竿を出していたとき、左舷正横付近1,700メートルのところに、さくら丸を初認し、その後同船が自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近することを知った。
12時17分半B受審人は、さくら丸が自船を避けないまま510メートルに接近したが、それまで錨泊中に近づく他船は自船を避けていたので、そのうちさくら丸が自船を避けるものと思い、直ちに錨索を放し、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとらず、同時18分半わずか前同船との距離が約200メートルになったとき、危険を感じて同乗者に錨索を放すよう指示し、機関を後進にかけたが及ばず、平成丸は、135度に向首して前示のとおり衝突した。
衝突の結果、さくら丸にはほとんど損傷はなかったが、平成丸は、左舷船首部外板、ブルワークなどを破損し、同乗者1人が、腰部、左肩などに打撲傷を負った。
(原因)
本件衝突は、広島湾において、南下中のさくら丸が、見張り不十分で、前路で錨泊している平成丸を避けなかったことによって発生したが、平成丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、広島湾を正船首方向に死角のある状態で南下する場合、前路で錨泊している平成丸を見落とすことのないよう、船橋内を左右に移動するなどして死角を補う十分な見張りを行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、日頃多数の遊漁船を認めていた海域に1隻の遊漁船を認めたのみであったので気が緩み、操舵スタンド後ろに置いた椅子に腰掛け、船橋内を左右に移動するなどして死角を補う十分な見張りを行わなかった職務上の過失により、平成丸に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、平成丸の左舷前部外板、ブルワークなどに破損を生じさせ、同船同乗者の腰部、左肩などに打撲傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、広島湾において、魚釣りをして錨泊中、自船を避けずに接近するさくら丸を認めた場合、直ちに錨索を放し、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、それまで錨泊中に近づく他船は自船を避けていたので、そのうちさくら丸が自船を避けるものと思い、直ちに錨索を放し、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。