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平成12年横審第31号
件名

貨物船大輝丸貨物船第一鋼運丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年1月31日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(半間俊士、西村敏和、向山裕則)

理事官
関 隆彰

受審人
A 職名:大輝丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
C 職名:第一鋼運丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
D 職名:第一鋼運丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:大輝丸甲板長

損害
大輝丸・・・左舷中央部外板に亀裂を伴う凹損
鋼運丸・・・正船首部を圧壊

原因
鋼運丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)(主因)
大輝丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)(一因)

主文

 本件衝突は、第一鋼運丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したが、大輝丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことも一因をなすものである。
 受審人Cを戒告する。
 受審人Dを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年5月9日11時55分
 大王埼南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船大輝丸 貨物船第一鋼運丸
総トン数 3,322トン 443トン
全長 93.02メートル 70.93メートル
機関の種類 ディーゼル機関  ディーゼル機関
出力 3,089キロワット 735キロワット

3 事実の経過
 大輝丸は、船首部にバケットエレベーターを、舵としてシリングラダーをそれぞれ装備した船尾船橋型のセメント運搬船で、A受審人、甲種甲板部航海当直部員として認定されたB指定海難関係人ほか9人が乗り組み、セメント5,200トンを載せ、船首6.14メートル船尾7.14メートルの喫水をもって、平成11年5月8日23時10分和歌山下津港を発し、京浜港に向かった。
 ところで、A受審人は、船橋当直を4時間交代3直制とし、一等航海士、二等航海士及びB指定海難関係人にそれぞれ操舵手を伴って入直させ、日ごろから口頭及び船橋内の白板に記載することにより、同当直者に対して視界不良時にはいつでも報告することなど船橋当直における必要事項を指示していた。
 翌9日05時55分船橋当直中の一等航海士は、樫野埼灯台から125度(真方位、以下同じ。)2.8海里の地点で、針路を051度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.9ノットの対地速力として自動操舵で進行し、07時から同時30分の間在橋していたA受審人に、視程が約2海里であることを報告して、08時00分三木埼灯台から176度16.3海里の地点で次直のB指定海難関係人と船橋当直を交代した。
 A受審人は、視程が約2海里であることやB指定海難関係人が休暇明けの航海ということもあって、自ら操船指揮をとるつもりで朝食後の08時ごろ昇橋し、気象情報入手のためなど一時降橋することがあったが在橋を続け、レーダーと反航船の見え具合を監視することにより、在橋中の視程が約2.5海里であることを確認し、昼食のために降橋することとしたが、視界が更に悪化したときには報告があるものと思い、視界制限時の視程の報告について具体的に指示することなく、11時30分降橋した。
 一方、船橋当直を引き継いだB指定海難関係人は、航海灯の点灯を確認して自動操舵のまま、A受審人の指揮のもと、操舵手とともに船橋当直にあたり、同受審人から聞いて視程が2.5海里であることを知り、レーダーレンジを3海里及び6海里で交互に切り替えて周囲の監視を行い、適宜船位を確認してコースラインに沿うよう針路を修正し、A受審人が降橋したあと、11時35分大王埼灯台から163度8.2海里の地点で051度の原針路に戻して進行した。
 B指定海難関係人は、11時45分大王埼灯台から148度7.6海里の地点に達したとき、6海里レンジとしたレーダーで右舷船首7度3.5海里のところに第一鋼運丸(以下「鋼運丸」という。)の映像を初めて認め、カーソルを同映像に当て、同映像が3海里になったとき、3海里レンジに切り替えて監視を続け、同時49分少し過ぎ大王埼灯台から143度7.4海里の地点で、同映像が右舷船首8度2.0海里になったとき、同船が視認できないことから視界が悪化したことに気付いたが、霧中信号を行わず、A受審人から具体的な指示がなかったことから、視界の状況及び鋼運丸の映像を探知したことなどを報告せず、同船と著しく接近することとなるかどうか判断しないまま続航した。
 B指定海難関係人は、11時52分大王埼灯台から138度7.5海里の地点で、鋼運丸の映像が右舷船首7度1.0海里に接近したことを知り、肉眼で同船を視認できなかったので、視界が1海里以下になっていることに気付き、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、操舵手に指示してA受審人に視界の状況を報告したものの、同船の映像がわずかずつ左に替わっているように見えたことから、目視してから右転しても避けることができると思い、同受審人に同船との接近模様を報告して指揮を仰ぐなどせずに、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止める措置をとらずに進行した。
 11時53分半B指定海難関係人は、船橋内前面の中央よりやや右舷側で前方の見張りをしていたところ、右舷船首5度800メートルのところに鋼運丸の左舷船首を初めて肉眼で認め、レーダーで同船との距離を測定し、このころ報告を終えて昇橋した操舵手に令して手動操舵に切り替え、同時54分機関を全速力前進のまま右舵一杯とし、同時54分少し過ぎ右回頭を始めたのを確認して短音1回を吹鳴した。
 これより先、A受審人は、操舵手から視界が悪くなった旨の報告を受けて身支度を整えていたところ、短音1回を聞いて慌てて昇橋し、B指定海難関係人から右舵一杯としていることを聞き、左舷船首方に迫った鋼運丸を認めたが、自ら操船指揮に当たっていなかったことから、どうすることもできないまま右回頭中、11時55分大王埼灯台から134度7.5海里の地点において、大輝丸は、右回頭によって速力が9ノットばかりとなり、130度を向いたとき、その左舷前部に鋼運丸の左舷船首が前方から40度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風力2の北東風が吹き、視程は約800メートルであった。
 また、鋼運丸は、フラップラダーを装備した船尾船橋型の貨物船で、C、D両受審人ほか1人が乗り組み、スクラップ1,060トンを載せ、船首2.70メートル船尾4.25メートルの喫水をもって、同月8日17時40分千葉港を発し、姫路港に向かった。
 C受審人は、船橋当直をD受審人と交代で6時間2直制とし、翌9日05時45分同人と交代して同当直に就き、06時00分御前埼灯台から181度2.9海里の地点を航過して西航し、08時10分五島灯台から186度10.3海里の地点に達したとき、針路を245度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力として自動操舵にし、コースラインに沿って航行するよう、適宜修正しながら進行した。
 C受審人は、10時30分ごろから船首のマストの見え具合により、視界が悪くなってきたことに気付いてレーダー監視を始め、11時36分大王埼灯台から115度9.4海里の地点で、6海里レンジでオフセンターとしたレーダーで、左舷船首7度7.0海里のところに大輝丸の映像を初めて認め、その後航過した反航船の見え具合から視程が1海里ばかりになっているのを知り、同時45分同灯台から123度8.3海里の地点に達したとき、昇橋してきたD受審人に船橋当直を引き継ぐこととしたが、同人は船長経験があり、同人の操船について信頼していたことから、視界制限状態で同当直を任せても大丈夫と思い、在橋して自ら操船指揮をとることなく、大輝丸の存在と同船が左舷側を航過するであろうことを告げ、同当直を交代して降橋した。
 D受審人は、船橋当直の交代直後、レーダーで左舷船首6度3.5海里のところに大輝丸の映像を認め、その後視程が800メートルばかりと判断したが、反航船は大輝丸1隻だけであるので大丈夫と思い、霧中信号を行わず、レーダー監視を続けていたところ、同映像の航過距離が少し近すぎると感じ、11時49分少し過ぎ大王埼灯台から128度8.0海里の地点で、同映像が左舷船首6度2.0海里となったとき5度右転し、針路を250度として進行した。
 D受審人は、右転後カーソルを大輝丸の映像に合わせてレーダー監視を続け、11時52分大王埼灯台から131度7.6海里の地点で、同映像が左舷船首12度1.0海里になったのを知り、大輝丸と著しく接近することを避けることができない状況となったが、自船は舵効きがよく、目視してからでも避けることができると思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止める措置をとらないまま、レーダー監視を中止して双眼鏡を用いて前方を見張っていたところ、同時54分わずか前左舷船首17度500メートルのところに大輝丸を認め、このまま互いに直進すると同船の船尾に衝突すると思い、左舵20度をとって左回頭していたところ、同船の吹鳴する操船信号の短音1回を聞き、慌てて右舵50度にとり直して右回頭中、同時55分少し前船首方に迫った同船を認めて機関を後進一杯としたが及ばず、鋼運丸は、270度を向き、その速力が6ノットばかりとなったとき、前示のとおり衝突した。
 C受審人は、食事のために部屋を出たとき、衝撃で衝突を知って昇橋し、事後の措置にあたった。
 衝突の結果、大輝丸は、左舷中央部外板に亀裂を伴う凹損、並びに上甲板上の構造物及びぎ装品に損傷を生じ、鋼運丸は、正船首部を圧壊し、船首水槽に亀裂及び左舷船首部ブルワークに損傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、両船が霧のため視界制限状態となった大王埼南東方沖合において、西南西方に向けて航行する鋼運丸が、霧中信号を吹鳴せず、かつ、レーダーにより前路に探知した大輝丸と著しく接近することを避けることができない状況になった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったばかりか、同船を視認してから左右に転舵したことによって発生したが、北東方に向けて航行する大輝丸が、霧中信号を吹鳴せず、かつ、レーダーにより前路に探知した鋼運丸と著しく接近することを避けることができない状況になった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことも一因をなすものである。
 鋼運丸の運航が適切でなかったのは、船長が視界制限時に在橋して自ら操船の指揮をとらなかったことと、船橋当直者が視界制限時の措置を適切にとらなかったこととによるものである。
 大輝丸の運航が適切でなかったのは、船長が視界制限時の報告について指示が十分でなかったことと、船橋当直者が視界制限時の報告及び措置を適切に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 C受審人は、大王埼南東方沖合を西南西方に向けて航行中、霧のため視界制限状態になった場合、在橋して自ら操船の指揮をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、船橋当直者が船長経験があり、同当直者の操船について信頼していたことから、視界制限状態で同当直を任せても大丈夫と思い、在橋して自ら操船の指揮をとらなかった職務上の過失により、大輝丸との衝突を招き、同船の左舷中央部外板に亀裂を伴う凹損、並びに上甲板上の構造物及びぎ装品に損傷を生じさせ、鋼運丸の正船首部を圧壊させ、船首水槽に亀裂及び左舷船首部ブルワークに損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 D受審人は、霧のため視界制限状態となった大王埼南東方沖合を西南西方に向けて航行中、レーダーにより前路に探知した大輝丸と著しく接近することを避けることができない状況になった場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、自船の操縦性能から大輝丸を視認してからでも避けることができると思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったばかりか、同船を視認してから左右に転舵した職務上の過失により、大輝丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、大王埼南東方沖合を北東方に向けて航行中、霧のため視界が悪くなる状況で、航海当直部員の認定を受けた船橋当直者に同当直を委ねる場合、視界制限時の視程の報告について具体的に指示すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、視界が更に悪化したときには報告があるものと思い、視界制限時の報告について具体的に指示しなかった職務上の過失により、視界制限時に自ら操船指揮をとることができずに鋼運丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、大王埼南東方沖合を北東方に向けて航行中、霧のため視界制限状態になった場合、その報告が遅れたばかりか、レーダーにより前路に探知した鋼運丸と著しく接近することを避けることができない状況になったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図
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