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平成12年神審第78号
件名

漁船わかたけ丸漁船新漁丸外1隻衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年1月30日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(西田克史、黒岩 貢、西林 眞)

理事官
野村昌志

受審人
A 職名:わかたけ丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:新漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
わかたけ丸・・・左舷船首部外板に破口
新漁丸・・・右舷船首部外板に亀裂、B受審人は約1箇月間の通院加療を要する右胸部打撲

原因
わかたけ丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は、わかたけ丸が、見張り不十分で、係留中の新漁丸外1隻を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年9月17日05時10分
 和歌山県和歌山下津港外港

2 船舶の要目
船種船名 漁船わかたけ丸 漁船新漁丸
総トン数 1.7トン 0.4トン
登録長 8.51メートル 4.96メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
漁船法馬力数 70 30

船種船名 漁船金義丸
総トン数 0.5トン
登録長 5.22メートル
機関の種類 電気点火機関
漁船法馬力数 30

3 事実の経過
 わかたけ丸は、船体後部寄りに操舵室を有するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、あじ一本釣り漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成11年9月17日05時05分和歌山県和歌山下津港下津区の大崎浦を発し、同区北西部ツブネ鼻の北方沖合の漁場に向かった。
 ところで、ツブネ鼻北北西方300メートル沖合の、和歌山下津港外港には、ほぼ南北方向に長さ460メートルにわたって和歌山石油精製大崎シーバース(以下「シーバース」という。)が設置されており、シーバース最南端が約5メートル四方大のムアリングドルフィン(以下「ドルフィン」という。)となっていた。
 A受審人は、発航時から航行中の動力船の灯火を表示のうえ操舵室に立ち、操舵と見張りに当たって西行し、05時10分少し前ツブネ鼻灯台から270度(真方位、以下同じ。)120メートルの地点に達したとき、針路をシーバースの東側を通る015度に定め、機関を全速力前進にかけ、17.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 定針時、A受審人は、左舷船首42度50メートルにドルフィンを見るようになるとともに、左舷船首75度2ないし3海里のところに多数の漁船の灯火を認め、それら漁船群に注目して続航した。
 05時10分わずか前A受審人は、ツブネ鼻灯台から286度120メートルの地点で、ドルフィンに左舷側30メートルで並航したとき、左舷側遠方の漁船群付近に向けて左転することとしたが、依然、同漁船群に注目していて、転針方向に対する見張りを十分に行っていなかったので、そのとき左舷船首60度35メートルのところに、船尾をドルフィンの北側にそれぞれ係留している新漁丸及び同船左舷側の金義丸に気付かなかった。そして、同人は、左転して針路を315度に転じたところ、新漁丸及び金義丸に向首する態勢となったが、両船を避けることなく進行した。
 こうして、A受審人は、そのまま続航中、05時10分ツブネ鼻灯台から293度150メートルの地点において、わかたけ丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首部が、新漁丸の右舷船首部に後方から67度の角度で衝突し、続いて金義丸の右舷船首部に衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期に当たり、視界は良好で、日出は05時43分であった。
 A受審人は、衝撃を受けて後方を確認し、新漁丸外1隻を認めたが、衝撃音が小さかったので大したことはないと思ってそのまま漁場に向かい、操業を終えて同日昼ごろ帰港したところで、海上保安官の事情聴取を受けた。
 また、新漁丸は、操舵室を有しないFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、あじ一本釣り漁の目的で、船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、同日04時30分和歌山下津港海南区の戸坂漁港を発し、シーバース付近の漁場に向かった。
 B受審人は、04時45分シーバース中央部に到着したものの、他船が多くいたことから場所を変えることとし、05時00分先着していた金義丸の右舷側至近の、前示衝突地点で機関を止め、船首から重さ10キログラムの錨を水深25メートルの海底に投じ、直径10ミリメートル(以下「ミリ」という。)の錨索を70メートル延出したうえ、船尾から直径10ミリの係留索を20メートル延ばしてドルフィンに取り、北北東方に向首して係留を終え、金義丸と自船の船首同士を5メートルのもやいで繋ぎ、白灯の設備がなかったので両色灯のみを点灯し、船首部で釣りの準備を始めた。
 05時10分わずか前B受審人は、船首が022度を向いていたとき、機関音を聞いて周りを見渡したところ、右舷船尾67度35メートルに自船に向首したわかたけ丸を初めて視認したが、どうすることもできず、大声を上げながら船尾に逃れたとき、新漁丸は、022度に向首したまま前示のとおり衝突した。
 一方、金義丸は、操舵室を有しないFRP製漁船で、船長坂本健三が1人で乗り組み、あじ一本釣り漁の目的で、船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、同日04時30分戸坂漁港を発し、シーバース付近の漁場に向かった。
 坂本船長は、04時45分前示衝突地点に到着して機関を止め、船首から重さ10キログラムの錨を海底に投じ、直径12ミリの錨索を70メートル延出したうえ、船尾から直径9ミリの係留索を15メートル延ばしてドルフィンに取り、北北東方に向首して係留を終え、白灯が故障していたので両色灯のみを点灯し、船首部で釣りの準備を始めた。
 05時10分わずか前坂本船長は、船首が022度に向いていたとき、B受審人の叫び声を聞いて周りを見渡し、新漁丸の右舷後方至近にわかたけ丸を初めて視認したが、どうすることもできず、船尾に逃れて海中に飛び込んだとき、金義丸は、022度に向首したまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、わかたけ丸は、左舷船首部外板に破口を、新漁丸及び金義丸は、それぞれ右舷船首部外板に亀裂を生じたが、のちいずれも修理された。また、B受審人は、衝撃により海中に投げ出され、約1箇月間の通院加療を要する右胸部打撲を負った。

(原因)
 本件衝突は、日出前の薄明時、和歌山下津港外港に設置されたシーバース付近において、わかたけ丸が、見張り不十分で、ドルフィンに係留中の新漁丸外1隻を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、日出前の薄明時、和歌山下津港外港に設置されたシーバース東側を北上中、左舷側遠方の漁船群付近に向けて左転する場合、ドルフィンに係留中の新漁丸外1隻を見落とさないよう、転針方向に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同漁船群に注目していて、転針方向に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、新漁丸外1隻の存在に気付かず、その至近で転針し両船を避けないまま進行して衝突を招き、自船の左舷船首部外板に破口を、新漁丸及び金義丸の各右舷船首部外板に亀裂をそれぞれ生じさせ、B受審人に右胸部打撲を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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