日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成11年第二審第23号
件名

貨物船フンアトウキョウ貨物船サンデューク衝突事件〔原審門司〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年2月8日

審判庁区分
高等海難審判庁(宮田義憲、伊藤 實、田邉行夫、吉澤和彦、川本 豊)

理事官
松井 武

受審人
A 職名:サンデューク水先人 水先免状:関門水先区
指定海難関係人
B 職名:サンデューク船長

損害
フ号・・・右舷側船首外板及び右舷側中央部外板に凹損
サ号・・・左舷側前部外板に亀裂を伴う凹損、左舷側後部外板に凹損

原因
サ号・・・動静監視不十分、港則法の航法(避航動作)不遵守(主因)
フ号・・・警告信号不履行、港則法の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、航路外から航路に入るサン デュ−クが、動静監視不十分で、航路を航行するフンア トウキョウの進路を避けなかったことによって発生したが、フンア トウキョウが、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年4月27日06時37分
 関門港関門航路

2 船舶の要目
船種船名 貨物船フンアトウキョウ 貨物船サンデューク
総トン数 4,914トン 1,831.00トン
全長 112.50メートル 84.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 3,883キロワット 1,912キロワット

3 事実の経過
 フンア トウキョウ(以下「フ号」という。)は、大韓民国と本邦各港間の定期航路に就航する、船尾船橋型のコンテナ船で、船長Cほか14人が乗り組み、コンテナ278個を載せ、船首5.0メートル船尾5.8メートルの喫水をもって、平成10年4月25日19時00分静岡県清水港を発し、大韓民国ウルサン港に向かった。
 C船長は、瀬戸内海を通航し、翌々27日04時20分山口県山口港南方沖合で昇橋して操船の指揮を執り、05時30分部埼灯台の南東方1.0海里ばかりの地点に達したとき、関門海峡の通峡に備えて機関用意を令し、一等航海士を船位確認と見張りに、甲板手を操舵に就け、同海峡を西航した。
 ところで、C船長は、関門海峡を約1週間に1往復の割合で通峡しており、その航路事情に詳しいところから水先人の嚮導(きょうどう)を求めなかった。
 06時32分C船長は、台場鼻灯台から322度(真方位、以下同じ。)830メートルの地点において、針路を026度に定め、機関を全速力前進にかけ、13.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、関門航路(以下「航路」という。)をこれに沿って北上した。
 C船長は、定針したとき、右舷船首20度1.4海里のところに水先旗を表示して航路外から航路に向かって航行を開始したサン デューク(以下「サ号」という。)を初めて視認し、同船の動静を監視しながら進行した。
 C船長は、06時34分サ号が右舷船首22度1,600メートルとなったとき、関門海峡海上交通センターからサ号が接近している旨の連絡を受け、同船がそのまま進行すれば、その方位がほとんど変わらず、衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めたが、航路外から航路に入るサ号が、航路をこれに沿って航行する自船の進路を避けることを期待して、警告信号を行わずに長音2回を吹鳴したのみで同針路及び速力のまま進行した。
 06時35分C船長は、サ号が航路に入る態勢で、1,100メートルとなり、依然としてその方位がほとんど変わらないまま、衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めたものの、なおも同針路及び速力のまま続航し、やがて間近に接近したが、機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらずに進行した。
 C船長は、06時36分わずか過ぎ六連島灯台から142度1,250メートルの地点に達したとき、サ号が右舷船首25度490メートルに接近して自船の前路至近のところを通り抜けようとしていることに気付き、機関停止を令し、短音2回を吹鳴して左舵一杯としたが及ばず、06時37分六連島灯台から125度1,100メートルの航路内において、フ号は、325度を向いて約9ノットの速力となったとき、その右舷船首がサ号の左舷側前部に後方から25度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、衝突地点付近の潮候はほぼ転流時であった。
 また、サ号は、船尾船橋型の貨物船で、B指定海難関係人ほか13人が乗り組み、コールタール1,962トンを載せ、船首4.3メートル船尾5.5メートルの喫水をもって、同月23日中華人民共和国ランシャン港を発し、関門港に向かい、着岸時間調整のため、同月26日07時00分六連島灯台から108度1.1海里の同港六連島区の検疫錨地に右舷錨を投入し、錨鎖4節を延出して錨泊した。
 翌27日06時20分A受審人は、サ号を水先して関門港若松区第5区新日鉄化学化成品専用桟橋に着桟させる目的で、同船に乗船し、B指定海難関係人から機関の経年劣化による速力の低下について説明を聞いた後、水先業務に就き、同人在橋のもと甲板手を操舵に就け、06時22分揚錨を開始した。
 06時30分A受審人は、揚錨を終えてサ号の船首が南方を向き、微速力前進、次いで右舵一杯を令したとき、右舷船首方の台場鼻南西方沖合の航路を北上するフ号を初めて視認した。
 A受審人は、06時32分六連島灯台から111度1.1海里の地点において、速力が3.0ノットになったとき、針路を272度に定め、機関を半速力前進に令して航路に向けたところ、左舷船首46度1.4海里のところに航路を北上中のフ号を認める状況となった。
 06時33分A受審人は、六連島灯台から112度1.0海里の地点に達して、速力が4.0ノットになったとき、フ号が左舷船首45度1.1海里に接近したものの、更に増速して同船の前路を通過することとし、機関を港内全速力前進(以下「全速力前進」という。)に令して続航した。
 A受審人は、06時34分航路を航行中のフ号が左舷船首44度1,600メートルとなり、その方位がほとんど変わらず、衝突のおそれのある態勢で接近するのを認め得る状況にあったが、機関を全速力前進にかけて増速しているから、間もなくその効果が現れてフ号の前路を通り抜けられるものと思い、衝突のおそれの有無を判断できるよう、引き続きその動静を十分に監視することなく、フ号が同態勢で接近していることに気付かないまま、航路外で同船の通過を待つなどしてその進路を避けずに航路に向かって進行した。
 一方、B指定海難関係人は、A受審人が針路を変えないまま、航路に向かって進行し、フ号と衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めたが、同受審人に操船を任せたまま、航路外で同船の通過を待つなどしてその進路を避けずに続航した。
 A受審人は、06時35分半フ号を左舷船首42度800メートルに認める状況となったとき、自船の船首部が航路に進入して7.2ノットの速力となり、さらに速力が増加する状況で続航したところ、同時36分半フ号が左舷船首36度270メートルに接近したのを認め、その前路を通り抜けて航路の右側に就くつもりで左舵10度を令し、続いてB指定海難関係人が短音2回の操船信号を吹鳴した直後、フ号が左転していることに気付き、同時36分半わずか過ぎ短音1回を吹鳴して右舵一杯、次いで機関停止を令したが効なく、サ号は、300度を向いて約9ノットの速力となったとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、フ号は、右舷側船首外板及び右舷側中央部外板に凹損を、サ号は、左舷側前部外板に亀裂を伴う凹損、同部ハンドレールに曲損及び左舷側後部外板に凹損をそれぞれ生じた。

(主張に対する判断)
 本件は、港則法が適用される関門港六連島東方沖合の関門航路において、同航路内を北上中のフ号と、同航路に向かって航路外から航路に入ろうとするサ号とが衝突した事件である。
 サ号側補佐人は、フ号が航路内を北上中、サ号が航路外から航路に入り、航路内で衝突したことを是認したうえ、「フ号は06時34分針路を028度から017度に転針し、当該海域の航路がほぼ030度であるのに対して、13度も左偏して航走していたので、航路をこれに沿って航行している船舶とは認められないから、港則法第14条第1項の規定は適用されず、海上衝突予防法の横切り船の航法を適用すべき事案である。仮に、港則法第14条第1項を適用するとしても、サ号は避航船となり、フ号は保持船となる。しかも、当時、航路内には南下中の反航船が存在し、フ号は港則法第14条第3項の規定によって、同船に対して航路の右側を航行すべき義務を有していたのだから、サ号側はフ号が左転して航路の左側に入ることは予見できなかったのである。そもそも、フ号が、保持船としての義務及び右側航行の義務を履行していれば、サ号は、フ号の前方100メートルを無難に航過し、衝突は発生しなかったのであって、フ号が左転し、機関を停止したことが、衝突の原因となったものである。」旨主張するのでこの点について検討する。
 サ号側補佐人は、フ号が06時34分に左転して017度に針路を転じたと主張するが、その根拠が明らかでない。仮にC船長が海図に記載した航跡図の06時34分の船位と衝突地点を結ぶ方位線に基づくものであるとすれば、同航跡図はC船長が門司地方海難審判理事所において、取調べを受けたとき、記憶に従って記載したもので、当時使用していた海図でないことは明らかであり、事件発生当時の船位が正確に記入されたものとはいえない。加えて、C船長は同航跡図に針路026度と記入しており、同人に対する質問調書においても、「026度で進行中、06時34分危険を感じて機関停止及び左舵一杯とした。」旨述べており、017度に転針したとする証拠は存在しない。また、サ号側補佐人の主張は、衝突地点並びにフ号の衝突時の船首方向及び衝突角度に照らしても整合性がなく、同船はほぼ航路に沿う026度で進行し、サ号が航路外から航路に向かって衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めて、左舵をとり、左転しながら衝突に至ったものと認めることはできても、017度に転針してその後直線針路で進行して衝突に至ったものとは認められない。
 ところで、サ号は、06時32分に3.0ノットの速力となり、272度に定針したとき、フ号を左舷船首46度1.4海里のところに認め、その後同船の方位変化が1分間約1度で、06時33分に機関を全速力前進にかけ、増速した後もその方位がほとんど変わらないまま接近していたのであるから、当然衝突のおそれが継続していると解するのが相当であり、A受審人は速やかに避航の措置をとるべきであった。しかし、同受審人は、原審審判調書中、「06時33分機関を全速力前進にかけた際、航路まで600メートルばかりだから、3分ぐらいで航路に入ることができ、100メートルの距離をもって、フ号の前路を替わせると思った。」旨供述しており、06時32分にフ号を左舷船首方に視認して、同時33分ごろに至ってもフ号の方位がほとんど変わらないのを認め、全速力前進に増速すれば100メートルの距離をもって、同船の前路を通り抜けられるものとして進行したものの、その後もその方位がほとんど変わらないまま接近していたのに、フ号の動静を十分に監視しないで、このことに気付かないまま進行したのである。自船の増速を当てにした上での判断であってみれば、他方の船舶にとっては航過距離の推定がかなうわけもなく、増速したその結果において、航過距離が100メートルばかりあると推測し、無難に替わる態勢にあるから港則法第14条第1項の適用はない、とはいえない。
 確かに、当時航路内にはフ号に対して反航する第三船が2隻存在したことは明らかであり、フ号はこれらの船舶と行き会うときには右側を航行すべき義務を有する。しかし、これは第三船に対する義務であって、航路外から航路に入るサ号に対して、フ号が航路の右側を航行せず、左転をしたからといって、航路外から航路に入るサ号が航路航行中のフ号の進路を避ける義務を免じられるものではないし、第三船が存在するから左転することはないとして、フ号の前方直前を横切ることが正当付けられものではない。また、サ号側補佐人は、フ号の港則法第14条第1項に対する保持義務違反及び航路航行義務違反を指摘するが、サ号が避航措置をとらなかったことから、フ号は海難を避けようとして、遅きに失したものの、機関を停止して左転したのであり、このことは港則法第12条但し書による、海難を避けようとする場合と認められ、これを保持義務違反あるいは、航路航行義務違反とするのは相当でない。

(原因)
 本件衝突は、関門港の関門航路において、航路外から航路に入るサ号が、動静監視不十分で、航路を航行するフ号の進路を避けなかったことによって発生したが、フ号が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、サ号の水先業務に就き、関門港六連島区の関門航路東方の検疫錨地から同航路に向けて西航中、同航路を北上中のフ号を視認して機関を増速した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、引き続きその動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、機関を全速力にかけて増速しているから、間もなくその効果が現れて、フ号の前路を通り抜けられるものと思い、引き続きその動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、増速しても依然としてフ号の方位がほとんど変わらないまま接近していることに気付かず、航路外で同船の通過を待つなどしてフ号の進路を避けないまま、航路に進入して同船との衝突を招き、フ号の右舷側船首外板及び右舷側中央部外板に凹損を、サ号の左舷側前部外板に亀裂を伴う凹損、同部ハンドレールに曲損及び左舷側後部外板に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、水先人嚮導のもと、関門港六連島区の関門航路東方の検疫錨地から同航路に入るにあたり、航路を航行中のフ号と衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めた際、水先人に操船を任せたまま、航路外で同船の通過を待つなどしてその進路を避けなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、今後水先人に水先させる際には、船舶の安全運航を期するため、自らの意思を明確に示してその責務を全うする旨明らかにしている点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成11年7月8日門審言渡
 本件衝突は、航路外からの航路に入るサン デュークが、航路を航行するフンア トウキョウの進路を避けなかったことによって発生したが、フンア トウキョウが、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。


参考図
(拡大画面:53KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION