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平成12年神審第30号
件名

プレジャーボート第五海清丸プレジャーボートマークン衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年1月23日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁

審判官
黒岩 貢
副理事官
蓮池 力

受審人
A 職名:第五海清丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第五海清丸同乗者 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:マークン船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
海清丸・・・推進器翼を損傷
マークン・・・左舷後部ブルワーク、船尾部燃料タンクカバー等を損傷、C受審人が胸部打撲及び右第3肋骨亀裂骨折、同乗者Dが左側頭部及び前額部打撲裂傷、同Eが左目尻裂傷

原因
海清丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
マークン・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守 (一因)

裁決主文

 本件衝突は、第五海清丸が、見張り不十分で、漂泊中のマークンを避けなかったことによって発生したが、マークンが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年5月30日13時10分
 友ケ島水道

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート
第五海清丸
プレジャーボート マークン
全長 12.53メートル  
登録長   6.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 147キロワット 110キロワット

3 事実の経過
 第五海清丸(以下「海清丸」という。)は、FRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、B受審人を同乗させ、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成11年5月30日04時00分兵庫県尼崎西宮芦屋港内の今津泊地を発し、06時30分ごろ淡路島南方の沼島東岸に到着して魚釣りに興じていたところ、食いが悪かったため、09時00分ごろ同地を発って淡路島南西岸の同県阿万港に寄港し、11時30分同港を発進して帰途に就いた。
 A受審人は、自ら操舵室内右寄りに設置された操舵スタンド後方のいすに座って操舵操船に当たり、左横に立ったB受審人を見張りに就けて淡路島南岸沿いを東進し、12時19分沼島灯台から343度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点に達したとき、針路を同県由良港沖合に向く055度に定め、機関を半速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で進行した。
 ところで、A受審人は、自船が10ノット程度で航行すると船首が浮上し、正船首付近に死角が生じることから、他船が点在する海域を航行する場合、操舵中、時折いすの上に立って操舵室の天窓から顔を出して見張りに当たるようにしていた。
 また、A受審人は、同乗するB受審人が、以前、渡船業を営んでいた関係で海技免状を受有していたものの、ここ数年は、年に1ないし2回ほどA受審人から釣りに誘われたとき操舵に当たる程度で、他船が点在する海域を単独で操船した経験が少ないことを承知していた。
 13時07分少し前A受審人は、生石鼻灯台から178度540メートルの地点に達したとき、尿意を催したため操船を一時的にB受審人と交替し、船尾甲板に向かった。その際、A受審人は、正船首方に航行の妨げとなる他船はいないものの、周囲には遊漁船が点在し、他船に接近することも予測できる状況にあったが、すぐ戻るから大丈夫と思い、操舵室の天窓から顔を出すなどして見張りを十分に行うよう指示しなかった。
 操舵を交替したB受審人は、同針路、同速力のまま続航中、13時08分半わずか過ぎ生石鼻灯台から120度500メートルの地点に達したとき、淡路島側に寄って北上するため針路を左舷方の陸岸に沿う030度に転じた。
 このときB受審人は、正船首方500メートルに漂泊中のマークンを視認することができ、その後同船に向首し、衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、前方に他船はいないものと思い、操舵室の天窓から顔を出すなどして前路の見張りを十分に行っていなかったので、マークンの存在に気付かず、同船を避けないまま進行した。
 13時10分少し前B受審人は、A受審人が戻ってきたのでそろそろ操舵を交替しようと思ったとたん、13時10分生石鼻灯台から075度700メートルの地点において、海清丸は、原針路、原速力のまま、その船首がマークンの左舷後部に前方から55度の角度で衝突し、乗り切った。
 当時、天候は晴で風力1の北北東風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。
 また、マークンは、音響信号設備を有しないFRP製プレジャーボートで、C受審人が1人で乗り組み、同乗者3人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.15メートル船尾0.30メートルの喫水をもって、同日11時30分由良港の定係地を発し、同港内の成ケ島西方の釣り場に向かった。
 まもなく釣り場に到着したC受審人は、その後今川口周辺等港内各所に移動して釣りを行ったのち、13時00分前示衝突地点付近に至り、機関を中立として漂泊し、自らは船尾甲板で同乗者2人とともに船尾方を向いて座り、同乗者1人は操舵室前方で左舷側を向いて座り、それぞれ釣りを始めた。
 13時08分半わずか過ぎC受審人は、自船が265度を向首していたとき、左舷船首55度500メートルに自船に向首する海清丸を視認でき、その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、釣りに気を奪われ、見張りを十分に行っていなかったのでこのことに気付かず、機関をかけて移動するなど、衝突を避けるための措置をとらないまま魚釣りを続けた。
 13時10分わずか前C受審人は、操舵室前部にいた同乗者の叫び声で左舷方を見たところ、至近に海清丸の船体を初めて認め、とっさに操舵室に駆け込んで機関のクラッチを前進に入れたが及ばず、マークンは、265度を向首したまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、海清丸は推進器翼を損傷し、マークンは左舷後部ブルワーク、船尾部燃料タンクカバー等を損傷したが、のち両船とも修理され、また、C受審人が胸部打撲及び右第3肋骨亀裂骨折を、同乗者友草政弥が左側頭部及び前額部打撲裂傷を、同岡正大が左目尻裂傷をそれぞれ負った。

(原因)
 本件衝突は、兵庫県由良港港界付近において、海清丸が、見張り不十分で、漂泊中のマークンを避けなかったことによって発生したが、マークンが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 海清丸の運航が適切でなかったのは、船長が同乗者と操舵を交替して操舵室を離れる際、見張りについて十分に指示をしなかったことと、同乗者が見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、自ら操舵に当たって淡路島南東岸沿いを航行中、尿意を催したため、一時的に操船経験の少ない同乗者と操舵を交替して操舵室を離れる場合、同人に対し、操舵室の天窓から顔を出すなどして見張りを十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、すぐ戻るから大丈夫と思い、操舵室の天窓から顔を出すなどして見張りを十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により、同乗者が前路で漂泊中のマークンを避けずに進行して衝突を招き、自船の推進器翼及びマークンの左舷後部ブルワーク、船尾部燃料タンクカバー等を損傷させ、C受審人に胸部打撲及び右第3肋骨亀裂骨折を、友草同乗者に左側頭部及び前額部打撲裂傷を、岡同乗者に左目尻裂傷をそれぞれ負わせるに至った。
 B受審人は、淡路島南東岸沖合において、尿意を催したA受審人と操舵を交替して航行する場合、正船首方で漂泊中のマークンを見落とさないよう、操舵室の天窓から顔を出すなどして見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方に他船はいないものと思い、操舵室の天窓から顔を出すなどして見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、マークンの存在に気付かないまま進行して衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、C受審人他2人を負傷させるに至った。
 C受審人は、由良港港界付近において、漂泊して魚釣りを行う場合、自船に向首して接近する海清丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、釣りに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、海清丸の接近に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないで同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、自船の同乗者2人を負傷させ、自らも負傷するに至った。


参考図
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