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平成12年神審第34号
件名

漁船海隆丸プレジャーボートタチバナ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年1月17日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(黒岩 貢、阿部能正、西林 眞)

理事官
橋本 學

受審人
A 職名:海隆丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:タチバナ船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
海隆丸・・・右舷船首部に擦過傷
タチバナ・・・左舷側が大破して転覆のち廃船、B受審人が、1箇月の通院加療を要す頭部外傷及び擦過傷、同乗者が、1週間の通院加療

原因
海隆丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は、海隆丸が、見張り不十分で、漂泊中のタチバナを避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年10月18日11時10分
 大阪湾

2 船舶の要目
船種船名 漁船海隆丸 プレジャーボートタチバナ
総トン数 3.4トン  
全長   6.42メートル
登録長 8.48メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力   36キロワット
漁船法馬力数 60  

3 事実の経過
 海隆丸は、船体後部に操舵室を備えるFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、引き縄漁の目的で、船首0.20メートル船尾0.40メートルの喫水をもって、平成11年10月18日09時30分大阪府淡輪港を発し、同港西方4海里の漁場に向かった。
 10時ごろ漁場に到着したA受審人は、直ちに北東方に向け1回目の操業を行って11時ごろ縄を引き揚げ、同時05分半地ノ島灯台から035度(真方位、以下同じ。)2.4海里の地点において、最初に操業を開始した地点に戻ることとし、針路を224度に定め、機関を微速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力で進行した。
 移動を開始したころA受審人は、正船首方900メートルばかりのところに漂泊している2隻の遊漁船を認め、その間に向首して続航したところ、11時09分それまで左舷側の遊漁船の陰に隠れていたタチバナを左舷船首7度200メートルに認めることができ、その様子から同船が漂泊中であることも、左舷側に30メートル隔てて無難に航過できることも分かる状況であったが、このころ周囲の地形により頻繁に船位を確認し、引き縄開始地点を探していたことから、タチバナの存在に気付かないまま続航した。
 11時10分少し前A受審人は、前示遊漁船間を通過したとき、左舷方に転針することとしたが、依然、船位の確認に気を奪われ、転針方向に対する見張りを十分に行っていなかったので、そのころ左舷船首30度50メートルとなったタチバナに気付かなかった。そして同人は、そのまま左転を開始したところ、タチバナに向首するようになったが、これを避けないまま進行し、11時10分地ノ島灯台から033度1.9海里の地点において、海隆丸は、原速力のまま150度を向首したその船首が、タチバナの左舷側後部に90度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 また、タチバナは、船体中央部に操舵室を備えるFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人1人を同乗させ、魚釣りの目的で、船首0.30メートル船尾0.45メートルの喫水をもって、同日09時45分大阪府深日港を発し、同港西方の明神埼沖合1,500メートルの釣り場に向かった。
 B受審人は、沖合を迂回して他船の釣り模様を見ながら目的地に向かい、11時05分前示衝突地点付近の釣り場に到着して機関を中立とし、同人は操舵室後部左舷側に、同乗者は左舷船尾部にそれぞれ腰を下ろし、左舷方に釣り竿を出して釣りを始めた。
 11時09分半B受審人は、自船が060度に向首していたとき、左舷船首30度100メートルに地ノ島方向に航行中の海隆丸を初めて認めたが、左舷側を30メートル隔てて航過する態勢であったことから、同船から目を離して魚釣り中、同時10分わずか前ふと顔を上げたとたん、至近に海隆丸の船首を認めたものの、どうすることもできず、タチバナは、060度を向首して前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、海隆丸は、右舷船首部に擦過傷を生じただけであったが、タチバナは、左舷側が大破して転覆し、廃船となった。また、B受審人及び同乗者は、衝突直前海中に飛び込み、その後海隆丸に救助され、B受審人が、1箇月の通院加療を要す頭部外傷及び擦過傷、右中指打撲捻挫、右示指基節骨骨折を、同乗者が、1週間の通院加療を要す左手関節捻挫、打撲をそれぞれ負った。

(原因)
 本件衝突は、大阪湾において、海隆丸が、見張り不十分で、漂泊中のタチバナを避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、大阪湾において、漁場移動のため航行中、目的地に向け転針する場合、漂泊中のタチバナを見落とさないよう、転針方向に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲の地形による船位の確認に気を取られ、転針方向に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊中のタチバナに気付かず、転針し同船を避けないまま進行して衝突を招き、自船の右舷船首部に擦過傷を生じさせ、タチバナの左舷側を大破して廃船に至らせ、B受審人に頭部外傷及び擦過傷、右中指打撲捻挫、右示指基節骨骨折を、同乗者に左手関節捻挫、打撲をそれぞれ負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:101KB)





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