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おたがいが幸福に近づく道
 ケアする人もケアされる人も、おたがいが幸福になるためには、人間としての判断力や想像力が必要です。その人が苦しんでいると判断すれば(知)、私たちはその人と同じくらい苦しいと思う(情)。そして、その人の苦しみをできるだけ少なくしようと行動する(意)。この「知・情・意」=「良心」のはたらきこそが、ルソーのいう哲学でもありました。
 他人ばかりでなく、自分自身も幸福になるためには、自分も他者もおたがいの魂に敬意を払い、そのスピリチュアリティ=魂をケアし、尊重することが大切です。
 私たちのように傷つきやすく弱々しい存在には、「からだ」と「こころ」のケアだけでなく、魂の世話を考える必要があるということです。
 ケアの本質は「援助する」だけという一方的な営みではなく、相互的な営みであるということです。つまり、たんにケアする人がケアされる人を苦境から引き上げることではありません。ケアされる人が充分に自分の強さで生きていけるように支えることです。
 一方で、ケアする人も他者と関わり、他者とともに生きることが、自分の生に喜びをもたらし、生を豊かにすることになるのです。
 しかし、実際には自分の生と他者の生の間に恐るべき深淵が横たわり、魂が引き裂かれてしまうことがしばしばあります。
 
魂の世話をする
 そこで、私たちは「からだ」のことを「こころ」で考える、「こころ」のことを「からだ」で考えるセルフケアについて考えてみました。それはまた、「からだ」と「こころ」をこえた高次元の存在である魂の世話にもつながると考えたからです。
 そのためにケアする人の感情生活を豊かにする処方箋を書いてみました。
 ともすればケアは「がんばる」ことを求められます。「がんばる」ことにより「からだ」や「こころ」に“こわばり”が生じます。そして精神的ストレス、肉体的負担がかかり、ときには「うつ」といった病にかかる人も少なくありません。これらをほぐすためには、喜怒哀楽をはじめとする感情を素直に表現できるようにすることが重要です。
 そこで、この「セルフケア・ノート」では、自分について関心をもつと同時に、他のことに関心をもつ活動についても考えてみました。
 ケアする人やケアされる人が、それぞれの感情生活に目を向け、関心をもち合うことが大切です。そこからおたがいの関わりかたが質的に高まり、新しい人間のつながりが生まれてくるのではないでしょうか。
 
播磨靖夫(財団法人たんぽぽの家理事長)
 
 今回の「セルフケア・ノート」の作成はじめ、ケアする人のケア・サポートシステム研究委員会の活動に日本財団の支援があったことに感謝します。2000年、2001年の「ケアする人のケア」研究集会、2002年の「ケアする人のケア」日米フォーラム、全国の巡回フォーラムなどで、研究がいちだんと進み、「ケアする人のケア」に対する関心も高まりました。「聴くことの力」「対話のレッスン」などを学ぶ人もふえてきました。セルフケアをエンパワーメントすることから、支え合うコミュニティづくりへと発展することを期待しています。
ケアする人のケア・サポートシステム研究委員会







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